クエスト6-3 花の令嬢と蜥蜴の傭兵

 




 この大陸での初依頼を終え、デルタポートへと戻ってきた俺達。



 ギルドでモノプスの素材を売り払った後、適当な席に座って、今回入手した資金を分配する。




「依頼の報酬についてだが、基本的に同じになるように分配しようと思う」

「おお」「うん」

「まずはモノプスの分だ」

「おう、悪いな」「ありがとう」




 モノプスの討伐で入手した報酬と、モノプスの素材を売って入手したお金を等分して渡す。





「で、治療の依頼だが……これに関しては俺は何もしていない。俺の分も持っていけ、ズッカ」

「オレもやるよ。えーと……狩りを怠る者は飢えて然るべし……だっけ? まあそういうこった」

「えっ!? 悪いよそんなの!」

「いいんだよ、お前の頑張りだからな」

「そうだぜズッカ」

「うーん……それだったらモノプスの分は2人で分けてよ。こっちは僕は何もしてないし、2人の頑張りだからね」

「いいのか?」

「うん」




 初報酬はモノプスの分を俺とタンデで分配、治療の分はズッカの総取りとなった。








 その後は陽が落ちるまで町中での簡単な依頼を消化し、宿屋へと帰った。

 そして俺達の取った部屋が何故安いかを身をもって思い知らされた。





 疲れきった身体に5階への階段は中々の拷問だった。




 ……………………





 ………………






 それからは比較的報酬の高い討伐系の依頼を中心に依頼を受け、あちこちの村を奔走する日々が始まった。



 緋銅級に回ってくる討伐系依頼の推奨レベルは高くても10程度なので、15ともなれば簡単に倒せる。

 むしろ単体で強い魔物より集団で挑んでくる魔物の方がキツい。ゴブリンとか。


 今後必要になるかもしれないのでハンマーとショートソードを買い足しておいた。ピスと合流したら既存のやつは売り払おう。





 素材回収系依頼においては、戦闘を挟まない物の場合はズッカが主導となって依頼に取り組む。



 植物の見分けや目利きにおいては、俺やタンデとは比較にならないほどに正確な見定めを行える。


 時折病気の治療の依頼も入ってくるが、これに関してはズッカの独壇場だ。俺とタンデに出番は回ってこない。









 ……とまあ、そんなこんなで冒険者生活を開始してから2週間が過ぎた。




 階級はまだ緋銅級のままで、資金の貯まり具合もそこそこ、仲間の情報も無しと正直もどかしい状況だが、焦りは禁物。地道にやっていくしかない。





「さて、今日はどうする?」

「まずは討伐系から見るね。えーと、洞窟に巣食うゴブリンの退治に、田畑を荒らすライスイーターの群れの討伐、それから……」

「貴方達、少しいいかしら?」



 受ける依頼をどうするか話そうとしていた俺達に、1人の女性冒険者が花の香りと共にやってきた。


 深紅のベレー帽に似た帽子を被り、これまた深紅のドレスとコートを合わせたような服を身に纏っている。腰には高価そうなレイピア。

 紫髪のロングヘアをツインテールにしてあり、髪の先の方は縦にロールしてあり、つり目がちな銀色の瞳はこちらを見据えている。年は……俺と同じくらいか?


 身体は俺と同程度の160後半と思われる、恐ろしく美人でスタイルも抜群な女剣士。服装は結構身体のラインが出てるが、高貴さも感じられるデザインだ。




 全体の雰囲気を一言で言うなら、スタイル抜群の高飛車なお嬢様……といったところか?




「構いませんが……我々に、何か?」



 返答しつつタンデとズッカの方をチラリと見ると、2人とも固まってた。

 まあ……なんというか、それなりに刺激強いし……





 俺は……同年代かつ気の強そうな感じの女性はどうも相澤の影がチラついて駄目だ。



「膨大な魔力を持ち、精神を蝕む魔物……私達は異形の魔物と呼称していますが、それついて何かご存知ですこと?」




 異形の魔物……?




「いえ、申し訳ありませんが、そのようなものは初めて聞きました」

「えっと……うーん……僕も心当たりは無いですね……」

「ボインボイン‎のねーちゃん……」

「おいタンデ! しっかりしろ!」

「そうですか……それならば仕方ありませんわね。ところで、勇者を名乗り、好き勝手な振る舞いをする人物に関して心当たりはありませんこと?」



 勇者を名乗り、好き勝手な振る舞いをする……?



