第5話
ほどなくして医者やらナースやらが押し寄せてきた。
なんだかしばらく扉の外で騒がしくしていたが、記者が入るの入らないので揉めたらしい。
そんなに僕の病気は面白い記事にできるのだろうか……?
しかし驚いたのはナースにしても医者にしても、以前と様変わりしていたことだ。
前任の先生は、今は別の病院にいるらしいし、他の看護師たちにしても基本的に配属場所が変わってるから驚いたかもしれないと説明された。
問診を受けたり色々話を聞いているうちにやっと事情がはっきりしてきた。
要するに、僕はタイムスリップをしたようだった。
コールドスリープと呼ばれる人体を冷凍する技術が僕に適用され、今回の僕の病気に対する医療が確立されてから僕は解凍されて治療を受けたらしい。
凍結されてから解凍まで、僕のケースだとおよそ3年近く経っている。
病気の分野では初動が大事とはよく言われることだ。
もっと早く発見できていればよかったとか、病気が進行しなければとか。
逆説的に、人体を凍らせて時間を止めてしまいえばいいという発想になるのは自然な流れだった。
かなり前の時点から冷凍自体は可能なことだったため、『どうやって破壊せずに解凍するのか』ということが問題の焦点だったという。
そして、意識が混濁したまま凍らされた僕は、気付かぬうちに未来に来ていた。
つまり、タイムスリップしたも同然なのだった。
「試験的な試みだし、成功例が出たなら国としても医師的にも美味しいから、あとは法令の手続きだけだったんだよね。戸籍をどういう風にするのかとかね。今後のことを考えると。だって、君が2010年生まれだとわかっても、これからの時代は君が生年月日で年齢がわからなくなるってことなんだからね。誕生日を祝うのは形式的なものになるかもしれない」
また、医師はざっくりとこんな説明をしていた。
「当時の医療では君の病気は治せなかったんだ。だから、一旦君を凍結して、解決策が整うのを待とうとしてたんだ。冷凍保存することを、コールドスリープって呼ぶんだ。単なる冷凍と解凍だと組織が破壊されるから、非破壊的コールドスリープだね。本来なら君が望むか望まないかを判断するべきだったんだけど、当時既に判断能力が低下していたからご両親に判断を委ねて、結果、技術として試用段階に入っていたコールドスリープを使ったんだ。法令の整備も間に合った。君からすればタイムスリップだろうね。世界初のタイムスリップ経験者として本とか書いたらいいかもしれない」
まるでSFの世界だ。
なにがどういう原理なのか僕にはわからなかったが、まるでブザービーターみたいだなと思った。
だって、すでに時間切れなのに、最後に無理やり帳尻を合わせたような逆転勝利なのだから。
目覚めた未来の季節は初夏。
僕がなんとなく記憶しているのは夏の半ばあたりぐらいまでだから、これからまた夏を味わうことになるらしい。
なんだか夏が倍増したような感じだ。
僕はふと母に尋ねる。
「僕が目を覚ました時に、部屋に人がいたよね」
当たり前でしょとばかりに母は頷いた。
そんな顔をされても僕にはあれが誰だかわからないのに。
「誰なの、あの人」
妙な間を置いて母は大声で笑った。
あれが誰だかわかってないのがよほど面白かったらしい。
ロングヘアーの年上の美女は、予想外の人物だった。
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