第65話 花弁が舞うよう
マルスの閉会式では、今回の
オスカー叔父上がマルスで、何かをするなら閉会式だと思っているから気は抜けない。私ならターゲットが開けた場所にでるこのタイミングを逃さない。
エリアスの長い有難いラングレーの騎士についてのお話は全然終わらず、見習いたちの先頭にいるアダルフォ、ジーク、レオン、カール・シュルツを順に眺める。
せめてラングレー騎士の歴史とかならまだ聞く気が出てくるが、騎士がどれだけ勇猛で勇ましくて、ラングレーにとって重要かを繰り返すだけなら耳タコなほど聞いている。
アダルフォ、レオン、カールはラングレーらしい見た目だ。
濃淡はあるものの銀髪に灰青色の眼、つまりはほぼ私と同じ色彩、
ジークは鎖で繋がれていたときにも抑えられていなかったその美貌が眩しい。それに、燃えるような赤い髪と瞳は色素の薄いラングレーではゲームで見ていたよりも、目を引く。
そして、なんの補正なんだかラングレー騎士の象徴でもある銀髪に似合うように作られているはずの紺色の制服を難なく着こなしている。
一通り観察が終わったころになって、ようやく、今回、奴隷身分から庶民になる2人へ苗字を贈る儀式に移ることになった。
「ベンジャミン、ジーク、この2名にラングレーから賞金を授与する。そして、この賞金と借金を打ち消し、2名を平民身分とする。また、両名の身分をラングレーの名において保証する。
ベンジャミンはこれより、ベンジャミン・マルトニッツ。ジークはこれより、ジーク・ハイスフランネと名乗ることを許可する」
現在の執政代行の代理、マーガレットお祖母様が慈愛の微笑みとともに名前の書いたペンダントが贈られる。
ペンダント自体は至ってシンプルだ。鉄でできた楕円の板に、名前が掘られているらしい。
裏にはラングレー領民であることを表す剣と雪の華が描かれているらしい。いくらでも偽装できそうな簡単なものだが、あんな簡単なものでもこの世界での平民用身分証だ。
ついでに、騎士は短剣、貴族は指輪だ。
少し頬を緩めてペンダントを貰っているジークは今のところ堕ちる要素はなさそう。順調に飼い慣らされている。無事にこのまま、ラングレーの騎士になってくれ。
「姫君近衛選抜、
アダルフォ・ティッセン、ジーク・ハイスフランネ、レオン・ベルツ、カール・シュルツ。
以上、4名をフローラ・ラングレーの騎士として任ずる。剣を捧げよ」
うわー、ゲームだ。完全に乙女の夢が詰まってる。
思わずニヤけそうになるのを堪えて、上がった口角は微笑みぐらいに抑える。
4名が揃って膝をついて剣を捧げる体勢になっているのは、これはくるね。
いいね!いいね!
乙女ゲームへの異世界転生はこうでなくっちゃ、悪役令嬢だったから色々と必死で周りが見えてなかったけど、ラングレーにいれば騎士成分に事欠かないわ。
私は皇子系の細身よりも騎士系の男らしい男の方が基本的に好みだ。なんならハリスもラングレーに呼んで稽古させて好みに育てたい。
邪念を振り払ってから、壇上で儀式用の剣を受け取る。1位になったアダルフォから順に儀礼を済ませていこうとしたときだった。
「あなたさえ!!」
唐突に女性の声がした方に振り返ると、キラリと光るナイフが見えた。
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