スポ根系海兵隊ムービーの傑作……「ハートブレイク・リッジ」

 ――幾多の戦争を戦い抜いたベテランの海兵隊員ハイウェー軍曹は、上層部からの命令で海兵隊の偵察部隊へと復帰し、経験の浅い新兵たちを鍛え直すことになる。古強者の軍曹に反目する今時の若者たちに囲まれたハイウェーだったが、持ち前のタフさとベテランの貫禄で、ヤワな新兵たちを一人前の海兵隊員へと鍛え上げていく。そんな中、ハイウェー達の部隊に出撃命令が下る、グレナダ侵攻作戦が始まったのだ。海兵隊偵察小隊は初めての戦場へ出撃していく――


 1983年のグレナダ侵攻作戦を取り扱った戦争映画。クリント・イーストウッド監督が監督・製作・主演を勤めた映画であるが、何かもう逆に清々しくなるぐらいに海兵隊を礼賛する海兵隊ムービーに仕上がっていおり、何と言うか「提供 : アメリカ合衆国海兵隊」とデカデカと書かれてもおかしくないような作品だが、結論としては良い海兵隊映画だろう。


 物語のノリは殆どスポ根ものである。今時の問題児の若者がそろった部隊という曲者相手に鬼教官がビシバシしごいて本物の海兵隊員として鍛え上げていく……という展開がまさにスポーツ映画的ではある、スポーツが殺し合いに代わっている事と生徒を導く先生がベテランの海兵隊鬼軍曹である事を除いて。

 とは言え、全体的にシリアスな感じはなく若者の成長と鬼軍曹の軍隊生活と実戦(オマケ)という感じであまり戦争映画という感じはしない、むしろそこが“海兵隊映画”というべき理由になっている。


 問題児の海兵隊員たちがベテランにしごかれるうちに海兵隊としての誇りや能力を着実に身につけ、実戦や訓練でそれを遺憾なく発揮してバカにしていた連中にギャフンと言わせるという成り上がりストーリーなので見ていて楽しくもあるし、主人公のハイウェー自身も完璧超人というワケではなく家庭は滅茶苦茶だしそろそろ退役だし……と人生の岐路に差し掛かっている設定も良い。

 もちろん訓練パートの「これが海兵隊です!」という雰囲気も良い。それだけに後半のグレナダ侵攻のパートが必要とは言え取って付けた感じになってるのがちょっと惜しい所か。


 また、今作はスタンリー・キューブリックのフルメタル・ジャケットと結構な割合で対照的な作品になっているのが特徴であり、ベトナムとグレナダ侵攻という題材の違いこそあれど、前半は訓練パート、後半は訓練された新兵が戦場に向かう戦争パートに分けられていてかつ海兵隊が舞台という点は興味深い。


 鬼教官ぶりを見せ若手をビシバシ鍛え、かつ厳しくも親父のように見守り続けるハイウェーの姿とハートマン軍曹の姿は少しダブるが殺人マシーンを育てようと徹底して殺されたハートマンと、若手の尊敬を集めながら共に出撃するハイウェーは本当に対照的であるし、米軍の勝利で終わったグレナダ侵攻と敗北で終わり賞賛もないまま戦場で物語が終わったフルメタル・ジャケットとも結末では正反対であるのも興味深いだろう。


 あんまりにもストレートな海兵隊礼賛ぶりにプロパガンダ的な意味合いを見出しそうにならなくもないものの、新兵の成長物語と鬼教官の猛訓練という昔ながらの戦争映画ノリと地味だが硬派なノリが合わさったアクションが楽しめる海兵隊映画の名作だ。でも、いつになったら吹き替え付きDVD出してくれるんだろうか……

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