第4話

 僕は目を覚ました。

「……ん?」

 病院で起きた……のだが。ちょっとおかしい。

 なんだかいつもより視界がクリアなのだ。

 とは言ってもまだぼんやりしているけど。

 なんとなく身体を起こしてみた。

ってて……って、あれ? 身体起こせた、な?」

 身体を起こせたのも、妙な話だった。病気が悪化してからは身体を起こすのも一苦労で、看護師か家族の助けが必要だった。

 リクライニング機能を使うことの方が多かった。

 僕はふと見舞い品の山がさらに高くなっていることに気付いた。

 というか、もはや病室を埋めるような有様だ。

 さらに、そのなかでもひときわ目立つキラキラと金色に輝いた尖っているものが見えた。

「なんだあれ。トロフィーか?」

 ――もしかして絢が優勝したのか?

 優勝して、トロフィーを置いていってくれたのかもしれない。

 となると僕は数日間寝こけていたのだろうか。

 ――めちゃくちゃ眠ったから体調が回復してるのか?

 そんな単純な病気だったっけと疑問に思う。

 周りを見回すと、誰かが椅子に座っていた。

 黒髪ロングの女性だった。ちょっと年上のように見える。

 彼女はこちらに気付いていた。

 読んでいたのであろう文庫本を浮かせたまま、たぶん呆然とした様子で僕を見つめていた。

 ――なんでなにも言わないんだろう?

 たぶん木下先輩かな。

 入院前にもらった小説読んでないって言ったら悲しむかもしれない。

「木下先輩?」

 僕が声をかけると彼女は肩をびくりと震わせた。

「……あれ?」

 よく見えないけど、

 おそらく木下先輩じゃない。

 なんとなくわかるんだけど、纏う雰囲気がどこか違う。

 綺麗な大人の女性のようだが、僕の知り合いにこんな人はいない。

「…………」

 彼女はゆっくりと立ち上がり、ツカツカとこちらに歩いてくる。

 僕は間違えて『木下先輩』と呼んだことを言い訳する。

「ごめんなさい。えっと、知り合いに似てたもので」

「…………」

 返事の代わりに鼻をすする小さな音が聞こえた。

 女性はベッド脇に立つと、ナースコールを押した。

 近くに立っている女性からは制汗剤より断然上品な香りがした。

 それが香水によるものなのかシャンプーによるものなのかの区別はつかなかった。

「彼、起きました」

 やはり顔ははっきりとは見えない。

 大学生ぐらいだろうか?

 彼女は僕のことを見つめていた。

「…………」

 いや、そんなにじっくり見つめられても……。

 だけど、なんだか彼女が不機嫌そうなのはわかった。

「えっと、あの、僕なにかしました?」

「気付いてくれるかと思ったけど。あれか。まだよく見えないのか」

 その通りなんだけど……あれ?

 なんか声に聞き覚えある気がする。

「また今度来るね」

 そう言って、混乱する僕を放置したまま彼女は出て行ってしまった。

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