僕の妹はネタ将

清水らくは

#1 棋士のしていそうな副業

1-1

 暗い。電気を消したから、ではない。そもそも、電気を消したのか覚えていない。

 対局中から、すでに目の前が暗かった。局面は大差だった。

 家に帰ってくるまでも、ずっと暗闇だった。いつの間にか眠っていた。

 目が覚めたのは、一筋の光に照らされたからだ。ぼんやりとした頭では、それが何なのかは理解できない。ただ、光自体に違和感はなかった。

 四角い光。パソコンがついている。無意識でつけたのだろうか? だとしてもスリープになっているはずだ。椅子に、人影がある。

「いいわ。とてもいいわ」

 聞き覚えのある声。いや、声質はそうなのだが。調子は少し違う。常に落ち着いていて、透明感のある声が特徴的だが、少し早口で、よどみがあるように思った。

美鉾みほこ?」

「……お兄様」

 暗くてよくわからないが、とても険しい目つきをしているように見える。いつも朗らかな、かわいい妹とは別人だ。

「何してるんだ」

「夢です」

「は」

「お兄様、今は夢を見ています。美鉾は何もしていません」

「そうか、これは夢か……って、なんでだよ」

 体を起こす。美鉾の体が少し固まった。

「怒ってますか?」

「状況次第だよ。なんで僕のパソコンを使っていたの」

 美鉾は口をとがらせていたが、観念したのかため息をつき、眉をきりっとさせた。

「私、パソコンを持っていないでしょう」

「スマホがあれば十分って言ってたもんな」

「でも、駄目でした。容量が足りなくて」

「容量? 通信制限?」

「違います。写真で……」

 すぐには意味が分からなかった。写真で容量が足りない。つまり、何ギガも写真があるということ?

「お前、そんなに写真撮ったっけ」

「私はまだ一枚も撮れてないんです。他の方のものを保存していたら」

「どんだけ保存したんだよ……」

「でもまだまだ足りないんです。ですからパソコンをお借りしようと」

「うーん。別にそれならそうと言ってくれればいいのに」

「そういうわけにはいかなかったんです……」

 やっぱり何かおかしい。僕は、モニターを覗き込んだ。

「えっ、これって……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る