第二十二話 二人の夜



「ここが朝陽の部屋かー。思ってたより、ずっと綺麗でハイテクな感じだね」


 帰宅して離れに案内すると、千夜はキラキラとした眼でパソコンやゲーム機を見ている。


「お腹空いたでしょ?何か作るから待っててね」


「え?朝陽、料理できるの?」


「うん、できるよ。簡単な物だけだけどね」


「凄いねー。私は料理得意じゃないから、尊敬しちゃうよ」


「料理は馴れだよ。千夜も回数をこなせば、美味しい物が作れるようになるはずだよ」


「分かった、私頑張るよ!いっぱい練習して、朝陽にいっぱい美味しい物食べさせてあげるね!」


「うん、楽しみにしてるよ」


 ………

 ……

 …


「ご馳走様でした。はー、凄く美味しかった。母上の料理と同じくらい美味しかったよー!」


 千夜は満足そうな顔をして褒めてくれた。


「千夜のお母さんは料理上手なんだね」


「うん!母上はご飯処をやってて、凄く美味しいって有名なの!」


「へー、そんなに美味しいなら、興味あるな」


「じゃあ、今度行ってみる?母上に朝陽を紹介したいし」


「そうだね、俺も千夜のお母さんに挨拶したいし、今度一緒行こうか」


「うん!楽しみにしててね!」


「さて、もう遅いから、そろそろ寝ようか」


「えー、ちょっとくらい遊ぼうよー!昔みたいに、人間のゲームやりたいよー!最近のゲームは凄いって、友達が言ってたから、私もやりたいよー!」


 千夜はまるで子供の様に駄々をこねる。


 その姿は凄く可愛いが、ここは心を鬼にしなければいけない。


「ワガママ言わないの。起きたら付き合うからさ、今日はもう寝ようよ」


「えー、遊ぼうよー!ちょっとでいいからさー!」


「早く寝ないと、ゲームさせてあげないからね」


「ぶー……分かったよ……」


 千夜は渋々諦めてくれた。


「素直でよろしい。じゃあ、布団を敷いて寝よう」


「あ、朝陽。何か着る物を貸してもらえないかな。さすがに、このままじゃ寝られないから」


「あ、そうか。じゃあ、千夜には大きいだろうけど、これを着ればいいよ」


 俺は愛用のスエットの上下を千夜に渡した。


「ありがとうー。えへへ、なんだか朝陽の匂いがする気がするよ」


「ははは。洗ってあるから、それは洗剤の匂いだよ」


「分かってるよー!もう、ムードがないなー」


「ごめんごめん。さ、早く着替えて寝よう」


「ねえ、朝陽」


「ん?」


「着替えてるところみる?」


「ちょ、何言ってるの⁉︎」


「ふふふ、冗談だよ。ちょっと揶揄っただけ」


 そう言って、千夜は着替えに行った。


 まったく……ビックリして心臓がバクバクしてるよ……。


 そりゃ俺だって男だから気になるけど、もっとこうムードがある時に……。


 あ、先にムードぶち壊したの俺だったわ……。


「お待たせー!どう?似合う?」


 千夜はその場でクルッと一回転し、スエット姿を見せてきた。


「良く似合うよ。着物姿もいいけど、ラフな格好の千夜も好きだな」


「本当?えへへ、嬉しいなぁ。人間の服、初めて着たけど、凄く動きやすくて気に入ったよ」


「気に入ってくれてよかった」


「人間の服、ずっと憧れてたんだ。種類もいっぱいあるし、凄く可愛いし。それが着られると思うと、凄くワクワクするよ」


「千夜に似合う服、何でも買ってあげるから、遠慮しないで言ってね」


「うん!」


「さあ、布団も敷いたし、もう寝よう。明日はやる事が多いしね」


「そうだね、寝ようか」


 そう言いながら、千夜は離して敷いていた布団をくっつけた。


「……えっと、千夜さん。何をしてるんでしょうか?」


「何って、布団をくっつけたんだけど」


「……何でくっつける必要があるんですか?」


「何でって、夫婦なんだから寄り添って寝るのが普通でしょ?」


「いや、確かに夫婦になるけどさ、今はまだ夫婦じゃないんだから、さすがにくっついて寝るのはまだ早いよ!」


「もう、朝陽は堅いなー。私がいいんだから、一緒に寝よ?」


「……どうしても一緒じゃなきゃ駄目?」


「うん、一緒じゃなきゃ駄目。だって、朝陽の温もりを感じたいんだもん」


「分かったよ。じゃあ、一緒に寝よう」


「やったー!朝陽、大好きー!」


 そう言いながら抱きついてきた千夜を抱きしめ、頭を撫でた。


 千夜も俺と一緒で、ずっと寂しかったんだな。


 だからこんなに甘えてるんだろう。


 それなら、それを受け止めるのが男の甲斐性だ。


 俺と千夜は布団に入り、目を閉じ眠りについた。


 の、はずが……。


 寝相の悪い千夜が絡みついてきて、ドキドキして眠れない……。


 これは徹夜だな……。


 熟睡する千夜とは正反対に、俺は眠れぬ夜を過ごす事となった。

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