code:meteor-Ⅱ
集の大陸のとある島、その港。
「ねー、いちいち船乗るの面倒くさくない?」
「いいじゃないか。旅はゆるりと楽しむものさ」
吹き抜ける潮風や港町の風景に目もくれずに歩く1人の少女ミーティアと、先を行く彼女を諭す1人の男性ジョーカー。
「そんな事はどうでもいいの。私は早く進也君に会いたいの」
「前々から思っていたが、君は随分彼にご執心だな。まるで恋焦がれる乙女のようだ」
「恋ねぇ……そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない」
少し悪戯っぽく笑うジョーカーに対し、ミーティアは曖昧な返事を返す。
「正直さ、私生きててもなんかつまらないんだよね。なんでもかんでも成功するし、パパやママも出来て当たり前みたいな顔される。私の周りに集まってくる奴なんてゴマすりみたいなのばっかだし。なんかもう人生灰色って感じ」
「ほう」
ミーティアは歩きながら語り出す。
「でもさ、進也君はそんな私に真正面から立ち向かってくるの。いつもいつも、バカの一つ覚えみたいに努力してさ。まぁ……やるにしても無駄ばっかりでさ、ハッキリ言って間抜けだよ」
「おやおや、随分な言い草ではないか。仮にも幼馴染なのだろう?」
「いいよ、間抜けなのはホントだし。でもさー、ちょっと嬉しいし、羨ましくもあるんだ」
「ほう、羨ましいとは?」
ジョーカーは顎に手を当て、考えるようなポーズを取る。
「パパもママも仕事で忙しいからさ、進也君の家に預けられる事結構あったんだ。進也君のママと私のママが友達だからね。それでさ、進也君の家族は、皆優しいんだ」
「ほう」
「それと、進也君は真っ直ぐ生きてる。厳しい先生かと思うくらい真面目で、一昔前の漫画の主人公みたいに努力する。まあ私が1位を掻っ攫うから結果は散々って感じだけど、皆は頑張ったねって言うんだよ、私に向かってよりずっと純粋な心でさ」
「なるほど」
「だからさ、そういう所がすっごく素敵だと思うし……」
ミーティアはそこで足を止め、ジョーカーの方を向く。
「すーっごく、目障り♡」
どこか加虐的な笑みを浮かべるミーティアを見て、ジョーカーはニヤリと笑う。
「フフフ、素敵で目障り! そいつは素晴らしい! 君のそういうところがたまらなく好きだよ相……おっと、ミーティア君」
「ちょっと、人に注意しておいて自分も間違えるのどーなの?」
「おやおや、これは失敬」
「もう!」
膨れっ面でミーティアが前に向き直ると、彼女達の前方に人だかりがあった。
「何あれ」
「どうやら揉め事のようだね。さて、どうする?」
「どーせ私に解決してくれって言うんでしょう? やれやれ、しょーがないなぁ」
ミーティアは肩をすくめると、すたすたと人だかりの中心へと入っていく。
「さて、今日こそは返してもらうぜ」
「そんな! 約束が違うではありませんか!」
「ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ!」
1人の女性を、数人のガラの悪そうな男が囲んでいる。
ミーティアはガラの悪そうな男達の中からリーダーである男を見つけ、指で肩を叩く。
「何だ貴様、こっちは取り込み中だ」
「通りの真ん中で怒鳴り立てるのやめてくれない? うるさいし、迷惑だし」
男はミーティアを睨みつけるが、彼女は全く動じず、視線を返す。
「外野はお呼びじゃねぇんだよ! ドタマカチ割られたくなかったらすっこんでろ!」
そう言ってしゃしゃり出てきた取り巻きの1人を、男は殴り飛ばす。
「お前は出張ってくるんじゃねぇ!」
周囲がざわつく中、ミーティアは男の行為をを鼻で笑った。
「ねぇねぇ、猿芝居なんかやってないでどっか行ってよ。それと、制裁するなら……」
ミーティアはそこまで言うと、パチンと指を鳴らす。
その直後に雷鳴が轟き、殴られた取り巻きの男に落ちる。
取り巻きの男は焦げて意識を失い、地面に倒れた。
「このくらいはしないと、ねぇ?」
気絶した男を蹴っ飛ばしながら、ミーティアは笑顔でそう続けた。
