乾杯
勝利だギューちゃん
第1話
年が終わる。
うちの会社は、今日が仕事納めだ。
フロアの掃除をする。
「こんな、ものか」
(今年一年、お疲れさま)
「おーい、出かけるぞ」
「今行きます」
上司の声に返事をし、俺は鍵をしめて部屋を出た。
今日は忘年会。
正直、乗り気ではない。
学生の頃は回避できたが、社会人ともなるとそうはいかない。
これも、仕事のうちだ。
でも、やはり俺には無理だ。
忘年会では、社長の長い挨拶が終わり、
乾杯をする。
そのあとは自由。
俺は、皆が盛り上がっているのを横目に、
気付かれないように、外へ出た。
「ようやく自由だ」
俺は心の中で叫んだ。
そして、帰路に着いた。
「先輩、待って下さい」
後から、後輩の女子社員が追っかけてくる。
「ふぅ、追いついた」
女子社員は、息を切らしている。
「先輩、ひどいです。置いてくなんて」
「置いてくって・・・」
「私も、連れてって下さいよ」
「どこに?」
「どこにって、どこか違う店に行くんでしょ?」
「いや、帰るだけだよ」
「誰もいない家にですか?」
「失礼な。リリィがいる。」
「先輩、同棲してるんですか?」
「猫だ」
彼女は、ふき出した。
「でも、どうして君がここにいる」
「先輩と同じ理由ですよ」
彼女の名前?名誉のためにふせておく。
「じゃあ、付き合ってくれません」
「どこへだ?」
「私の行きつけのバーがあるんです。そこで、2人で飲みましょう」
俺は、彼女に腕を引っ張られる。
こういう時の、女の力は強い。
「着きましたよ。先輩」
「随分、こじゃれてるな」
中へ入る。
声はしない。
誰もいないのか?
「先輩、待っていてくださいね。今作りますから」
「私の、特製ドリンクです」
「この店は?」
「私の両親が、普段営んでいます。今日は貸し切りです」
「貸し切り?」
「ええ、先輩と私のです」
しばらくすると、女子社員がドリンクをふたつ持ってきた。
「お待たせしました」
「これは?」
「大丈夫、アルコールも、炭酸も入っていません」
この子は、知っていたのか・・・
「先輩、今年はお世話になりました」
「こちらこそ」
「来年も、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「他に言う事ないんですか?」
彼女は、にこやかに答える。
「あっ、悪い」
「愛かららずですね、でも、そこが・・・」
「そこが?」
「何でも、ありません。乾杯しましょ」
「そうだな」
「乾杯」「乾杯」
俺は彼女と、ふたりきりでグラスを重ねた。
(先輩、鈍感すぎますよ。)
乾杯 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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