クエスト6-14 未来は丁字路のごとく

 



 翌朝、冒険者ギルドの一室。





「それでは、昇級面接を始めさせていただきます」

「よろしくお願いします」

「お、お願いします」

「うーっす」



 応接室のような場所で俺とタンデとズッカは椅子に座り、机を挟んだ向こう側には2名の面接官であるギルドスタッフが同じく椅子に座る。

 その背後には神官の女性が柔和な笑みを浮かべて立っている。



 何で立ってるんだろう……




「緊張しなくていいですよ。今から行う質問に正直に答えてくださればそれで構いません」



 金髪を三つ編みにした、大人っぽい雰囲気を持つ面接官の女性がそう言う。



「嘘はいけませんよ〜。私のセンス・ライで嘘を見抜いちゃいますからね〜」


 と神官の女性からのお達し。


 なるほど、神官の女性がいるのはそのためか。



「まずは御三方のギルドカードを預からせていただきます。結果通知の際に更新してお返しいたしますので、ご提出お願いします」

「分かりました」

「は、はい」

「えーと、どこだっけ……お、あったあった」



 面接官にギルドカードを渡す。




「ありがとうございます。まずは……討伐した魔物の素材以外で依頼遂行中に発見し取得した物はウィンドダガーが1本のみ、で間違いありませんか?」



 ウィンドダガーと言うと……ケイブワームの洞窟で拾ったアレか。



「はい」

「誰が所有していますか? それとも既に売却していますか?」

「あ、僕が持ってます。出した方がいいですか?」

「いえ、その必要はありません」



 サンドラール以来拾った記憶が無いので忘れていたが、依頼の遂行中に何かしらの物品を拾った際にはその旨を報告する義務がある。


 まあ、サンドラールは依頼とは関係無くダンジョンで拾った宝に対する報告義務だったが……





 藍色の髪の、眼鏡をかけた女性の面接官が神官の方を見る。

 神官が笑みを浮かべたまま首を横に振ったのを確認すると、手元の紙に筆を走らせた。




「次に……シンヤさんは獣の大陸からこちらに来た冒険者ですよね?」

「はい」

「タンデさんとズッカさんはこの街で初めて冒険者登録をなさっていましたが、それ以前に魔物退治などの経験はございますか?」

「魔物退治というか……修行をしてました」

「オレも。まあ修行の時とかに魔物何回もぶっ飛ばしてたし、似たようなもんだろ」

「なるほど……かしこまりました」




 そんな感じで、面接官はその後も何度か質問を行った。



 内容は主に現状確認とかこれまで受けた依頼とか、そういった事を色々と。





 ……………………





 ………………




「それでは、これにて面接は終了です。お疲れ様でした。ギルドカードは結果通知と同時に返却いたします。こちらのヨビガエルが鳴きましたらまたこの部屋へいらしてください。それまではこのギルド内でお待ちくださいませ」



