第11話熱を持つ身体<2>

「あ……あっ……ランスさん……!」

「ユウ、可愛いよ」


 ズボンと下着を奪われた優は、ベッドに優しく横たえられていた。上も触って下さい、と優はランスに頼んだが「風邪を引くといけないから」とシャツは羽織ったままだ。モデルになっている間に何度も肌を見せていたが、こういう場面で恥ずかしがらない程、優の心は丈夫に出来ていなかった。

 ズボンを脱がされ、下着を取られる時、優は無意識に足を閉じてしまった。


「ユウ? 脱がないと」

「でも、恥ずかしい……」

「平気だよ。僕しか見てない」

「でも……」

「気持ち良くなろう、ユウ」

「……っ」


 おずおずと足の力を抜くと、ランスは手際良く優の下着を奪った。慣れてるのかな、なんてことをぼんやりとする頭で優は思ったが、そんな考えは与えられる刺激によって吹き飛んでしまった。


「あ! ランスさん!」

「ユウ、力を抜いて?」


 ランスが優自身を大きな手で包んでいた。それを上下に擦られると、優の口から甘い声が漏れる。


「あ、やっ……駄目……」

「こんなにして、辛かっただろう? 早く出すと良い」

「待って、ランスさん、もっとゆっくりして……」

「ああ、ごめんね? 痛かった?」

「あっ……それ、気持ち良い……」

「自分でする時もこんな感じ?」

「聞かないでっ、下さい……」


 ぐちぐちと濡れた音が部屋に響く。まるで鼓膜まで犯されているような感覚に、優の息は上がった。


「あ……ん……あ、あ、あ……もう、出ちゃう……」

「出して、ユウ。きっと落ち着くよ」

「あ、ランスさん……あ、っ……」


 ランスの手の中で、優は欲を吐き出した。全身の力が抜けて、ぐったりとベッドに沈む。けれども、まだ体の熱は治まりそうも無かった。


「は……っ」

「ユウ、こっちは平気?」

「あ!」


 後ろに触れられて、優は悲鳴を上げた。そこはぐっしょりと濡れていて、更なる刺激を求めて疼いている。


「恥ずかし……見ないで下さい……」

「ここに、触ったことはある?」


 つ、と指でなぞりながらランスが訊いた。優はまた頬を赤らめて答える。


「無い、です。やり方、分からないから……」

「じゃあ、してあげる。力、抜いて?」

「い、良いです! そんな……」

「良いから……僕に任せてほしいな」


 つぷ、と中に圧迫感が走る。ランスの指が入ってきたのだと理解するのに時間がかかった。初めての感覚に、優は思わず下腹部に力を入れてしまう。


「……っ、あ……」

「ユウ、リラックスして? モデルの時みたいに」

「あ、や……ん!」


 空いている手で臍を撫でられ、身体の緊張が解けた。その瞬間をランスは見逃さない。中の長い指を器用に二本に増やした。


「っあ! 広がるっ……!」

「良い子だねユウ。さあ、気持ち良いところ探そうね」

「気持ち良いところ……?」


 ランスは中の指を、まるで何かを探すかのように慎重に動かした。優は与えられる刺激に、思わず手の甲を噛んだ。

 やがて、ランスの指がある一点に当たった。優の腰が浮くほどの快感が全身を走る。


「あ! 何したんです、か……?」

「あったよ。気持ち良いところ」


 言いながら、ランスはそこを集中的に攻めた。優の口からは、抑えられない声がひっきりなしに出ている。


「ああっ! ランスさん、変になるっ!」

「変になって良いんだよ? 我慢しないで出して?」

「あ、一緒にしたら駄目……」


 また芯を取り戻した自身を擦られて、身体をのけ反らせて快感に耐えた。前からも後ろからも濡れた音が止まらない。頭がおかしくなりそうだった。


「あ、また、出る……」

「出して、ユウ。我慢しないで」

「あ、あ、あ……っ!」


 優は、またランスの手を汚した。はあ、はあ、と肩で息をする優に、気遣わしげにランスが話し掛ける。


「どうかな……? ちょっとは落ち着いた?」

「は……はい……」


 本当のことだった。湧いてきていた欲望はもう薄れている。代わりに、今起こった出来事を頭が処理できないでいた。

 ランスは枕元のティッシュペーパーで手を拭いていた。それを丸めてゴミ箱に捨てる。

 ――本当に、フェロモン効いてないんだ……。

 フェロモンに当てられたアルファは、オメガ同様に性交のことしか考えられなくなる。今のランスを見る限り、そのような感じはしなかった。


「良かった。ユウが落ち着いてくれて。待ってね、タオルを持って来るから。身体を拭こう。それともシャワーが良い?」

「えっ。あの、続きは?」

「続き?」


 きょとんとしたランスの顔を見て、優は苦笑した。そうだ。フェロモンに当てられていないんだから、自分とどうこうしようなんて思わないよな……と、冷静になった頭で優は思った。

