青春の無い堕落男と青春を忘れた外国人美女に幸福の鐘が鳴る

御影カガリ

序章

彼女に出会ったきっかけは、偶然と言えば偶然。いや、もしかしたら必然なのかもしれない。それとも、青春のいたずらなのかも、とか思ったり。


俺は小学生からソフトボールをやっていて、それは中学、高校、そして21歳になった今でも公式ではないが地域のチームで、1ヶ月に2試合くらいあるリーグ戦でプレイさせてもらってる。

そのチームの助っ人でやってきたのが彼女、アリシア・シャロン。近くの大学に通う留学生であり、俺の大切な恋人だ。


彼女はチームに所属している糸島さん、という女性のバイト先の後輩らしく、大学に入るまではオーストラリアに住んでいたとか。だが生まれはアメリカで親の仕事の都合でオーストラリアに移住したらしい。ソフトボールではピッチャーで、なんでもオーストラリアの強豪校でエースとして活躍していたとか。実際に試合で彼女の球を見て、かなり良い球を投げてるなってのは外野で守っていた俺でもよく分かった。


彼女との馴れ初めはその日の事だ。

試合後、俺たちはミーティングを終えて各自帰り支度をしていた時だった。

「あ、あのー、よろしでしょうか?」

つたない日本語で彼女が俺に声をかけてきた。

「ん?どうしましたか?」

「えっと、その、Do you have time left?」

まだ完全に日本語は覚えていないのだろう、英語混じりに質問をしてきたがすぐに帽子の影に隠れた顔がハッとした表情に変わった。

「OK、大丈夫ですよ」

俺は安心させるように笑顔で答えた。実際に笑顔を作るのは苦手なのであくまで自分なりには、だったが。英語の意味はこの後時間取れますか?とかそういうことだと言うのは流石に頭の悪い俺でもわかった。

「よ、良かったデス、まだ、日本語上手く話せなくて、ごめんなさい」

彼女はホッと胸をなで下ろした。

「いいよいいよ、何かお話?」

「はい!あまり、お話できなかったので!」

確かに彼女とは挨拶はしたくらいで試合中も全く話はしていなかった。あまり失礼な事を言って変に思われるのが嫌だったのと俺が極度のコミュ障なのが原因だ。後から聞いた話だが彼女も少しでも話はしたかったが俺が試合に集中していたから話しかけづらかったから、という理由らしい。そこまで真剣になっていたつもりは無かったんだけどな、所詮は地域のおっちゃん達との試合なんだし。


俺と彼女、シャロンは中庭にある木のテーブルの所で軽く話をしようと場所を移した。休日の朝一なので人も滅多に来ることがないから邪魔されることなく話が出来る。

テーブルに荷物を置くとそこで初めてシャロンが帽子を取り、間近で素顔を見ることが出来た。

鼻は俺たち日本人より少し高いくらい、目はパッチリとしているが優しい目、瞳は少し深い青色、日に照らされているので海のようにキラキラと輝いて見えた。そして髪は鮮やかな金髪。テレビでよく見る外国人歌手やタレントで見慣れた金髪なんかよりずっと綺麗に見える。そんな彼女にまじまじとみとれていると帽子をバッグに片付けていたシャロンが俺が見ていることに気づいた。不思議そうな顔をして俺の目を見ていたが直ぐに、何も言わずに彼女は優しく、太陽のように暖かく微笑んだのである。


その笑顔に俺の心は文字通り、奪われた。


話は特に他愛のないソフトボールでの事だったりお互いの好きな事だったりという内容だった。だが趣味が共通してカードゲームだということでかなり盛り上がり、時間を忘れて2時間くらいアプリのカードゲームを一緒にしたりして楽しんだ。

「あー、カガリ〜、わたしお腹空いたー、very hungryねー」

「もう12時回っちゃってんな、そろそろ帰る?」

「YES!あ、カガリのLINE、プリーズ!」

「うん、いいよー」

俺たちは連絡先を交換して近くのコンビニでそれぞれ弁当を買って別れた。帰ってからは彼女のことばかり考えていたのは言うまでもない。LINEを開くと、

『これからよろしくおねがいいたします』

という硬っ苦しい挨拶文が送られてきていて頬が緩んだ。


それから1ヶ月間、俺とシャロンはLINEで基本的に話をするだけの関係というのが続いた。俺は専門学生で就活中な上に土日の夕方からはバイトもしているのでLINEの返信が不定期だったが、シャロンは俺が返信すると必ず遅くても10分後には返信をしてくれていた。

そんなある6月の中頃、

『今度一緒にどこか遊びにいきませんか?』

と、お誘いの連絡先。

『いいよ、どこに行きたいですか?』

『カードショップに連れて行ってください』

女の子が、しかも外国人が行きたい場所がカードショップかよと心の中では思っていたが俺もカードゲーマー、当然OKを出し次の休みの日に一緒に俺の行きつけのカードショップへと行くことにした。


「Oh My God......」

シャロンは店へ入ると開口一番、感嘆の声を上げた。店に入る、というよりはビッグカメラの8階にその店はあるのでエレベーターで8階まで上がり店に着いた、というのが正しいかもしれない。

