究極ふじたのたまご祭り③

その⑦ 【藤田の夜間飛行】



ふじたの図鑑 『星見の祭壇』


 ふじた山頂上には、古い祭壇があります。

 地底に眠る遺跡群と同年代ものですが、なぜだかこの祭壇だけが、山の成長と共に上へ上へと押し上げられて、今はてっぺんの位置に存在しています。古より、ふじたにとっては神聖な場所であり、ここから夜空を見上げては、その年の吉凶などを占いました。

 そして、ここに湧き出でる清らかな泉は、夜ごと天上から注がれる星々の輝きで満たされており、一口飲めば、すばらしい幸福をもたらすと言い伝えられています。けれども、ふじた山をここまで登ってくるのはとても過酷であり、大変な事ですので、ふつうの人では近づく事すら叶いません。どうしても願いを叶えるのだと、心に強い意志を持った人のみが、この星見の祭壇へと辿りつく事ができるといいます。ふじたは除きます。



――ふじた山、山頂。



あおば「たま……しの」


▼ 星見の祭壇にひとり凭れて眠る、あおば


あおば「しの……づ……」


▼ ころころと山頂へ転がりつく、ふじたのたまごたち


あおば「しの……づか……」


▼ あおばを円状に囲んでぴたりと静止する、ふじたのたまごたち


あおば「しのづか……」


▼ 突然、重力に反して上空へと巻き上げられてく、ふじたのたまごたち



『……これっきり、これっきりで解決。これで、かがり町は救われます……』



▼ 地上から転がり集まってきた、何千、何万の、ふじたのたまごたちが、ふしぎな力でだんだん空へと昇っていく。



『……ふじたのたまごですから、エネルギーもじゅうぶんでしょう。さあ、ごじぶんの星へと、おかえりなさい……』



▼ 上空で発生する、風の渦――それはふじた山に、星見の祭壇に、物凄い風圧となって押し寄せてきた。が、あおばの周りだけ、ふしぎと弾かれている。



『……あおばさん。彼らと対話してくれて、ありがとう、そして……』



あおば「しのづか……」



『……うちの “はじめちゃん” が、ごめんなさい。あなたの望む、しのづかさん。今、いっしょうけんめいに、ここをめざしていますよ……』



▼ あおばの髪を優しく撫でる、誰か



『……それではおさきに、かえるとします。せっかく会えるのですから、“ふじた” がおじゃまをしては、だめですものね……』



▼ そして静かに消えてく、誰か




その⑧ 【藤…… あおばと松雪の一方通行】


かがり町の記憶 『もっとあおばくん』


 ……それって、

 もう決まった事なのだろうか。


 あおばはしばらく、なにも言えなかった。


 べつに、あおばがいなくなっても、

 かがり町のみんな、だれも困らない。

 そしてしずかに準備がはじまって、

 またたくまに日にちが近づいてく。


 かがり小学校、二年一組、せっかく好きなクラスだったのに。


 まだ、しのづかくんにも、

 あやまれて、いないのに……。


 最後のにちよう日の、たまごの日。

 しのづかくんも来るというから、

 あやまろうと思ってたのに……


 あおばはひとり、

 あおばなりに、……悩んでいた。



――ふじた山、山頂付近(現在)。



虚ろな・しのぶ「しのづか……」


▼ 山頂へと進みたがる、虚ろな忍


まつゆき「行くな、行くな! しのっ」


▼ 押さえつける、松雪深(たまごまみれ)


しのぶ 「しのづか……」

まつゆき「行かせない、どうして⁉ さっき、元気になってただろ」


しのぶ 「しのづか……」

まつゆき「ぜったい、連れて帰る……しの、バスケしよう! 明日……明日から、一緒にバスケの練習しようよ?」


しのぶ 「しのづか……」

まつゆき「どうして? 返事くらいしろよ……ふ、ふじたのせいだ! ふじたゆるさない!」


しのぶ 「しのづかっ!」

まつゆき「しのぶ……!」


▼ 突然山頂のほうから超風圧が、来る!


しのぶ 「しのづ……!」

まつゆき「うわっ……!」


 ぶわっ!



▼ 吹き飛ばされる、松雪

▼ 解放されて、再び歩き出す忍


まつゆき「そんな……しの、しの―――っ!」


――しの~ しの~ しの~


(※悲しみの山のこだま)




その⑨ 【藤田の頂上決戦!】


かがり町の記憶 『ふじた山から見る景色』


 ふじたは、いつも麓のかがり町を眺めています。

 山頂で湧き出た泉は、川となり、大自然をも越えた先、人々の営みの中へと溶け込んでゆくのです。それを眺めるたびに、ふじたは懐かしさを心におぼえます。ふじたは長い溜息をつきます。この風景がつくられるのはもう何度目でしょう。昔は静かな集落でした。いつしか人が行き来する村となり、やがて町となりました。そして川を挟んだ向こう岸にも、あれよあれよという間にたいへん大きな町が築かれてゆきました。


 ある日の事。

 ひとりのふじたがここ山頂から、夕暮れ時の、麓の町並を眺めていました。そこへふらりと、ひとりの人間が現れます。人間とふじたは会話をする事もなく、横並びに座りました。夜が満ちて麓の小さな町に明かりが灯ります。やがてそれが消えると、川向こうの大都会のネオンだけが煌々と輝いていました。それはそれは、とても美しかったのです。

 人間のほうはそこから来たのですが、じぶんの生まれた場所の夜景色など、こんにちまで興味を持たず、知りませんでした。感動するのも初めてです。

 人間のほうが思わず「綺麗だね」と、もらした事がきっかけで、ようやく人間とふじたは会話ができるようになりました。山闇が深まり、ひんやりと気温が下がると、ふたりは更に寄り添い合って、ついに一晩中語り明かしたのです。

 そして東雲。

 澄んだ大気の流れと共に、ふじた山目下に美しく広がる大雲海と、来光を眺めて、またしばし黙って……ひとまず、夜のおわる、その日最後の、「お嫁さんになって」と『いやよ』を言い合ったのでした。



――ふじた山、山頂。


虚ろな・しのぶ「しのづか……、はっ」


▼ 白い吐息


正気に戻った・しのぶ「……え。ここはどこ?」


▼ もはや、たまごもまばらな山頂(星見の祭壇)



――……づか、


しのぶ「だ、だれ? だかいるの」


――……のづか、


しのぶ「ん、まさか……あおば、くん……?」


▼ 星見の祭壇に凭れかかり、ひとり眠るあおば


あおば「しのづか……」


しのぶ「あおばくんだ……えっと、しのづかだよ」


▼ 眠るあおばの隣に座り込む、忍



あおば「しのづか……」

しのぶ「う、うん……」

あおば「しのづか……?」

しのぶ「そ、そう」

あおば「本当に、しのづか……?」

しのぶ「え……?」

あおば「“ 本当に、しのづか…?”」

しのぶ「……??」

あおば「しのづかじゃないと、しのづかにするぞ……!」


▼ いっとき、困惑する忍



“ し の づ か し の ぶ ”



しのぶ「うん、しのづか。――しのづか・しのぶだよ」


篠塚姓・・・を受け入れ、頷く忍



あおば「ふっかつ! ……れ?」



しのぶ「れ?」

あおば「れれ?」

しのぶ「れれれ?」

あおば「Σあれれれれれれれしのづかくん!」


▼ 大パニックのあおば


しのぶ「ふふっ……ふ。なぁにそれ。あっははは!」


▼ 山に響く、忍の笑い声(※極めて稀)


しのぶ「ねても、さめても、“しのづかくん”って……さすが、あおばくん」


あおば「しのづかくん、あの……」

しのぶ「うん? なに」


ぐるぐる目のあおば「あやまる! あやまる……!」

しのぶ「Σわ! しゃべった!」

あおば「しのづかくんに、あやまる! あやまる!」

しのぶ「う、うん? えっと、え? お、おちついて」

あおば「ずっとあやまりたくて……あの、あのっ!」


▼ 止まらぬ、あおばの勢い


あおば「名まえ、まちがえて、ごめんしのづかくん!」

しのぶ「え?」


▼ え?


あおば「一ねん生のとき、こくばんに名まえまちがえてごめんしのづかくん!」

しのぶ「い、一ねん生? いつのはなし……」

あおば「し、しのづかくんあの、おぼえてない……?」

しのぶ「……あ、」



“にっちょく しのずかくん” ――ちがう、しのづかじゃない!


“にっちょく しの    ” ――かってに、かかないで!



▼ ……を、忍はまったく思い出せない 🥚


しのぶ「(?)……あ~、あのとき?」


▼ まったく思い出せないがサービスしてあげる、忍


あおば「しらなくて、名まえのひらがなも、かんじも、本当の名まえもあおばしらなくて……」


しのぶ「な、泣かないで……」

あおば「もう、はなし、してもらえないと思ってた……」


▼ ぽろぽろ大粒涙を流す、あおば


しのぶ「(?)……あ、あのときね。ごめん、ひどかったね?」

あおば「しのづかくんごめんなさい」

しのぶ「べつに、きらいとかじゃないんだ……その、こっちこそごめん」


▼ ごめん・ごめんなさいの往来


あおば「本当は、“上の名まえ”、ちがったんだよね、しのづかくん」

しのぶ「!」



“にっちょく しのずかくん” ――ちがう、しのづかじゃない!


“にっちょく しの    ” ――かってに、かかないで!



▼ ……を、忍はついに思い出した 🐣


しのぶ「Σあ、(あれか!!!!)」

あおば「Σふぐ(ビクつくあおば)」



▼ 記憶、ふっかつ! by忍



しのぶ「えっと、名字みょうじは違うけど、名前は変わってない」

あおば「?」

しのぶ「“しのぶ” でいいよ。みんな、そう呼ぶし」

あおば「??」

しのぶ「あおばくんも呼んで、“しのぶ” って」

あおば「し、し、し……のぶくん(小声)」

しのぶ「あおばくん。あの……こんど、あそぼう」

あおば「???」

しのぶ「その……今さらだけど、友だちとして」


▼ 信じられない、あおばの驚愕


あおば「はい!」


▼ めでたしめでたし、あおばの笑顔


しのぶ「✧」


▼ からの~、しのぶの急接近!


しのぶ「あおばくんって……きれい。」

あおば「しのぶくん?」

しのぶ「あ、ごめん。とつぜん、へんだったね」

あおば「……あおば、うれしい……」

しのぶ「え」


▼あおば うれしい


しのぶ「ええ」



▼ “あおば” うれしい


しのぶ「えええ」



――あおば~ あおば~ あおば~(脳内に響くこだま)


――きゅん           (心臓ときめきのこだま)



しのぶ「た……、た……」

あおば「しのぶくん?」


しのぶ「Σた、たすけてフジタ―――っ!」


▼ ふじた山全域に響く、忍の絶叫



――その頃、山頂付近。


たまごまみれの松雪「Σはっ! しののこえ……!」



――その頃、ふじたの昇降機(森林力で稼動)。


鷹史「コレステロール」

((鬼頭「ううう…ぐっと気温落ち込みやがった、俺ァ寒いの苦手なんだよ!」)))


ふじ田「たまごはおいしいよ! あ、しのちゃんよんでるー」

 

▼ シュッ


厳蔵「あれ? 藤田くん……あれ? ここ密室だよな?」

森屋「はい(……ふじたの薬草、凄い。もう捻挫が治った!)え、何ですか?」


こだま先生「……(じっ)」


鷹史「Σん……えっと、何か?」

こだま先生「あの、篠塚くんの親御さんですね…?」


鷹史「Σァハイ! “こんな格好” ですみませんが初めまして、篠塚忍の保護者です」

こだま先生「まず、先ほどは危ない所を助けて頂きありがとうござ――」


鷹史「まさかうちの子の担任先生から、執拗にほっぺちゅうされると思ってませんでした(笑)」

こだま先生「そ、それは~」


鷹史「“しのづか……” つって、激しく求められるだなんて、タカシもまだまだ捨てたもんじゃねーな♡ なんちゃって!」


▼ ねちねちつつく、鷹史


鬼頭「Σウルセェウルセェー後でやれや!!」

森屋「何だかすみません。僕の処置のせいで;」

厳蔵「大丈夫だよ。あそこの中年、寒さで苛立ってるだけだから」

鬼頭「Σ中年言うなァァァゴリラァ!!」


鷹史「ほっぺにちゅう(笑)はんれんち★」

こだま先生「ああああかがり小学校PTA軍団がこわいのです~;」


▼ 絶体絶命風紀、こだま先生



 

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