ディザスター映画の“やってはいけない”を学ぶ作品……「2012」

 ――地球上で異変が発生する、国立公園の池が干上がり、地震と共に大きな亀裂が発生し大地を裂く。それは古代のマヤ文明が予言した「2012年」という地球滅亡のタイムリミットが迫りつつある証拠だった。アメリカで暮らすカーティス一家は、この滅亡から逃れる為の箱舟を目指して、崩壊しつつある世界を移動するエクソダスに身を投じるが――


 ローランド・エメリッヒという監督はディザスター映画(災害映画)フェチなんじゃないか、と思っている。「インデペンデンス・デイ」では地球が宇宙人に滅茶苦茶にされたし、「デイ・アフター・トゥモロー」では世界が凍り付いてエラい目に会った。おやつ感覚で世界が滅亡していく作品が目白押しだ。

 彼にとってはホワイトハウスが崩壊して政府専用機が墜落する程度は「災害」のうちにも入らないのだろう。それぐらいインパクトある災害映画を撮ってる男だ。


 でも「2012」は史上最悪の災害映画であると思っている。実際のところ災害シーンの迫力だけを切り取れば、まあまあ見れる作品ではある。

 ただ、この映画を見る度に自分は「災害映画でやっちゃいけない事を全部やってしまった作品である」と思い続けている。どうしてか?


 まず主役側に色々と難がある。主人公たちはアメリカの平凡な家庭ではあるが、彼らはこの災害をインチキレベルの幸運と図々しさで乗り切るだけなのだ。

 特殊な技能も無いし、たまたま「政府が箱舟を作っている」という情報を知ってタダ乗りを企てているだけだ。「何故か直撃しなくてすんだ」「なんか偶然崩落から逃げ延びれた」「たまたま居た知り合いの飛行機に乗っけて貰った」とか、そういう流れの繰り返しに終始している。

 周りの人々の迷惑もお構い無しに突っ走り続け、挙句にその箱舟そのものも危機にさらすレベルの行為を「家族のため」と乗り切って正当化させてしまっているし、なまじ大量の人間が災害で死亡するだけに、ひときわ浮いて見えてしまいパニックものにある「このキャラクターに死んで欲しくない」という感情移入がひたすらし辛い。


 で、死んでいく人たちの方が逆に魅力的になってしまい残念な結果を何度も画面で見てしまうのが辛いのだ。

 国民と共に残る事を選んだアメリカ大統領や、遠く離れた科学者の家族、息子たちをただ助けようとするロシアの富豪、目的地まで運ぶために努力し続けたパイロットの兄ちゃんなど、脇役の方がよっぽど映えてみえてしまう。


 また、災害ものはいかにこの事態から人を助けようと尽力できるかがカタルシスの鍵になる。苦い結末になる映画もあるが、画面の中には人を助けようと奔走するヒューマニズムがある。圧倒的な力を前に人々が立ち向かう事こそがディザスター映画の真骨頂だ、と自分の中では定義している。

 ただし、この映画にはそういう物はあまりない。

 地球規模の大災害が起きたのに世界が取った選択肢は「金持ちと政治家だけが入れる箱舟作って逃げようぜ」という酷な内容で、あれだけ災害を前にがんばった人たちは最終的に皆死んでしまうのである。誰もこの事態を収拾しようとしたり、世界の崩壊から1人でも多くの命を救おうとしないのだ。リアルと言えばリアルではある。


 とは言え、アホみたいだが楽しめる要素はまだ残ってはいる。CGを駆使して描かれる地球崩壊シーンは圧巻だ。ロサンゼルスは大陸ごと海へと沈み、噴火した火山がハワイを飲み込む、崩れ落ちるビルからは中にいる人々かこぼれ落ち、さっきまで生きていた人たちが災害により容易く命を奪われる過酷な世界が高画質で描かれる。

 他にも「津波で横転した原子力空母がホワイトハウスをなぎ倒す(よりによって突っ込んでくる空母がジョン・F・ケネディ)」「地割れによってむき出しになった断崖から地下鉄の電車が飛び出してくる」「飛び出してきた断層にぶつかるババア2人」みたいな印象的な短いシーンが多く、色々と気になる点に目を瞑ればディザスター映画として面白いかな、と思う。


 そろそろエメリッヒ、銀河系が崩壊する映画とか作らないかな。

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