 そんな思いに気付いてか、ランスは優の髪にくちづける。


「……大事にしたいんだ。分かってくれる?」

「大事に?」

「そう。今、手元に避妊具も避妊薬も無いから……それに、僕たち付き合い始めてまだ日が浅いだろう? そういうことは……もうちょっと時間が経ってからしよう? 今日のことは……仕方が無いことだけど」

「分かりました。あの、変なこと言ってすみません……」

「変なことじゃないよ……期待してくれて嬉しい」


 見つめ合ってキスをした。まだ慣れない深いキスに優の息が上がる。


「……んっ……ランスさん……」

「ユウ、可愛い」


 最後にくちびるを軽く吸われて、キスは終わった。

 

「それじゃ、お湯でタオルを絞って来るから待ってて」

「はい……すみません。何から何まで」

「ふふ。横になっていると良いよ」


 部屋を出て行ったランスを見届けてから、優はベッドに身体を横たえた。手を伸ばして転がっている瓶を取り、ラベルの注意書きを読む。そこには「効果には個人差があります。三十分経っても効果が現れない場合は使用を中止して下さい」と書いてあった。


「やっと三十分経ったのかな……」


 もの凄く長い時間に感じた。あんなに熱かった身体は元の冷静さを取り戻している。これは薬の効果が発揮されていると言って良いのだろう。

 

「俺、ランスさんに……恥ずかしいところ見られた……」


 優はゆっくりと起き上がり、下着を探した。ところがどこにも見当たらない。きっとランスが洗濯機に持っていったのだと考えると、恥ずかしさに熱が顔に集中した。そんなこととはつゆ知らず、ランスはタオルを二枚持って部屋に戻って来た。


「ユウ、横になって。拭いてあげる」

「えっ? いえ、大丈夫です! 自分で……」

「彼氏面させて欲しいな?」

「……うっ」


 お願い、と綺麗な瞳に見つめられ、優はしぶしぶベッドに横になった。さっそく、ランスの手が伸びる。


「汗かいたね。上も脱いじゃおう」


 ボタンをひとつずつ外されて、思わず息を呑んだ。シャツを取られてしまうと、モデルの時同様に素っ裸になる。今は前を隠せていないので、そこだけが違っていた。


「上から拭くね」

「……っ」


 あたたかいタオルが腕に掛けられた。ランスは丁寧に胸を、腹を、身体を回して背中を拭いていく。


「ユウ、足」

「で、でも……」

「拭かないと気持ち悪いだろう?」

「……はい」


 言われるがまま、優は足を開く。ランスは片足ずつ足を上げさせると、優しく汚れた部分を拭いた。刺激で、また中心が反応してしまい、優は泣きたくなった。


「……っ、ん」

「ユウは感じやすいね」

「ごめんなさい……」

「どうして謝るの? 良いことだよ」


 結局もう一度ランスに抜いてもらい、ようやく優の身体は落ち着いた。

 新しい下着、ズボン、シャツをランスに着せてもらい、優はうとうととベッドの上で微睡んでいる。


「いっぱい出して疲れたね?」

「……恥ずかしいこと言わないで下さい」

「ふふ。最高に可愛かったよ」


 ランスは優の頬にくちづける。


「今度は、二人でしようね?」

「はい……俺、したことないから上手く出来ないかもしれないけど、その時はよろしくお願いします……」

「ありがとう。その時は、ここを噛んでも良い?」

「……っ」


 ランスは優のうなじを指でなぞった。

 アルファがオメガのうなじを噛むと……つがいになる。つがいになると、アルファは他のオメガのフェロモンを感じなくなるし、オメガはつがいのアルファ以外を受け入れられなくなる。結婚よりも強い絆で結ばれることになる行為だ。


「なんだか……プロポーズみたい……」


 優は笑った。ランスがその頭を撫でながら言う。


「プロポーズはちゃんとするよ? 今のは……確認」

「ふふっ。ランスさんになら……ううん。ランスさんに噛まれたいです」

「ユウ……ありがとう。幸せにするよ……」


 やっぱりプロポーズだ、と優は心の中で思った。けれど、違う言葉を用意しているらしいランスに言うのは失礼な気がして黙っておいた。

 ランスは優が眠りにつくまで、ずっと優の頭を撫で続けていた――。

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