第4話:長い夜の季節
「じゃ、この次はいい知らせが出来るようにするよ」
とにかく僕はもう一度受験しなければならない。
白い息を吐き出て歩きながらコートの襟元を押さえた。
風邪やインフルエンザは受験生の大敵だ。
同じように白い息を吐きながら、彼も眼鏡の奥の目を細める。
「君は実力があるから来年はきっと受かるよ」
本当なら今年も受かっていた。
それなのに、ゴパゴパした薄っぺらい不合格通知を二度も受け取らされた。
再び重く沈んできた僕の胸の内を見透かすように彼の手が肩を叩く。
「来年はきっとどこの医大でも疑われないように男子学生を多目に取るはずだよ」
「力いっぱいやるしかないね」
医大に入りたければ、他に選択肢は無い。
「僕もやっぱりプロを目指す」
小さいが、はっきりと響く声で彼は告げた。
「男流と言われて終わるのは嫌だ」
歩きながら僕らは大通りに出て、彼の銀縁眼鏡のレンズにきらびやかにライトアップされたクリスマス仕様の街がパッと映し出される。
「本物のプロになりたい」
日本ではキリスト教はさほど根付いていないけれど、一番夜の長い季節を少しでも明るくしたいかのように街を人工の光で飾り立てるのだ。
「今まで挑戦して挫折した中には僕よりもっと才能のある人はたくさんいた」
目に映る眺めは虹色に輝いているのに、流れてくるアスファルトの匂いはどこか凍った風に鼻にツンと来て、歩みを進める体はどんどん冷えていく。
「だからこそ、その人たちの分まで僕が第一号になりたいんだ」
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン……。
行く手の駅から電車の通り抜ける音が響いてきた。
「男でもなれる、できるってね」
仕事帰りらしいスーツにコート姿のサラリーウーマンたちが次々に僕らを追い越して駅へと急いでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます