君が望む怪獣プロレス……「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」

 ――コジラがサンフランシスコで死闘を繰り広げてから五年後。ゴジラにより息子を失った怪獣調査機関モナークの科学者エマは怪獣をコントロールする音響装置オルカを開発、怪獣モスラで効果を実証するも、直後現れた傭兵たちに娘のマディソン共々拉致されてしまう。一方、ゴジラを恨んでいるエマの元夫の動物学者マークは、環境テロリストに奪われたオルカの奪取とエマ達の救出のため、モナークの芹沢博士に協力を要請される。エマを追う彼らだったが、南極で眠りに付いた最強の怪獣、ギドラが目覚めてしまい――


 マイケル・ドハティ監督作品。レジェンダリーによる怪獣映画シリーズ、通称モンスターバースの最新作だ。前作はキングコング、前々作は14年版ゴジラと続いているが、今作は時系列で最新かつ14年版ゴジラの直接の続編として描かれている。全体的に言うと怪獣映画オタクたちを熱狂の渦に叩き込む正統派怪獣映画だ。そしてこうとも言える、最高の怪獣映画だ。


 ゴジラ映画は基本的に「他の怪獣が登場してゴジラと戦うか」「ゴジラそのものが出てくるか」という風に分かれているが、今作はマジで「怪獣大戦争超プロレス路線」を地で行く作品になっている。おなじみのラドン、モスラ、キングギドラそしてゴジラが一同に現れて暴れまくる盆と正月が一気に来たようなお祭り怪獣映画だ。怪獣として、そして地球の頂点に君臨する王の座をめぐるゴジラとギドラのシノギを削る戦いがこれでもかと展開される濃密な怪獣映画に仕上がっている。


 物語の本筋は息子をゴジラによって失った家族の物語と、怪獣専門機関モナークの科学者や軍人たちの奮闘、そして世界各地で活発化する怪獣たちの戦い、そして怪獣の王ゴジラの真の姿と人との関わりの壮大な歴史を描いている。すでにモンスターバースのクライマックスみたいな風格満点の物語だが、人間ドラマが弱い(または支離滅裂)という意見もある。ただ、基本は怪獣プロレスの合間に挟まれる箸休めみたいな話だし、ドラマがへたりそうになると怪獣が適度に現れて画面をピシッと引き締めてくれるので文句はなかった印象だ。


 怪獣たちの戦いや描写は磨きがかかっており、ゴジラ映画なのにゴジラ描写に欠けた2014年版、人間対クリーチャーの描写が多かったキングコングと比較すると差は歴然で、細かなディティールと大胆な動きでゴジラ・モスラ・ギドラ・ラドンがぶつかり合って非常に興奮する出来になっている。都市が破壊されるスペクタクルや、それぞれの怪獣が持つ「特技」を生かした戦いや破壊、怪獣たちによって引き起こされる「災害」などもハッキリと描写されている。惜しいのは今回もまた「暗い場所での怪獣決戦」が多かった事くらいか。でも見やすい絵にはなっていた。


 そして音楽も素晴らしい。かつて東宝特撮でゴジラのメインテーマが都市の破壊や怪獣プロレスを盛り上げ、フリゲートマーチと共に出動する防衛隊に心が躍ったものだが、今作はとにかくBGMの出来がよく、ここぞという所で盛り上げていた。何より、アレンジされたおなじみのマーチがブォンブォン大音量で鳴り響きながら怪獣たちが取っ組み合いの火炎やビーム吐き合いの大プロレスをおっ始めるシーンには心の中の小学5年生が「ゴジラがんばれー!」「ギドラをやっつけろー!」と絶叫する事間違いなしだろう。


 また、キャラクターとして「核の象徴」「恐怖の怪獣」から「古代から地球を支配していた神としての怪獣ゴジラ」という新しい要素を与える斬新さも良かったし、その一方でドハティ監督のゴジラ愛(もはや信仰とも言える)が炸裂する小ネタの数々など、見ていてとにかくのめり込むゴジラファン垂涎の最高傑作に仕上がっている。

 確かに批評家ウケはしないであろう点の数々もあるし、ロッテントマトでも批評家から割とボロクソに言われている作品であるが、怪獣映画のファンであれば間違いなく心躍る傑作であろう。


 君が望む怪獣プロレスが、ここにはある。

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