 そう言って渡されたのは、手のひらサイズの黄色いカエル。



「分かりました」



 グミのように少し透けていて、ぷにぷにしたそのカエルは、俺の手のひらでじっとしている。

 かわいい。




「「……」」

「なぁ、見たい気持ちは分かるけど一旦酒場にに行こうぜ」

「あ、うん。そうだね」



 カエルを凝視していた2人を酒場に行くように促す。

 面接官に頭を下げ、俺も部屋を出た。






 酒場へとやってくると、リズが席に座って手を振っていた。

 席へと座り、ヨビガエルをテーブルに置く。



「やっほー。どうだった?」

「どうも何も、現状とこれまでの依頼の確認とかそんなのばっかりだったんだが」

「受かってるかな?」

「まあ、黒鉄級の審査で落ちる人なんて相当不真面目な奴だから大丈夫だよ」

「そうかな?」

「そうだよ〜」




 リズはうんうんと頷き答える。





「それにしても、おもしれー色してるカエルだよな、こいつ」


 タンデはヨビガエルを突っつくが、ヨビガエルは特に反応することもなくじっとしている。




「可愛いよね」

「ちょっと透けてるところとかすごくいいよねー」


 確かに可愛いが……何だろう、グミに見える。

 多分レモン味だろうな……







 それから暫く4人でヨビガエルを眺めていると、ふいにゲコゲコと鳴き出した。



「おっ」

「結果が出たみたいだね。行っておいでー」

「じゃ、行ってくる」

「いってらっしゃーい」



 う……ちょっと緊張してきた……






 ……………………





 ………………



 再び応接間に来ると、まずはヨビガエルを返す。

 その後、金髪の面接官からギルドカードを返却された。


「審査の結果、御三方は黒鉄級への昇級が認められました。おめでとうございます、合格です」

「ふぅ……」

「っしゃぁ!」

「やったね!」



 2人が喜ぶ傍で、胸をなで下ろす。

 喜びより先に安堵が来た。


 肩の荷が降りるというか、自身の心臓にかかる負荷が一気に下がるのが分かる。





「昇格は我々ギルドの貴方達に対する信用度の上昇を意味します。喜ぶのは結構ですが、これからは信用に足る行動を心がけてください。でなければ、待っているのは降級処分です」


 眼鏡をかけた面接官が釘を指すように言う。


「分かりました」

「これからも頑張ってくださいね」

「はい」






 酒場に戻ってくると、リズだけでなくメアシスさんとロッソさんもいた。

 ……ロッソさんは席が空いてるのに何故か立っている。

 さっきの神官の女性といい、そういうのが流行ってるのか? それともマナーなのか?




「本日は昇級審査と聞きましたわ。結果のほどはいかが?」

「全員昇級です」

「あら、それは良かったですわね。おめでとうございます」

「蒼銀からは難しくなるぞ。上を目指すなら覚えておけ」

「ありがとうございます」



 笑顔で祝福の言葉を述べるメアシスさんに対し、ロッソさんは表情を変えず忠告を述べる。







「め、メアシスさん……」



 ズッカは緊張した面持ちで1歩前に出る。




「何かしら?」

「昨日していただいた話ですが、僕達で色々考えました」



 頑張れ、ズッカ!



「それで、その……僕を旅に同行させてください!」




 ズッカはそう言って、メアシスさんに頭を下げた。





「ええ、勿論ですわ。これからよろしくお願いします、ズッカ」


 顔を上げたズッカに、メアシスさんは微笑みかける。



「よろしく頼む」



 ロッソさんは相変わらず表情を崩さない。





「……」




 その様子を見て、タンデがいつになく真剣な表情でメアシスさんの前に出る。




「メアシスとロッソ、だったな……ズッカの事、頼んだぞ。ズッカはオレのダチだ、同じチャナ村の村人だ! 死なせたりしたらタダじゃおかねぇからな!!」


 メアシスさんの前でそう言い切ったタンデの肩をズッカが叩く。


「タンデ」

「んだよ!」

「相手はお貴族様なんだからですとかますとか付けなきゃ駄目だよ」

「ます!!」

「その……ごめんなさい……」



 思わず手で顔を覆う。

 台無しじゃねぇか……




「口調に関しては私はどうもしませんが……もう少し勉強した方がよろしくてよ、相手によっては首が飛びますわ」

「それに関しては今後俺が教えておきます……ともかく、ズッカをよろしくお願いします」




 俺はそう言って頭を下げた。




「ええ、任せておきなさい。それで……貴方達が対価に望むものは何かしら?」

「はーい! 生命の水100個です!」




 横から自信満々で言うリズだが、あいつは何に自信を持っているんだ?