軽く蹴ったような動きでありながら遠くまで吹っ飛ばされた男を見て、他の取り巻きの顔が青ざめる。
「まあそんな事はいいからさ、早くどいてくれる?」
魔法は、詠唱が無ければ著しく安定性を欠いたものとなり、まともな制御ができないのが常識であった。
だが、ミーティアは詠唱を完全に省略したにも関わらずに正確に雷を当てた。
その様子を目の当たりにして顔をひきつらせるリーダーの男は、しばらくミーティアの顔を睨みつけた後、叫ぶ。
「仕方ねぇ、今日のところは見逃してやる。お前ら、ずらかるぞ!」
「ですが、兄貴……」
「詠唱無しで魔法使う奴なんざ相手にしてられっか!」
「あ、兄貴ー!」
真っ先に撤退したリーダーの男を追いかけるようにして、取り巻きの男達も走り去る。
「おぉ……」
「完全無詠唱であそこまで正確な魔法を……一体何者なんだ……」
周囲のどよめきには目もくれず、ミーティアは男達が逃げた方向にデコピンの要領で指を弾くと、先程まで囲まれていた女性に向き直る。
「大丈夫?」
「は、はい。助けていただき、ありがとうございます」
「どういたしまして。で、さっきのアレは何なの?」
「非正規のギルド……つまり、闇ギルドの方々です。実は……」
「借金?」
「ええ、そんなところです」
それを聞いたミーティアは暫し考え込むと、女性に尋ねる。
「非正規ってことはならず者? 悪い奴ら? アレは退治しちゃってもいいの?」
「そ、そこまでしていただかなくても構いません! これは私の家の問題ですので……」
「アレを退治したら解決する?」
「た、確かに解決はすると思いますが……これ以上迷惑をかけるわけには……」
「じゃあいいじゃん。なにせ今日の貴方は、とても運が良いから」
「運……?」
首を傾げる女性を尻目に、ミーティアはスマホとメモ帳とペンを取り出し、スマホに表示された地図をメモ帳に書き写す。
「はい。この場所に然るべき人員を呼べば、しょっ引いてくれるはずだよ、それじゃ……テレパス!」
ミーティアはそう言うと、一瞬のうちに姿を消す。
「おやおや、意外と活発ではないか、相澤君。さて……」
それを見ていたジョーカーはタブレット型端末を取り出し、ミーティアと同じ様に姿を消す。
……………………
………………
ミーティアとジョーカーが飛んできた場所は、酒場のような場所。
しかし、冒険者ギルド併設のそれと比較すると薄暗く、鎧や武器、様々な置物などがそこかしこに飾られていた。
「さて……」
ミーティアは到着すると同時に懐から2丁の拳銃を取り出し、発砲する。
「何だてめぇ!」
「どっから入ってきやがった!?」
一斉に反応したならず者を、ミーティアは正確に頭部を狙って射撃していく。
「おやおや、木の棒チャレンジするのではなかったのかい?」
「んー、雑魚はいいかなって。めんどくさいし」
会話をする間にもミーティアは手を止めず、飛んでくる攻撃をひらりひらりとかわしては弾丸を撃ち込む。
ならず者の数は多く、全員がそれなりに経験を積んでいた。
だが、ミーティアはかすり傷すら負わず、逆にならず者達は1発で全て気絶させられていく。
それは、もはや一方的な蹂躙。
鳴り響く銃声が収まった頃には、酒場には気を失ったならず者がそこかしこに転がっていた。
「んんー! 人を撃つって中々にスキッとするね。惜しむらくはこれが本物じゃなくて滅茶苦茶手加減した魔力銃ってところだけど」
近くの机に座り、満足げな顔で伸びをするミーティア。
「酒場で暴れるなっていつも言ってるだろうがぁ! ……ん?」
怒鳴り散らすようにして入ってきたのは、2人の護衛を引き連れた、他のならず者より2回りほど大きい体躯を持つ髭面の男。
「あなたがボス? よわそ〜」
「何だ貴様」
ミーティアは立つと同時に発砲し、護衛の2人を撃ち抜く。
その後懐に銃を仕舞うと、腰から肘程の長さの木の枝を取り出す。
「ミーティア、ただの旅人だよ。そうだ、先に言ってあげる。ここの人崩れをこうしてあげたのは私だよ」
「フン……どこの誰だか知らんが、余程死にたいと見える」
