力強い恋

尾形昭

第1話デート

平成2年(1990年)高田日菜子は、浅見輝幸を待っていた。初めてのデートだった。日菜子は24歳だった。

 待ち合わせの時刻になっても、輝幸は来なかった。来てくれないのかも知れないと思った。ドキドキしながら待っていた。当時は、携帯電話が普及していなかった。ただ待つしかなかった。

10分経った。もう来るだろうと思った。

20分経った。どうしたのかなと思った。

30分経った。帰ろうかと思った。

40分経った。来た。ここで怒りが込み上げて来た。

「ごめんなさい遅れて。だいぶ待ちました」

「ええ、来ないのかと思いました」

「帰っちゃったかなと思ったけど、一応来てみました」

 この言葉に日菜子の怒りは倍増した。

「来なくても良かったのに」

「まあ、そう怒らないでください。どこへ行きましょうか」

「私、帰ります」

「そんなに怒らないでください。謝りますから。メキシコ料理はお嫌いですか」

「別に」

この近くに『ロシータ』って言うメキシコ料理の店が有るので、そこにしませんか」

「・・・」

 店内で

「なかなか良い店でしょう。お酒は飲まれますか」

「ええ、少しだけ」

「じゃあ、ビールにしよう。ビール2つ」

 高田日菜子は、宮崎県出身だった。外資系生命保険会社に勤めていた。高校時代はバレーボール部に所属していた。身長165センチ、体重50キロ、ファッションは若々しい華やかなおしゃれな服が好きだった。

 趣味は茶道とジャズダンスを習っていた。身長が高いのと肩幅が広くウエストがキュッと締まっていてお尻が大きかったので、体型的には目立っていた。

 浅見輝幸は、大阪府出身だった。社員6名の釣り具の貿易会社に勤めていた。身長175センチ、体重61キロやせ型で、なで肩だった。ファッションは、ヨーロピアンエレガントが好きで、スーツも細身でウエストが体にぴったりのを着ていた。

 輝幸は、日菜子を会社で2度見かけた。日菜子は輝幸の会社に、深瀬と言う人に生命保険に入ってもらうために、通っていた。深瀬は保険になかなか入らないので手こずっていた。

 そのために、浅見の会社に何度も通っていた。

「メキシコ料理は辛いですよ、辛いのはお好きですか」

「はい、大好きです。キムチとか大好きです」

 高田日菜子は、大柄でほっそりとしていた。カワイイ顔と抜群のスタイルの良さだった。赤のトップスに白のギャザーパンツで初夏らしい装いだった。

 大柄な彼女が赤を着るとすごく目立った。待ち合わせ場所でもひときわ目立っていた。広場に花が咲いたみたいだった。

「うちの会社によく来るのは深瀬さんに生命保険に入ってもらうためですか」

「ええそうです」

「深瀬さん入ってくれそう」

「いいえ、のらりくらりと逃げてばかりで全然入ってくれません」

「あははは深瀬さんらしいや」

「ウンウンと話を聞いて、入ってもらえると思って次に来たら全然態度が違うんです」

「深瀬さんに適当にあしらわれているんですよ」

「そうかも知れませんね」

「相手にしない方がいいですよ」

「でも、浅見さんにも会いたいし」

「僕とはこれから毎日でも会えるじゃないですか」

「うまく行ったらね」

「なかなか厳しいなあ、頑張らなくっちゃ」

「私のどこが気に入ったんですか」

「カワイイとことスタイルのいいとこ」

「ところで、高田さんはどちらの御出身なのですか」

「宮崎県です」

「九州の女は男を立てるとか」

「男を立てるふりをしているだけです」

「聞いてみないとわからないですね」

「浅見さんは」

「大阪です」

「宮崎女と大阪男ですか」

「芋姉ちゃんとふぬけ男ですね」

「あっこれは例えの話で、高田さんを芋姉ちゃんと言ったわけではないのです」

「私、帰ります」

 高田日菜子は怒って帰ってしまった」

 翌日浅見は深瀬に高田日菜子の会社の電話番号を聞いた。

「どうした、くどくのか」

「いえ、生命保険に入ろうかと思って」

「なかなか気が強いぞ」

「いえ、そんなんじゃなくて」

 浅見はさっそく日菜子に電話を掛けた。

「日高タックルの浅見と申します。高田さんいらっしゃいますでしょうか」

「お電話代わりました高田でございます」

「こんにちは浅見です」

「ガシャ」

 いきなり電話を切られた。また、電話を掛けた。

「何の用ですか」

「生命保険に入りたいのですが」

「いつ、お伺いすれば良いのですか」

「6時にこの前待ち合わせたところで」

 浅見は15分早く行った。日菜子は40分遅れて行った。

「お待たせしました。保険に入って頂けるそうで」

 喫茶店で仕事の話になった。浅見は安いガン保険に入った。

「ご加入ありがとうございます。それじゃあ居酒屋にでも行きましょうか」

「怒ってないのですか」

「怒ってたら来ませんよ」

 ここで改めて、輝幸は日菜子をカワイイなあと思った。髪型は何と言うのか知らないが丸い髪形で、丸顔に良く似合っていた。その髪を段々にカットして束になって揺れる髪が良く動いた。

「浅見さんはおいくつですか」

「僕は26です。なんだか僕に興味が出て来たみたいですね」

「そりゃあ、恋人候補の第1番ですもの」

「嬉しいなあ、頑張ろう」

輝幸「昔からケンカした方が仲良くなると言うじゃあないですか」

「そうですねえ、私もその気が無かったら、ここへ来ませんから」

「良かった機嫌が直ったんですね」

「私もカワイイとスタイルがいいとほめてもらいましたから」

「ほめ言葉に弱いんですか」

「弱いのです。ほめられたら気持ちがふわっとなるのです」

「じゃあ、そろそろ帰りますか。家はどちらですか」

「阪急電車の塚口駅です」

「では梅田ですね。梅田までお送りしましょう」

輝幸「今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、すごく楽しかったです」

「随分親しくなれましたよね」

「ええ、恋人候補どころか、恋人になっちゃいました」

「お宅までお送りしますよ」

「塚口からバスに乗るの」

「ここです、お茶でも飲んでいってください。むさくるしい所ですが」

 日菜子はお茶をいれた。お茶を飲んで二人は見つめ合った。二人は熱いキスをした。




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