 そんな事をする奴がいるのか?



「好き勝手って何をするんだ?」

「施設の破壊、窃盗、拉致、殺人……窃盗に関しては、特に奴隷商が被害に遭っているという報告があります」


 タンデの質問に女剣士が答える。


 くそっ、風評被害もいいとこだな……

 この大陸で勇者を名乗るのは避けた方がいいかもしれない。



「シンヤ、お前はそんな事してないよな!?」

「当たり前だ!」

「そうだよね、もし悪い奴ならお父さんの作った武器とか盗んでるだろうし……」

「何故、貴方達は黒髪の彼に問いかけていますの?」



 女剣士が問いかける。

 まあ、事情を知らないならそうなるか……


「これを見ていただければ分かるかと」



 百聞は一見に如かず、論より証拠……ということで俺のギルドカードを見せる。


 女剣士はギルドカードに目を通すと、俺に返す。

 目を通した際にピクリと眉が動いたのは……おそらくアレだな、魔力0。




「なるほど、貴方自身が勇者であると……そういう事ですわね?」

「ええ。ですが、貴方が言ったような事は断じてやっておりません。証明は難しいですが……」




 こればっかりは悪魔の証明ってやつだしなぁ……



「でしょうね。ですが心配は無用です。勇者を偽る連中にはいくつかの共通点があります。それらに関する質問に正直に答えていただければ……」

「どけ」





 そう話す女剣士をどかして現れたのは、かつて俺達に絡んできた冒険者のおっさんを退けた大柄な蜥蜴の戦士、ロッソさんだった。




「ちょっと! 今は私が……」

「もっと簡単な方法がある」

「……貴方まさか戦えば分かるとか言い出したりしないでしょうね!?」



 えっ?



「ああ。人は嘘をつく。だが、刃は嘘をつかない。黒髪の、表に出ろ。そして俺と戦え」



 貴方は俺に死ねって言うのですか? どう見ても俺の方が格下だし場数も全然違いそうですしなんなら俺ワンパンで負けそうな気すらするんですが?



「ちょっと! その手法はあまりに野蛮ですわ!」

「黙れ。連中は加護持ちと言ったのはお前だろう。お前の魔法が通るとは限らん。それに、例の物や言葉を出すかもしれん」

「だとしても他にやり方があるでしょう!? それに、加護に関しては貴方の攻撃が通る保証も無くってよ!」

「詰めの甘いお前よりは上手くやれる」

「何ですって!? もう1度言ってごらんなさい! ロッソ!!」



 憤る女剣士を無視して、ロッソさんはこちらへ歩み寄る。

 あ、圧がすごい……




「刃は嘘をつかない。故に、誤魔化しは通じない。偽物の振るう刃は偽物らしい歪な刃となる。歪かどうかは、戦えば分かる。安心しろ、殺しはせん」

「正しい人間はそれに相応しい戦い方をする。今から行う戦いは、それを見定めるもの……そういう事ですか?」

「ああ」



 嘘をついている人間は仕草で分かる、という話は元の世界で聞き覚えがある。その延長線上と考えれば、一応の辻褄は合う。

 殺しはしないとかそういう問題じゃないけど、それで証明できるなら逃げる理由は無い。怖いけどやるしかなさそうだ。




「……分かりました」


 席を立ち、ロッソさんと一緒に外へ出る。



「……シンヤ、大丈夫なの?」

「悪いことはしていないつもりだ。まあ、なんとか頑張ってみる」

「死ぬなよシンヤ」

「……努力する」



 入り口の扉を開ける背後で、女剣士のため息が聞こえた。

 その……お疲れ様です……



 ……………………





 ………………







 酒場の前の通りで、俺とロッソさんは荒野のガンマンのごとく向かい合う。



 タンデとズッカは心配そうな顔つきで、さっきの女剣士は呆れたような顔つきで、俺とロッソさんを少し離れた場所から眺めている。




 ラガードとは比較にならない、ともすればフィンよりも強いかもしれない相手。身体から嫌な感じの汗が出る。心臓が高鳴る。

 現在進行形で増えまくるギャラリーも目に付かない。というかそれどころではない。





「そっちから来い」


 ロッソさんはそう言って背中の剣を抜き、構える。

 俺も同じく剣を構える。



 ……やべぇな、ロッソさんの構えが堂に入りすぎている。隙が無い。





 落ちつけ……落ち着け……臆するな……誓っておかしな事はしていない。俺はただ女神ニヴァリスに頼まれた通りに、勇者としての使命を全うしてきただけだ……やましい事など、何も無い。



 ……こうなったらあれだ、胸を借りるつもりで行こう。熟練者から学ぶいい機会だ。





「うおおおおおお!!」







 どうせこの距離じゃ小手先の技には頼れねぇ、真正面から行くしかない!




