第57話 VS蝶

前回会ったときは一瞬過ぎて記憶に残らなかった。

仮にも継母を誰だろう?状態で迎えられないので、継母の好みなどを聞き出す一環で、容姿についても聞き出した。


豊かな金色の髪に、切れ長の美しい瞳、何より豊満な肢体とくればコロッと父親が落とされたのも納得だ。



「寒い中、ようこそラングレー領へ」

「あら、わざわざお出迎えありがとう」



内憂が馬車で到着するのを出迎えた私の背後にはエリアスが待機、アントンが馬車を出迎えて奥様をエスコートする。


レギーナ・ラングレー。


一応表向きの理由としては、今回のマルスをセーリャとヴィクトルに見せるために来たとしているらしい。



「お義母様と、兄妹と過ごせるのを楽しみにしていましたの。もう食事の準備は出来ていますわ。

お義母様もリラックスいただけるように食事スタイルも考えましたの、ブッフェにしましたわ」

「そう」



つれない返事も想定済みだ。ブッフェ形式だと毒を盛りずらいものね。

誤ってセーリャやヴィクトルが食べたら困るから、奥様として楽しくないだろう。


とはいえ、無理に形式を変えて私が毒に殺られたら犯人は自分ですと喧伝するに近い。

そもそも疑っている人、エリアスとオスカーがいる。そもそもオスカーがいる時点で、即効性の毒は使えず、迂闊なことはできまい。


今回の来訪で彼女が取れる手は3パターンある。

1つは、私が病に伏せっていることを利用した遅効性の毒物。

2つは、以前のように賊を差し向ける。

3つは、今からはじまるイベントを活用することだ。


まあ、彼女の目的が私を害することであればそんなところだろう。



「ごめんなさい、お義母様がブッフェ形式を嫌いとは知らなくて……」

「違うわ、あなたがブッフェを知っていたことに驚いただけよ」

「それは良かったわ!食事をご一緒できて、嬉しいです」



私がちょっと目を伏せて悲しそうにすると、お義母様はブッフェ形式での食事を是と言うしかない。


ほら、ここまですればフローラは刺客を差し向けてきている義母に対してまで、限りなく歩み寄ってあげている幼い子ども。

ここのラングレー砦の使用人は、私がセーリャ名義で攻撃魔法を仕掛けられていたことを知っている。


この私が作り上げたフィールドで、私を殺そうなんて甘過ぎるわ。


内心の高笑いを純真そうな笑顔で覆って、まだよちよち歩くセーリャとヴィクトルと手を取って広間に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る