コントロール不能のテロリストスレイヤー、参上!……「アメリカン・アサシン」

 ――テロ攻撃により恋人を目の前で失ったアメリカ人青年のミッチは、復讐の為に独学で戦闘能力を磨き、身分を偽りテロ組織と接触。しかし復讐相手のテロリストは目の前に現れた特殊部隊に殺害され、ミッチは拘束される。ミッチの動向を監視していたCIAは、その潜在能力の高さに目をつけ彼をCIA工作員としてスカウトする。訓練後、ミッチは核兵器を巡る陰謀と、その影で蠢く謎の男“ゴースト”を追っていく――


 ヴィンス・フリンの描くスパイ小説「ミッチ・ラップ」シリーズを原作とするスパイアクション映画だ。主演はメイズ・ランナーシリーズで主演を勤めた新鋭の俳優ディラン・オブライエン、そのほかマイケル・キートン、テイラー・キッチュらが脇を固める。


 話はストレートなスパイアクションだ。テロリストに対する殺意だけは人一倍強い青年のミッチが、危険人物と紙一重のイカれたベテラン工作員スタンの指導を受けながら本物のスパイもとい「人の命令を死ぬほど聞かない部下に持ちたくない暗殺者」として核兵器テロの阻止に奔走する筋立てである。


 観客は冒頭数分で幸せの絶頂から絶望の淵に真っ逆さまになったミッチの境遇に同情し、彼がテロリストとの戦いに身を投じる姿に強く感情移入をするのだろう……と途中まで見ていて思うが、その主人公本人が、実はテロリストよりも危険な「命令をマジで聞かない問題児」という点でオイオイ任務どうなっちまうんだと行く末が気になりすぎる、意表を突いた展開に手に汗握る事になる。

 何しろミッチという男、本当に見ていて腹の内が読めない奴で、訓練中にオーバーキルな行動を起こしたり、上官の命令無視をクビになるんじゃないかというレベルで何度もやらかしたりと、段々人間の皮を被ったターミネーターか何かのような印象を受ける。こいつ何やってんだ!というツッコミを劇中の上官や仲間と同じ立場で考えてしまうのは逆に面白い。結果的にミッチの選択が「正解」となってしまうのでCIA上層部のポンコツぶりが露呈しているのはアレだが……


 全体的には普通のスパイアクション映画という雰囲気で、シリーズもの原作の導入1作目と考えればまあまあという感じ。ただ、他のスパイ物と比較しても最新技術を使ったCIAのトレーニングや、実戦的で情け容赦ない工作員たちの戦いをまじまじと描写する点では斬新という感じで、個人的にはそこの部分が本筋よりも気になった所。映画の筋立ても、相変わらず軽々しくロシアから流出した放射性物質で核兵器が作られるという「またそれ?何度目だよロシアからの核流出」と言わんばかりのプロットで、この手のスパイアクション物としてはどうしてもインパクトに欠けている。


 また、テイラー・キッチュ演じるテロリストのゴーストの設定も面白い。言い表すなら「ナンパのためブリトー片手にテーザー銃で撃たれずに宇宙人もやってこなかったアナザーワールドのバトルシップ主人公」とでも言うべきか。元海軍軍人でCIAにスカウトされて色々あってグレちゃった頭のおかしい兄ちゃんを熱演しておりバトルシッパーには目頭が熱くなるし、クライマックスのバトルシップ感も素晴らしい。事実上のバトルシップ2だろコレ。

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