「せりゃぁ!」

「ふん」





 両手で放った斬撃は籠手で受け止められる。

 押し切ろうにも、少しも動かせない。




 一度離して仕切り直そうとしたその時、



「!?」





 視界と身体がぐるりと回り、吹き飛ばされる。


 それがロッソさんが俺の剣を掴んで俺ごと放り投げた事によるものだと気付いたのは、受け身に失敗した状態から再び起き上がった時だった。






「……」




 動きを見せないロッソさんに再び斬りかかる。




 放った斬撃のひとつひとつをロッソさんは無駄のない動きで弾き、隙を与えない。



 くそっ、どうやったら崩せるんだ!?





「その程度か」

「何を!」





 直後、ロッソさんの斬撃が飛ぶ。


 雷のように素早く、そして凄まじい衝撃のそれを辛うじて防いだものの、その衝撃を殺すまでには至らず、大きなノックバックが発生する。






「……」






 体勢を立て直した俺を見るロッソさんの瞳からは、何かを待っているような意思を感じる。



 仮にそうだとしたら、何を待っている……?







「この程度では見えんか……ならば」





 ロッソさんは剣を収め、クラウチングスタートのような体勢を取った。


 これは……来る!



「ぐっ……!」



 前にかけたロッソさんの右足に赤い稲妻が走った次の瞬間、咄嗟に構えた盾に強烈なタックルが飛ぶ。



 トラックでも突っ込んできたかのような衝撃が盾を持つ左腕に伝わる。

 衝撃を逸らしたはずなのに……!




 と思ったのも束の間、いつの間にか手に持っていたツルハシを真横に振るう。






「なっ……!?」




 ツルハシは俺が構えた盾を引っかけて強引に構えを解かせ、無防備な状態をさらけ出させる。



 まずい、今打ち込まれたら終わる!

 何か無いか……そうだ、風の精霊剣なら!





「このっ、ファルコンソード!」




 向こうがツルハシを振る前に鉄の剣を投げて攻撃を遅延させ、その隙にファルコンソードを呼び出す。






「バショウセン!」





 間髪入れずにファルコンを横薙ぎに振り、バショウセンによる突風でロッソさんを遠ざける。




 広範囲なバショウセンならプッシュ・ウィンドと違って当て漏らしは起きにくい。




「ほう……」





 ヤバい、何かロッソさんがやる気になった気配がする。







 ロッソさんは武器を構え直し、再び向かってくる。

 さっきみたいな事前モーションが無くても滅茶苦茶速いなこの人!