「ええ、承りましたわ。今日の昼頃には調達できると思いますので、それまでお時間を頂いてもよろしくて?」

「え……分かりました」



 隣でしょげてるリズを見て、何を期待していたのかをなんとなく察する。


 求めていたのは多分、驚いた顔。






 ……………………






 ………………







 正午より少し前。

 早めだが、飯は済ませておいた。






 メアシスさんから指定の物資を受け取るにはまだ少し時間がある。



 そんな中、やってきたのは港。

 ズッカとピスはメアシスさんの手伝いに行った。




「港に来たのはいいけど、何すんだ?」

「昇級も済んだし、ミザン島へ行くための船を探す」

「そんな事も言ってたなそういや」



 などと言いつつ船を探す。



 ミザン島行きの船は1日ごとに数回出ているらしく、幸い今日がその日だった。



「……では、その時間でお願いします」

「はいよ〜」




 次の出航時間は14時くらい。

 ちょっとギリギリかもしれないが……








 乗船手続きを済ませた後は、冒険者ギルドへ戻る。



「ミザン島か〜、楽しみだなぁ」

「言っておくけど観光に行くわけじゃないぞ」

「分かってるよぉ」


 忠告に対してリズは口を尖らせる。



「そのミザン? ってのには何があんだ?」

「温泉! ミザン島には温泉がいっぱいあるんだ〜」



 ふむ、温泉か。




「温泉って何だ?」

「でっかいお風呂!」

「でかいのか!」





 会話をしていると、メアシスさん達が戻ってきた。




「約束の物資をお持ちしましたわ」



 メアシスさんがそう言うと、ロッソさんは担いでいた木箱を降ろす。



 25個入りの箱が4つ……よし、足りているな。




「確認しました。100個あります。ピス」

「がってんデス!」




 ピスがボックスを発動すると、俺はそれをピスの中に入れる。



「えー、すっごい……」

「お前どうなってんだ……」

「これがボクの持つとっておきの魔法、ボックスなのデス!」



 驚きを通り越して引き気味の反応を見せるリズとタンデに、ピスは得意気に返す。




「さて、私としてはこれで用は済みましたが……ズッカ、彼らに挨拶は済ませましたか?」

「あっ、いえ」

「行ってきなさい」

「は、はい」




 メアシスさんに促されるまま、ズッカは俺達の所へ来た。



「皆……僕、頑張るよ。皆も、頑張ってね」

「ああ」

「おうよ」

「うん」

「えっと……またね!」

「ああ、また会おう!」





「では、我々はこれで失礼しますわ」

「行ってくるね、皆」

「ああ」




 メアシスさんと共に酒場を出るズッカを皆で見送った。




 ズッカの姿が見えなくなった後、タンデと顔を見合わせる。



「……行ったな」

「ああ」

「行こうぜ、オレ達も」

「そうだな」




 寂しい気持ちを誤魔化すように深呼吸して、叫ぶ。




「俺達もいくぞ、ミザン島へ! 用意はいいな!」

「おう!」「うん!」「がってんデス!」






 酒場を飛び出し、港へ向かう。




 出会いがあれば別れもある。


 死に別れじゃないなら、またきっと会えるはずだ。






 ――現在のギルドカード――





 名前:シンヤ・ハギ  種族:荒野の民 階級:黒鉄

 属性:無  レベル:16 職業:勇者

 体力:83  魔力:0

 筋力:63  敏捷:78

 創造:18  器用:77



 名前:タンデ・エコノ  種族:草原の民 階級:黒鉄

 属性:風  レベル:16 職業:シーフ

 体力:67  魔力:15

 筋力:99  敏捷:116

 創造:7   器用:44



 名前:リーズヴェル・コランダム 種族:森の民 階級:黒鉄

 属性:水 レベル:16 職業:魔法使い

 体力:46 魔力:69

 筋力:23 敏捷:35

 創造:99 器用:52


 名前:ピーステール・フォリア 種族:森の民 階級:緋銅

 属性:風 レベル:1 職業:吟遊詩人

 体力:35 魔力:130

 筋力:5  敏捷:25

 創造:35 器用:25





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