髭面の男は着ていた服を脱いで上半身裸になると、腰にある2本の片手斧を抜く。
「このガンマポートを牛耳る闇ギルドの総帥、ハチェットのブローテたぁ俺様の事! 可愛い子分を痛めつけた以上、生きては返さんぞ!」
ブローテは巨体に似合わぬスピードでミーティアとの距離を詰めると、彼女の頭蓋めがけて斧を振り下ろす。
対するミーティアは、一歩も動かずに不敵な笑みを浮かべながらそれを見ていた。
「フン、俺様の斧をくらえばひとたまりも……何っ!?」
ミーティアの頭めがけて放たれた攻撃は頭部の中心を捉えていたにもかかわらず、彼女の頭にはかすり傷のような僅かな傷すら付いていなかった。
「なぁんだ、この程度か」
ミーティアは木の枝を持った右手を自身の真横に突き出して木の枝に魔力を込めてゆっくり右腕を上げ、剣で斬るように振り下ろす。
ありったけの魔力が込められた枝はブローテの鍛えられた肉体を引き裂き、血を噴出させる。
「ば、馬鹿な……!?」
驚きか、それとも恐怖か、ブローテは3歩程後ずさり、理解が追いつかない表情でミーティアを見る。
「来ないならこっちから行くよ?」
そうミーティアが言った次の瞬間、ブローテの視界からミーティアが消える。
「ほらほらほら! 生きて返さないんじゃなかったの〜?」
ミーティアはまさに目にも止まらぬ速さで、次々とブローテに斬撃を加える。
ブローテは防御も反撃も許されず、ただただ傷を受けるばかりだった。
「おりゃっ!」
ひとしきりダメージを与えた後、ミーティアはとどめとばかりにブローテを背後から蹴っ飛ばす。
ブローテの身体は酒場のカウンターを越え、酒瓶の置かれた棚に叩きつけられた。
「流石だ、ミーティア君。実に鮮やかな手際だったよ」
パンパンと服を手で払うミーティアの元へ、ジョーカーが拍手と共に現れる。
「どうも。でもま、これくらいは普通でしょ」
ミーティアは枝をしまい、手を頭の後ろに回す。
「さて、気晴らしも済んだし、早いとこミザンの島ってところに行こうよ」
「ふむ、ではそうしよう」
ミーティアとジョーカーは、闇ギルドのアジトを後にした。
……………………
………………
ミーティアとジョーカーは船着場に行き、ミザン島行きの乗船券を買う。
出航を待つ間、船着場で退屈そうにスマホをいじるミーティアの元に、先程彼女によって窮地を救われた女性が現れる。
「あ、あのっ!」
「何?」
「助けていただき、本当にありがとうございます!」
女性はそう言って深々と頭を下げた。
「それ言うためにわざわざここ来たの?」
「いえ、そうではありません。何かお礼をできればと……」
「いいよそんなの。言ったでしょ? 今日の貴方はとても運がいいって」
「で、ですが、それでは私の気持ちが治りません! せめて名前だけでも……」
「名前? ミーティアだけど」
「ミーティアさん……素敵なお名前ですね」
「そう? ありがと〜」
その時、ミザン島行きの船が船着場に到着する。
「ミーティア君、船が来たようだよ」
「うん、知ってる。じゃあねぇ運の良いお姉さん。またね〜」
ミーティアは微笑みながら手を振り、先を行くジョーカーの後を追って船に乗り込む。
「まるで勇者のような立ち回りだね、ミーティア君」
「私達勇者って設定なんでしょ? 進也君を探す以外は特に方針は決まってないし、媚売って損は無いでしょ」
「そうか。だが、ここはゲームの世界、君の望む事なら何でもできる。型にとらわれる必要は無い」
「何それ。人殺しでもやれってこと?」
「そうは言ってないさ。だが、そういう事もできるってだけさ」
「ま、頭の片隅くらいには置いといてあげるよ、ジョーカーちゃん」
ミーティアを乗せた船は、ミザン島へ向けて進んでいく。
ミーティアが蹴散らした闇ギルドは領主や冒険者ギルドも対応に手を焼いていたギルドであり、それを一瞬のうちに壊滅させた彼女の名は、ガンマポートを中心にして各地に広がる事となったが、それはまた別の話である。
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