「プッシュ・ウィンド!」





 ロッソさんとすれ違うように逃げ、鉄の剣を回収してファルコンソードを送還する。



「ガイアエッジ!」




 追ってきたロッソさんにガイアエッジを放つ。




「!」




 若干タイミングが早く、進路を塞ぐようにして現れたガイアエッジは蹴り飛ばされた。




 いつの間にか剣に持ち替えたロッソさんの攻撃を防ぎ、そこから連続の打ち合いが発生する。






 剣と剣が打ち合う度、火花が散る。





 俺の攻撃を軽くいなすロッソさんと違い、俺はギリギリの戦いを強いられている。



 一見大振りで遅く見切りやすい攻撃に見せかけ、実際はガードしにくい厄介な場所を狙ってくる。

 向こうは大振りとはいえ俺の全力を余裕で超えるパワーを片手で繰り出し、防ぐので精一杯だ。




「くっ……!」




 20回ほど打ち合った一瞬、攻撃を打ち込む隙が見えた。




「そこかっ!」





 その瞬間を狙い、持てる力全てを駆使して攻撃を叩き込む。




「ふん」





 直後、手に伝わる衝撃と共に俺の剣が宙を舞う。





 何が起きたか、分からなかった。







「……見えた。これ以上は無用だな」





 ロッソさんが剣を収めた時、何故俺の剣が宙を舞ったのかをようやく理解した。








 あの隙は罠だったんだ。





 俺が攻撃を叩き込むよう誘導し、斬り上げによるカウンターで剣を吹っ飛ばした。


 今冷静に考えてみれば、あれは確かに不自然だった。

 恐らく、焦って判断力が鈍ったのを見透かされたのだろう。







 あー……折角修行したのにこのザマとは情けねぇなぁ畜生……




「おい」



 剣を拾って収めると、ロッソさんに透明な液体の入った瓶を投げ渡される。



「加減はしたが、消耗しただろう。生命の水だ、飲んでおけ」

「あ、はい。ありがとうございます」



 飲んでみると、身体中から力が湧いてくるような不思議な感覚がした。



「強引な手段を取って悪いな。だが、あいつは魔力隠蔽に長けたお前に魔力感知で嘘を暴く愚行をやりかねん」

「は、はぁ……」



 隠してるんじゃなくて素でこうなんだけどなぁ……



「シンヤ、大丈夫?」

「まあ、なんとか……」

「なんだお前、ボコボコだったじゃねぇか」

「あの人の方がより経験を積んでた、って事だろう。上には上がいるものさ。まあ、腕を上げるべきなのは事実だが……」




 駆け寄ってきたタンデとズッカと話している中、ロッソさんも女剣士とやり取りをしていた。




「巻き髪女、こいつは違う。経験は浅いが、刃に歪みは無い」

「でーすーかーらー! 貴方はその巻き髪女というふざけた呼称をやめなさいって屋敷を出る前から言っているでしょう!? 私は! 誇り高きラベンディアの一族! メアシス・ラベンディアですわ!!」



 メアシスと名乗った女剣士は地団駄を踏みながら憤慨した様子で叫ぶ。



「五月蝿いぞ巻き髪女」

「誰の! せい! だか! 言って! ごらんな! さい!」



 メアシスさんはロッソを指差しつつ、ツカツカと歩み寄る。


 何というか……思ったより愉快だな、この人達。




「……まあいいですわ。ロッソ、貴方の判断には異論はありません。彼の魔力値が0なのは気になりますが、異様な加護も歪な強さも板状の魔法具も無い……ギルドから聞いた情報とも合致していませんわ。彼が本物の勇者かどうかはともかく、例の偽物ではなさそうですわね」

「ああ」

「さて……」



 メアシスさんは俺達の方に歩み寄る。




「この度はご協力感謝いたします。強引な手段を取ってしまって申し訳ございません」




 メアシスさんは申し訳なさそうな顔で頭を下げた。




「いえ、納得してくれたなら結構です。それより、異形の魔物と偽物の勇者について詳しい話を聞かせてください。俺たちにとっても、他人事では済まされないと思いますので……」

「勿論、そのつもりですわ。ですが、その前にこれを」



 彼女はそう言って何かの入った袋を俺に手渡す。



「あの、これは?」

「強引な手段を取ったことに対する迷惑料ですわ。あまりこのような手段は好みませんが、今はこれくらいしか出せる物がありませんから」


 少し覗いてみると、1,600pdくらいはある量の硬貨が入っていた。

 下手な依頼より多いんですけど……


「いや、あの……」

「足りませんかしら?」

「そういう訳ではありませんが……」

「情報は大事ですが、それだけでは私の気が治りませんわ。どうかお受け取りくださいまし」

「……分かりました」



 まあ、くれるって言うなら貰っておくか……心許なかった資金面が潤うわけだし……



「それと、遅ればせながら自己紹介を致しますわ。わたくしはメアシス・ラベンディア。そこの蜥蜴男はロッソ。私達は異形の魔物と偽物の勇者について調査のために各地を渡り歩いていますの」



 メアシスさんはカーテシー……スカートの裾を摘んで持ち上げ、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げて行う、いわゆるお嬢様とかがやってそうなお辞儀を披露する。

 生で見るのは初めてだ……



「さて、まずは異形の魔物についてですが……あれは今から2年ほど前に集の大陸のオルセ島で初めて観測され、その後も大陸を問わず各地で観測された、どこの国やギルドにも目撃情報の無い魔物の事ですわ。見た目は出没地域によって違うようですが、いずれも平静を保てなくなる程のおぞましい見た目と強大な魔力を有している事は共通しています」



 各地って事は、獣の大陸にもいた可能性があるよな?

