吐露

「……その時の状況を、聞いてもいいか? 本当に、貰い手が無いと言われたのか?」

「はい。……昔から頑張って結婚しようと、お相手を探してはいたのですが……全て父に却下されました。私の顔は……母に似すぎているから、結婚は駄目だと」


 ウォルク様は、顎に手を当てて、「なるほど結婚願望はある……あった、と。……あとの難関は父親だな……」と、確かめるように、ひとつ頷いた。


「ところで、母親の事は……」

「私の物覚えもつかない頃に、亡くなりました」

「……そうか」

「多分、いくら頑張っても、母に似て醜い私では、結婚は望めないのだと、そういう事なのだと思います。だから自分の力で生きていこうと、騎士に……」


 騎士になれば、ただの極潰しではなくなる。

 本当は、一人で生きていくなんて、寂しくて、辛くて、嫌だったから、私も父に寄りかかるだけでなく、支えられるようになれば、あるいは……と思っていた。

 父に褒めてもらえた事は一つも無い。

 何をしても、認めてもらえなかった。

 男に生まれたかったと、願ってもどうにもならない事を思ってしまうほど、父の態度が悲しかった。


 でも、嫌いでは無かった。

 ただ愛して欲しかった。


 本音では、騎士になれば、家族の形を変えられるのではないかと、期待していたのだ。


「……髪を切った時、嫁の貰い手がなくなるぞと、怒鳴られましたが……元々、嫁がせられないと、言われ続けていましたから、」


 ウォルク様は、高圧的な演技をやめたのか、目線を合わせるように少し屈んで、私の話に耳を傾けてくれていた。

 近くにある綺麗な顔を、私は真っ直ぐ見詰める事が出来ない。

 父を失望させたこの容姿を前にして、ウォルク様はどのような気持ちでいるのだろう。

 そうして、好ましく思っている男性の前で、己の醜さを認める事の心やましさは、私の声を小さくさせた。


「だから父は、ただ単に、娘がこれ以上みっともない容姿になるのが、許せなかっただけなのでしょう……」


 改めて言葉にするのは情けなくて、恥ずかしい。

 私はこれ以上顔を見られたくなくて、消え入るように、俯いてしまった。

 目を閉じて、視界を塞ぐ。

 あと私に出来るのは、ウォルク様からの断罪を待つ事だけだ。


「いや、君は綺麗だよ、リオート」


 震える指先に、再び、温かい手が触れた。


「俺は一目見た時から、君に優しくしたいと思ったし、今も凄く、甘やかしてあげたいよ」


 今までの冷たい言い回しが、全て演技でしか無かったと思うには十分な、台詞などでは無い、魂の篭った言葉だった。

 おそるおそる目を開けると、思ったよりずっと低い位置に、ウォルク様の頭がある。

 彼は許しを乞うように、片膝をついて、私を見詰めていた。

 とろけるような眼差しで。


「本当は、運命の人だったらいいなと、思っていたんだ……」


 擦り寄る女性達に辟易として、女性嫌いになって、冷然と振舞っていた、あの、ウォルク様が。

 うっとりとしながら、それも私に向かって、運命なんて言葉を使うなんて!

 彼の豹変ぶりに戸惑う。

 自分の見ているものと、聞いた事が信じられない。


「我が家の家訓は、女性に優しくすること、なんだ」


 ウォルク様が、突拍子も無い話題を挟んできたので、私はますます混乱した。


「君が女性でよかった」


 不意に眩い笑顔を向けられて、目が潰れそうになる。

 私は異常に速くなる脈を自覚しながら、咄嗟に顔を背けてしまった。

 あの笑顔は、長い時間直視するに耐えられない。


「好きになったのが、騎士で、男性だったから、どうしようかと思ったけど……女性なら、なんの問題もないな!」


 一応、騎士である私に対して、騎士のように跪いているウォルク様は、そのまま流れるように、私の手の甲に唇を落とした。


「だから思う存分、優しくする事にする!」


 とてもとても嬉しそうな、ウォルク様の声を聞いたところで、わたしの脳は容量を超え、思考を放棄した。


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