戦争映画+刑事ドラマ=何だこれ!……「サイゴン」

 ――ベトナム戦争下の南ベトナム首都、サイゴン。陸軍の犯罪調査チーム、CIDのマクグリフとパーキンスのコンビは娼婦連続殺人事件の裏に米軍が絡んでいないか調査を行っていた。捜査が進むに連れて事件の裏に米軍将校の姿があると掴んだ2人だったが、戦争という特殊な状況下で捜査は思うように進まず、米軍内部からも捜査の反発があり、2人は苦境に立たされるが、犯人逮捕のため、戦場へ飛び込む事も厭わずに捜査を続けていく……――


 組み合わせの妙、という点では「サイゴン」は異色作とも言える。ベトナム戦争の映画と言えばジャングルでベトコン相手に戦ったり、朝のナパーム弾は最高だと力説したり、あるいは訓練キャンプで鬼教官がデブに罵声を浴びせてしごき続ける絵面を想像するかもしれないが、今作はサイゴンという蒸し暑い都会を舞台にした軍人たちの刑事ドラマに仕上がっている。

 戦争物なのに刑事ドラマ?刑事ドラマなんです。


 主人公は私服で行動しハードボイルドの探偵よろしく腰のホルスターに小ぶりなリボルバーを忍ばせて、夜な夜な街を歩き回り犯罪の調査をしている。

 ただし彼らの肩書きはCID(陸軍犯罪捜査司令部)の兵士で、彼らが捜査に繰り出すのはロサンゼルスやニューヨークの大都会でもなく、むんむんとした熱気が伝わる東南アジアの都市サイゴンだ。待ち行く人々は皆ベトナム人か米軍兵士で、アメリカの摩天楼とはかけ離れた異国の街が舞台になる。

 彼らの捜査対象となるのは街を牛耳るマフィアやギャングではなく、徴兵されたアメリカ人や職業軍人の将校ら、カーキ色の戦闘服を着た軍人であり、目を引く要素の組み合わせだ。

 それだけミリタリーの匂いを漂わせながら、本筋はまさに刑事ドラマそのもので、刑事ドラマ・戦争物のどちらかの視点で見ても斬新に写る。


 刑事モノではFBIが出しゃばって市警察の刑事たちを「オラッ、ここはFBIの管轄だ現地警察は出ていけ」と煙たがるように、この映画では友軍である南ベトナム政府軍の部隊が主人公たちの捜査を妨害する。

 かと思えば、事件の証拠を握る兵士が前線にいると知って、砲弾や銃弾が飛び交う戦場に身を投げて命がけの捜査もするし、当然戦争下で情勢不安な場所で捜査しているのでベトコンに攻撃されたりもする。

 そんな「刑事モノあるある」が「ないない」という状況と重なったり溶け合ったりする光景がこの映画にはある。それだけでもこの映画はやったもん勝ちな所があって面白い。

 

 でも組み合わせの一転突破型な映画ではなくて、本筋の部分は王道的な刑事ドラマで勝負しているのが好感が持てて最高だ。

 娼婦を日夜血祭りにあげてる犯人が米軍の将校だとあまりにも都合が悪い、なので上官も上層部も乗り気じゃない、実際に主人公たちは捜査から外されるし、命令が絶対の軍隊なので「しゃーないわ」と一度はくじけ掛ける。

 でも、2人は捜査を続行して真犯人を探しに奔走する。その刑事ドラマとしての骨組みがしっかりしているからこそ、見ていて楽しいし安心できるのが良い。


 典型的な黒人と白人コンビである主人公2人も、当時は「プラトーン」で勢いのあったウィレム・デフォーと、ダンサーで銀幕にも活動の幅を広げ始めていたグレゴリー・ハインズがきっちりと息を合わせて演じているのも良かったし、上官役を演じていたフレッド・ウォードの「やれやれ系上司」っぷりも板についており、只管ぶっとんだ狂気のイカれ軍人をあのスコット・グレンが怪演していたりと、キャスティングの面でもさらに映画を盛り上げてくれているのも好きだ。


 アクションや奇想天外さでバリバリ盛り上げるような作品ではないが、異国情緒溢れるサイゴンを舞台に繰り広げれる軍人捜査チームの奮闘を描いた今作は「組み合わせの妙」の好例とも言えるだろう。

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