甘味食べました
「あ、鈴音!これとても美味だぞ。妾のお気に入りの甘味なのだ。この間貴継が買うてきてくれたのでな。もうすぐ鈴音が来ると思うて取っておいたのだ」
そう言って、差し出された皿の上に乗っていたのは、白と茶色の小さめの丸いものが二つ。
そしてその隣には、赤い小ぶりの花をかたどったものも。
「……
「白と茶色のは饅頭だ。中にのう、小豆を煮てつくった餡子を包んで蒸したものだ。……そしてな、そちらの花の形をしているのは、練り切りという目でも楽しめる甘味だ!どうだ、凄いだろう!?」
キラキラと目が輝いているのは、それだけ甘味が好きなのだろう。
一緒に渡された竹でできている楊枝で、お饅頭を一口大に切る。すっと切れ、刺した感触もふわりとしている。
「…………!」
茶色いお饅頭を口に入れた瞬間、ふわりと鼻から抜けていく小豆の香り。それを包む周りの皮はほのかに甘い。
けれども、口に広がるその甘さはくどくない。
「美味しい、です!!……え、これ甘すぎなくてとてもいいですね」
もう一つの饅頭は、茶色いものより甘さはなくすっきりしている。
こちらは少し餡子が甘めのようだ。
「この温かい茶を飲むといい。この間買ってきた、美味しい茶葉で妾が先程入れたのだ!お茶自体は甘くはないのだが、甘味と一緒に飲むのが美味だぞ!ほれ、飲んでみい」
「…………っは。これ、凄く合いますね」
甘さいっぱいだった口の中に、お茶独特の苦味と甘みが広がる。だがそれは、嫌な苦味ではない。
お茶の甘みと甘味の甘み。似通っているが全く違うそれらは口の中で混ざり合い、さらに互いの旨みを引き立たせている。
自信満々に美味しいから飲めと言った
……これは、本当に美味しい。
以前約束した『甘味を食べる』が実現した。
ちなみに山吹はと言うと、このままでは鈴音の布団が買えないという事で買いに行っている。
自分で選べないのはかなり残念ではある……が、出歩くと厄介事しか起きなさそうなので仕方ない。
一応絵柄とか手触りとか、可能な限りは希望を伝えているので問題ない。それに山吹が買いに行くのだからその
そんな訳で、
お茶会をしている部屋は、お店の二階にあり、この階は全て住居空間になっているようだ。一階がお店で、二階が家といった使い分けをしているらしい。
この部屋は
寝具周りは様々な動物を模した“ぬいぐるみ”--人形っていったら違うと訂正された--が所狭しと置いてあり、枕の周りを囲んでいる。
なんでも、貴継さんが泊まりがけで出かけた時はここで寝ていて、一人寝が寂しいので沢山置いたとのこと。
……もちろん、いつも使っている二人の寝室は別の部屋にある。
ここは、一人寝用の部屋という事だ。
また、今座っている椅子に敷いてある“くっしょん”--これも座布団と言ったら訂正された--も、なんの花か解らないがお花の形をしていて可愛い。
座るのに少し躊躇した。
「……ん!こちらの練り切りはとても甘いですね!こちらも、お茶ととても合います。本当に、凄く美味しい……!」
「だろうだろう!そこの甘味はな、とても美味なのだ!」
「お店の場所教えてください!……落ち着いたら、山吹さんと買いに行きたいです」
「では、四人で行かぬか!?場所を教えるのは苦手でなあ…………妾も貴継と一緒でないと街を歩けぬ。道を覚えられぬので、すぐ迷子になるのだ……すまぬ」
この街ですら迷子になるのだとか。
……確かに、それは貴継さんも山に行くなって言うはずだ。
という訳で、後日--この騒動が落ち着いたらの話だが--四人で甘味食べに行く事になった。二人で決めた為、貴継と山吹は知らないのだが。
後で話したとしても二つ返事で許可が出るだろう。お互い一緒に行くのだから何も問題ないだろう。
ガシャガシャ
ふいに、下のお店からあの音が聞こえた。
どうやら客か、郁麻なのかはここからでは解らないが扉を開けて、店内に入って来たようだ。
「すまぬ。来客のようだ。店を見てくるから、待っててくれ」
そういって
まだ一口ずつ残っているので、ゆっくりと味わいながらいただくことに。
……お店に降りていっても役に立てることはないだろう。
「鈴音ー!郁麻と山吹だぞ!」
下から
多分、買い物を終えた山吹が帰ってくるのと、郁麻が衣装を届けに来るのと、途中で合流して一緒に来たのだろう。……もしくは偶々ばったり遭遇したのかもしれない。
残っていた甘味を慌てて口に放り込む。行儀が悪いかもしれないが、咀嚼しながら部屋を出て目の前の階段を駆け降りる。
そして、降りた先にある扉を開く。
「鈴音……食べ終えてからでよかったんだぞ」
「……甘味も山吹様もどっちも後回しに出来なかったんですね」
「……甘味は持ってきても良かったのだぞ?」
三者三様なご意見をいただいた。
が、皆さんの顔には一様に『食い意地はってる』と書いてあるかのようだ。
早く山吹さんを出迎えたいのと、美味しい甘味を食べたいのとどっちも諦められなかったのだから仕方がない。
「ほら、鈴音。口の横に餡子がついてる」
山吹に親指でそっと拭い取られ、そのまま彼の口へその指が運ばれる。
そして、ペロリと指についた餡子を舐めた。
なんでもないようにした山吹が少し恨めしい。やった本人は何事も無かったかのようだ。
かあっと顔に熱が集まり、頬が赤くなる。鏡を見なくてもすごく真っ赤なのが解る。
こちらを見る山吹は、何故顔を赤く染めているのかが理解できないようだ。
とても不思議そうにしている。
「お主達イチャつかないで貰えるかのう……。貴継が居なくて寂しい妾の心に塩を塗っておるのか?この間から、お主らわざとか?わざとなのか?」
「本当ですよ。御二方、それはわざとなのですか?……それともこの場にいる唯一の独り身である僕への当てつけですか?」
こちらとしてはそんなつもりは一切無い。
わざとでもない。
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