4-5

 ふわふわとした気持ちのまま、駅からの道を歩いている。

 初めての勝ち越し、どころか二勝すれば昇段だった。

 そして、最終局負けた。次点になった。

 次点は、二回とれば四段になる権利が生じる。目標だった勝ち越しも達成できた。良かったような、悔しすぎるような。

 家に着いた。僕の部屋から、賑やかな音が聞こえてくる。

「美鉾、いるのか」

「あ、兄様、おかえりなさい」

 美鉾は、パソコンで何かの中継を観ていた。将棋棋士たちが、竹馬に乗りながら詰将棋を解いていた。

「なんだこれ」

「知らなかったんですか? きょうは詰将棋大運動会ですよ」

「またすごい企画を」

 10メートルごとにゲートがあり、そこに詰め将棋の問題がある。解かないと次に進めないし、竹馬から落ちたら前のゲートまで戻らなければいけないようだ。

「兄様、今日は……お疲れさまでした」

「うん。また来期頑張るよ」

「あと……私、ずっと探してた答えがわかったんです」

 あの日以来、美鉾は少し変わった。思いを吐き出して、少し楽になったのだろう。そして、以前のようにパソコンに向かうようになり、たまにネタを投稿することもあった。

「そうなのか」

「私、ネタ将になりたいあまり、ネタ将になろうとしていたんです」

「……ん?」

「多くの人を見ていて、気づいたんです。本当に面白い人は、ネタ将になりたがっているんじゃない、ネタ将になってしまってるんだって。否定しても否定してもネタ将であることから逃れられない……むしろ、否定することによってネタ将になるんです」

「お、おう」

 正直まったく意味が分からなかったが、美鉾がいい表情をしているので、それでいいんだと思った。

「じゃあ、楽しめそうか」

「はい」

 そして夜、そんな妹の気持ちをくんだかのような大喜利が、始まった。

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