第45話 誰が姫君

頬にあたる冷たい風で我に返った。

惚けてる場合ではない。


ハリスがなんでこういう行動を取るに至ったかなんて知らないが、私とっていい具合ではない。

きっとお優しい従兄弟は愛されない可哀想なフローラに同情したか、母親を安心させるためにとった行動だろう。


傍迷惑な。



「殿下、それはいつか殿下のことを慕う姫君に取っておいてください。気持ちは有難いですが、当面はお母上にお向けください」



そう言って微笑むとハリスの手から失礼にならない程度の速度で、私の手を抜いた。

入口を見ると私を待つレオンが控えている。

逆光で表情はわからないが、冷風が吹いてきているからなにか主張があるのだろう。


ここに留まるのは危ないから急げあたりだろうか。


この後は馬が余るから私も2頭連れていく予定だった。馬は貴重で他の物資のように捨ててOKとはいかない。

私とレオン、オスカー等の基本的には非戦闘要員としている人と騎士の何人かは複数頭連れていかないといけない。



「「フローラ」さま」



ハリスの呼びかけとレオンの呼びかけが被る。

階級的な問題でハリスを見るが、馬車からは降りなければいけないのでレオンの手をとる。


ハリスが言葉に詰まったのを見て、先手を打った。

これ以上嫌な方向に進まれてたまるか。



「殿下、皇妃様、必ず無事にチェスター・ラングレーの元までお送りします」



騎士としての最上礼をしてから馬車から降りた。

私はあくまでも臣下、その対応を崩してはいけない。皇妃様が子どもに求める対応に応えるのはまだしも、ハリスのアレには絶対応えてはいけない。


カムバック私の平穏な日々。


深いため息をつきたいのを飲み込んで、オスカーを見上げる。

見た目だけはイケおじなオスカーが埃と血に塗れているのは退廃的な美しさだ。流石は攻略キャラ《ハリス》のおじである。



「フローラさま」

「オスカー、動ける?」

「もちろんです」



この場にいるのは、第2皇妃様と味方の振りをしている敵、加えて純粋に巻き込まれた騎士たち。

オスカーよりも私が上で指揮をとっていると見せつけてどのような行動に出てくるのか。


第2皇妃様とハリスをさらって利用しようとしていた勢力として有り得るのは、第3皇妃勢力とアイザックたちムーンフィストのどちらか。

内憂となっているラングレーの奥様はハリスを使って妹を妃にしてという方向性で頑張っているのだから、第2皇妃様とハリスを攫ったり、殺しに来ることは無い。


つまりもう一度、今回の遠征中になにか起こる。

内憂の方が仕掛けてくる。


むしろ私を殺しに来ないのなら拍子抜けだ。



「出発!」



オスカーのかけた号令に従って、防御力抜群の馬車が動きはじめた。



「いきましょう、フローラ様」

「レオン、あなたは怪我をしていない?」

「大丈夫です。馬も元気ですよ」

「そう、それならいいの」



馬は可愛い、馬は従順だ。


草食動物だから馬はちょっとした殺気や気配に敏感だ。馬に乗るのは長話を回避するだけの効果ではない。

そう念じながら馬の背に揺られ、目的地チェスター・ラングレーの家へ向かって再出発した。





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