 そんなおっかない魔物の情報なんか聞いた事無いぞ?



「獣の大陸でも観測されていたのですか?」

「8ヶ月ほど前に観測されたようですわ。どうにか鎮圧できたそうですが……」



 8ヶ月前、ってことは……俺がチャナ村に流れ着いてちょっとくらいか?



 にしても、平静を保てなくなる程のおぞましい見た目の魔物か……あれ、何か聞き覚えがあるな。この世界で聞いたものじゃないが……何だっけ?




「平静を保てなくなる、って……どういう事ですか?」



 そう質問したのはズッカだ。




「その魔物を目撃した瞬間、狂気で精神を蝕まれるそうですわ。精神を蝕まれた人は金切り声を上げたり、金縛りに遭ったりと、必ず何かしらの狂気に苛まれた……との報告があります」

「見ただけでそうなる、って……そんなの倒せるんですか?」

「……私が聞く限りでは、どこも手を焼いているようですわ。ですが、症状の程度には個人差があるようです。基本的に魔力が多い人ほどより深く精神を蝕まれるとか……」



 魔力が多い人ほどダメージが大きいのなら、逆説的に俺は無傷で切り抜けられる可能性があるな。




「私達は異形の魔物の調査をしているのですが、その魔物が出る前に必ず偽物の勇者の目撃情報が寄せられていたのです」

「偽物の勇者……」

「先に言いました通り、勇者を偽って好き勝手に振る舞う連中の事です。初めて報告が上がったのは2年と少し前でしたわね。こちらも大陸を問わず、様々な地域で観測されているようですわ。そしてそれの大体が、異形の魔物の出現地域と一致しています。一致してない場所でも、かなり近い場所で確認されていますわ」

「確かに、無関係とは思えませんね」

「ええ。厄介なのは、観測された連中の全員が加護のある武器を持ち、当人も加護を受けている事ですわね。並の冒険者や兵士ではどうにもならない上に、見てくれは非常に『それらしい』のですから」

「でもそいつと普通の奴とどうやって見分けんだ?」



 今度はタンデが質問する。



「すきるやすまほ……それからげえむ……だったかしら? とにかく聞き慣れない言葉を説明も無しに多用する人がいたら気を付けなさい。それから、手の平に収まる大きさの板状の魔法具を持っている事も多いと聞きます」



 スキル……スマホ……もしかしなくても、その偽勇者は地球人……そしてそいつらの国籍は、日本!






 今にして思えば、サンドラールで俺を殺しに来たファフニールは過去に何人かの勇者を仕留めてきたかのような口振りだった。加護を封じる結界を仕掛けていた事も踏まえると、あいつは偽勇者を殺して回っていた可能性がある。




 あれ? でも……もしそうだとしたら、人間を混乱させるそいつらは放置していた方が魔王側には好都合なはず……ということは別勢力か? 




「私が知ってる情報については以上となりますわ。もし異形の魔物や偽物の勇者の情報を入手したら、私達に届けてくださいまし。謝礼を用意いたしますわ」

「分かりました。別件ですが、聞きたい事が1つ」

「何かしら?」

「実はですね……」



 メアシスさんにトルカ達を見ていないかを質問した。



「それらの方々は見かけておりませんわね……関係あるかは分かりませんが、黄緑色の風変わりな妖精を見かけた事はありますわ」


 黄緑色……まさか……!?


「それ……もしかして、1人称がボクでなんとかデスって感じの口調だったりしませんか?」

「ええ、まさにそのような感じでしたわ」


 ビンゴだ! ピスだ!


「本当ですか!? それで、彼は今どこに!?」

「申し訳ありませんが、そこまでは存じ上げません。なにせ見かけたのは半年以上も前ですので」

「そうですか……」



 情報を見つけたのはいいが、こっちも半年前か……この島にいる可能性は高そうだが、デルタポートにいないなら一体どこに?




「ごめんなさい……お力添えできなくて。そちらの方も、見かけたらお伝えしますわ。それでは、ごきげんよう」



 メアシスさんとロッソさんは踵を返してその場を去る。

 メアシスさんの動きに合わせて、ふわりと花の香りが舞う。







「それにしても……異形の魔物に偽の勇者、か……」



 どうやら、この世界を取り巻く事態は思ったより複雑なようだ。


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