彼女はキラキラと目を輝かせてストレージに入ったカードを眺めている。ここの店は県内でも指折りにカードの在庫が豊富で遊戯王、デュエルマスターズ、ポケモンカードゲーム、マジック・ザ・ギャザリング、WIXOSS他なんでもカードが揃っている。その為、俺も友人と良くこの店には来る。更に店の奥にはデュエルスペースと呼ばれる机が52台もあり、毎週TCG(トレーディングカードゲーム)の大会が開催されている。

「すごい!カードがこんなにたくさん!Fantastic!」

「ここは知ってる中では1番カードが置いてあるからね、何か欲しいカードあるの?」

「YES!お店の人呼んでもらえる?」

彼女に促され俺は顔見知りの、少し小太りの店員を呼んだ。

「やあ、カガリさん。次はどのデッキ組むんだい?」

「んー、閃刀姫かなー、レイちゃん可愛いし」

「何だよお前もかよ、みんなすーぐ環境デッキに走りやがるんだから......ん?そっちの外人さんは知り合い?」

「うん、留学生のシャロンさん、学校は違うけどね。なんかストレージのカード買いたいんだと」

「お、何が欲しいんだい?」

ここで俺は彼女に先に何のカードが欲しいのかを聞いておくべきだったと後悔した。何故なら彼女は予想外のカードを、かなりの大声で叫んだのだから。一点の迷いもなく、その純粋な心がこの時、少し羨ましかったりもした。シャロンは店員に向かってこう言った。


「青眼の亜白龍!シークレットレア!3まい!」


シャロンはカードを丁寧にスリーブへと入れると子どものようにはしゃいでいる。

「嬉しい!ずーーーーーっと欲しかった!かっこいいー!!」

隣の台でデュエルをしていた男二人も他の台の中学生とか高校生らしき人たちもチラチラとこちらを見ている。「すげー」「シク3枚買う奴初めて見た」等の声がちらほら聞こえてくる。そりゃそうだ、俺だってこのカード3枚を、しかも現金で買う人なんて見たことない。諭吉何枚財布に入れてたんだよ。こんな事するのはYouTuberくらいだろう。

「ねえねえカガリ!デッキ今持ってる?デュエルしよ!デュエル!」

「一応2つ持ってきてるけど、どっちがいい?」

「葵ちゃんの方!」

葵ちゃんというのはデッキケースにプリントされたキャラクターだ。割とマイナーキャラなのになんで知っているのだろうか。

俺はデッキケースからカードを出しシャッフルして山場から5枚カードを引く。シャロンも同様に5枚引いて準備は完了した。

「先攻後攻はどう決める?」

「ジャンケンしよージャンケン」

「ほいほい」

じゃんけんの結果は俺の勝ち。先攻は俺でデュエルは開始された。


「ふえぇ、また負けた......」

「相性の問題もあるかな、仕方ないよ」

4戦4勝。シャロンのデッキは攻撃力の高い大型モンスターを展開して攻める青眼デッキ、対して俺はモンスター効果でカードをサーチしたり墓地から蘇生させたりしてソリティアをしつつ強固な盤面展開をするトロイメアSPYRALデッキ。いくら青眼が強いとはいえ、モンスター効果がかなり強力なのもありシャロンにとっては少し相性が悪かった。

「カガリ強いね、今度教えてよ!私カガリ倒したい!」

「俺でいいならいつでも教えてあげるよ」

「やった!センキュー!」


その次の日、早速LINEで、

『デュエル教えてください』

との連絡。

『どこで?今日は学校あるからショップにら行くのは無理だよ』

平日なので昼から授業があった。というより返信しているのが既に午後の3時前、授業中だった。

『何時まで学校ですか?』

『20時前まで、自転車だからショップまで20分以上はかかる』

俺の通っている学校では1番遅い授業までなると夜遅い時間まであるのだ。朝一番早い授業が9時20分なので丸一日授業となると約12時間、学校に居ることになる。

『私の家に来てください』

心臓がドキッとした。多分シャロンは日本語が打てないからLINE英語通訳か日本語通訳を使っているのだと思うが流石に間違いだろう。

『家ってシャロンさんの?』

一応聞いておく。だが本当だったらどうしよう。前もってシャロンは一人暮らしだというのは聞いていた。つまりは二人きりになるということだ。

『はい、そうです。ご飯は用意しておきます』

どうやら間違いでは無いようだ。しかも夜ご飯まで用意してくれるとはなんて優しいのか。俺も男なので様々な想像が頭に浮かぶ。

いやいや、変な想像は駄目だ。

『わかりました、では近くのコンビニで待ち合わせしましょう』

こうして俺はシャロンの自宅へと招待されることとなった。嬉しいか嬉しくないかで言えばもちろん嬉しかった。授業中顔がにやけっぱなしで友達から、

「顔がいつも以上にキモいぞ」

と言われる始末。仕方ないだろう、あとキモいとは何だ。俺は授業が終わるや否や急いで待ち合わせ場所までチャリを飛ばした。


中章へ続く


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