第60話 花には毒がある(sideオスカー)
これは、確かに騎士殺しだ。
気持ちが殺られると侍女のアンから話は聞いていたが、同席してみて改めてフローラのその末恐ろしさに目を細める。
本当に6歳前の子どもか怪しいぐらいだ。2.3回殺されかけて、なにか危機管理能力が目覚めたのかもしれない。
「それは大変ね。アドニスはどうしてるの?」
「私はその制限の中で死力を尽くすことが務めと考えており……」
元より内政に興味を持っていて、使用人に贈り物をしてみたり、印象改善に余念がないことは知っていた。
だが、遅効性の毒を盛られて体調が優れない中、以前から行っていた騎士と面談の続きをすると言い出したときは正気を疑った。
フローラ嬢が真っ青な顔色でも一人一人の名前で呼びかけて、マルスへの意気込みと普段の仕事へのこだわりやちょっとした相談までを丁寧に聞いている。
これは落ちる。
フローラ嬢は幼くても陣頭指揮を辞さないことは先日の
勇猛さや責任感の強さはそのとき同行していた騎士のお墨付きがある。
そして、本来ならご令嬢が会う必要のない階級の騎士にまで会って実際に話してくれる気さくさ。
「無理に立たれないでください。座ったまま、なんならベッドにはいられていても……」
「そうはいかないわ。これから勤務なのでしょう?」
さらに最後の一押しとして、体調を崩しているのに、門衛騎士にまで礼儀を尽くしてくれる。
騎士のほとんどは弱い者を守れるよう強くなれとか、誇り高い志を持ちなさいとか、そういう教えを幼少期から叩き込まれている。
そして、子ども向けの教養書によくある唯一の騎士に憧れを持っている。
そこまで条件が揃えば、騎士たちの反応はまあ、想像がつく。
私とて、フローラ嬢の強かさを予め知らなかったら術中に落ちていただろう。
「必ず御守りします!」
扉の外で、決意を新たにしている騎士を見やりながらため息をつく。
見事、フローラ嬢の術中だ。
ため息で側仕え用の待機室、普段は護衛を兼ねてアンがいる場所に私がいたことに気がついたらしく、薄らと笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「あら、オスカー、盗み聞きとはお行儀がよくありませんわ」
「体調はいかがですか」
「良くはないわ。でも、些細なことでしょう?」
「毒を盛られても、それすら活用している様子を見る限り、些細なことだね」
むしろ、毒を盛られているこの状態ですら、フローラの作戦の内かもしれない。
ラングレー公爵家の内情を知っている者なら、フローラが誰に狙われているのかなんて言われなくても知っている。
新入りの見習いジークですら先輩から聞いているぐらいだ。
もっともジークの場合、そんなことがなくても、才能を見抜いてもらった恩があると、フローラの手のひらにいる。
「進捗はどう?」
「あとは、劇場でのお楽しみだよ」
「そう、叔父上主催なら盛り上がること間違いなしね」
領内の重鎮が集まるマルスにて、あえてフローラへの暗殺事件を起こさせる。
内通者として情報をやり取りしていたのだろう商人たちはあえて野放しにしている。
ただフローラの価値があがり、レギーナの立場だけが悪くなるように仕向けているだけだ。
作戦を告げた覚えはないが、この様子だと知っていそうだ。
「当日は白いワンピースが良いかしら?」
「世代が近ければ求婚していたよ」
「あら、過分な褒め言葉ね」
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