第55話 マルス

国境付近の砦、そして氷の魔力持ちが多い地帯ということで想像はついていた。


さむっ!!


朝寝起きでも煌々と焚かれている暖炉があるのに、この砦は寒い。

こんな寒い中でも稽古を絶やさない騎士たちがせっせと地下の訓練場で氷を現出させているせいも、もちろんあるだろう。



「フローラさま、お目覚めですか?まだ熱は下がらなそうですね」

「ええ、手間をかけるわ、ルイーゼ」

「手間なんてとんでもないです。マーガレットさまもこちらにいらっしゃっていますから」



冬になり始めて早々に体調を崩して、ルイーゼのお世話になっている。お付のアンにも色々手間を掛けている。


……ついでに、エリアスは教会と精霊と、神頼みを頑張っているらしい。

そうだね、ごめんよ、風邪は物理じゃないから護衛しにこれないよね。エリアスは居れば物理面の心配がなくなるから安心できるが、ちょっとアホなところがある。



「レオンさまも心配されてましたよ」

「そう、レオンは元気そう?」

「毎日稽古に励まれてますよ。お嬢様の騎士になると、頑張っていらっしゃいますよ」

「元気そうなら良かった」



意外と裏切りの気配がない、間違っても本人には言えないが、レオンは元々裏切るモブキャラだったのだから用心に越したことはない。

いつ物語補正が入るかわかったもんじゃない。



「あとは騎士たちが、ラングレー名物マルスをお嬢様に見ていただきたいと言っていたので、それまでに治しましょうね」

「マルス?」

「お嬢様はまだ冬をラングレーで過ごしたことがありませんでしたね。

マルスは騎士と騎士見習いが腕を争うトーナメント大会で、特に戦場奴隷は平民身分を手に入れるチャンスとなるので熱い戦いが見れますよ。

それに今年はお嬢様お付の護衛の選抜も兼ねていますから、例年より期待できそうです」



例年開催とはいうが、まるでジークのためのようなイベントだな。まあ、この間、買われたばかりで勝ち上がってくることはないと思うが、数年したらこれで平民身分になるだろう。


この世は平和で幸せだとジークに思ってもらえれば、過酷過ぎるジークルートもなくなってラングレー領も攻め込まれずウィン・ウィンの関係だ。



「そう、トーナメントで勝ち抜いた人が私の護衛なの?」

「いいえ、忠義のみえる戦いをしたもので、エリアス様とお嬢様が判断されると公示されています」

「ただ、そうなるとトーナメントで優勝しない限りレオンは指名できないわね。身内贔屓の批判が強くなる」

「そうですね。見習いの方で今注目されているのは、レオン、アダルフォ、それに新入りのジークといったところかしら」



ジークの攻略キャラ補正の強さ、私の騎士になりたいモブのレオン。

ため息をついて、雪の降る窓の向こうを見るしかやることはなかった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る