クエスト3-12 四天王ワールヴェント

 


 ディアマンテ遺跡、最下層。



 破壊されて出来た道を追いかけて出会ったのは、魔王の配下の四天王を名乗る魔物、ワールヴェント。


 いかにも脳筋っぽい見た目であるそいつは、俺達を見てニヤリと笑う。



「この遺跡を破壊していたのはお前か!」

「その通り! こうすれば貴様のような正義ぶった愚かなヒトガタは簡単に釣れるからな! それに面倒なのは大嫌いなんだよ!」



 これが画面の前の出来事……つまりゲームやアニメであれば、脳筋だ噛ませだと笑うことができただろう。


 だが、目の前の魔物から伝わる強烈なオーラ、渦巻く風の音、感じる殺気が伝わってくる今この瞬間においては、剣を構えて睨みつけることしかできなかった。



「ほう?この俺様と戦うつもりか? ガッハッハッハ!! そこのヒトガタにしてはデカいのならともかく、そこのチビとお前のような何も気を感じない雑魚に喧嘩を売られるとは、俺様もナメられたもんだなぁ!」



 瞬間、ワールヴェントの姿が消える。



「!?」



 気付いた時には眼前に奴の拳が迫っていた。






 プロテクションが割れる音と連続する斬撃音が、耳に、頭に響く。





 奴の鉄拳はプロテクションで凌いだが、刃のごとく切り刻む風を受け、俺の身体は大きく吹っ飛ぶ。




 辛うじて着地には成功するが、カッターで切ったような傷を大量に付けられ、両腕に激痛が走る。




「シンヤさん!?」

「シンヤ様!!」

「ふん、そんなちっぽけな障壁なんぞ俺様には通用せんわぁ! ガッハッハッハ!!」





 メインのダメージソースである鉄拳は凌いだものの、切り裂く風は俺にいくつもの斬撃痕を刻みつける。


 1発でもプロテクションを粉々にするこの威力……!




「ピス、一旦腕輪に戻れ。お前があれを食らったら1発でバラバラだ」

「わ、分かりましたデス」




 薬草を右手に当てながら立ち上がる。


 激痛は、耐え凌ぐ……!




「偉大なる力の神よ、か弱き我らをお守りください! プロテクション!」






 フィンがプロテクションを貼り直す。




 1回とはいえダメージを0にできるプロテクションの存在の頼もしさを改めて認識した瞬間であった。



「いくらそのうっすい膜を張ったって無駄だぜぇ?なんたって俺様はいくらでもそいつを壊せるんだからなぁ!」

「ファルコンソード! プッシュ・ウィンド!」



 半ば反射的な行動だった。



 ワールヴェントがトルカの方を向いたのを確認した瞬間、ファルコンソードを展開し、プッシュ・ウィンドを地面に放つ。



「次は貴様だチビ!」

「プッシュ・ウィンド!」



 方向調整と加速のためにもう一度プッシュ・ウィンドを放った後、ファルコンソードを送還し、その勢いのままキックを繰り出す。



「ぐぇあ!?」





 トルカのプロテクションが破壊された直後、ワールヴェントの顔面にキックを叩き込む。



 思ったより入りが浅いが、注意は逸らした!




「トルカ!」

「……! 唸れ炎よ! ファイア!!」



 必死だった俺は叫ぶことしかできなかったが、トルカは意図を理解してくれた。




 近距離から放たれた火炎弾はワールヴェントの上半身に命中し、仰け反らせる。



「冷気の枷を受けよ! フロスト!」



 続け様に放った冷気弾は奴の左足を凍らせ、地面に貼り付けさせる。



 その間にトルカを抱え、一旦離脱する。





 連続攻撃のチャンスであったかもしれないが、プロテクションが無くなった今、それをやるのは危険だ。








「ガキのくせに調子に乗りやがって……! ふんっ!」




 ワールヴェントはトルカを睨みつけながら、凍結してくっついた左足を強引に引き剥がす。



 力任せに引き剥がしたにもかかわらず、奴は全くダメージを受けた様子は無い。




「俺様に小細工が通用すると思ったか? 馬鹿め!」

「はあっ!」




 飛びかかろうとしたところをフィンが体当たりで妨害する。

 重い打撃音が響き、フィンが俺とトルカの前に立つ。



「偉大なる力の神よ、災厄から守りし盾を我らにお貸しください! ガードウォール!」




 フィンは光の障壁で俺達とワールヴェントを分断する。



「無駄だぁ!」





 ワールヴェントは障壁を連続で殴りつける。




 フィンは魔力を送り込んで障壁を維持しているが、僅かながら奴の攻撃力が再生力を上回っている。



「トルカちゃん! 今のうちに威力の高い魔法を!」

「うん。荒ぶる怒りよ……」



 トルカが準備に入る最中、投げナイフに痺れ薬を塗って投擲する。




 ボス格に状態異常は効かないのはRPGの常であるが、やってみないことには分からない!





 投げナイフはワールヴェントに命中こそするが、麻痺が効くどころか刺さりすらせず、地面に落ちる音だけが響く。




「ふん、学習せんガキどもだな。俺様に小細工など……」

「メガファイア!!」



 ワールヴェントの言葉を遮るようにして、大きな爆発が起こる。




 壁一枚挟んだ向こうで強烈な爆発と砂埃が舞い、土煙が立ち込める。




「トルカ、フロスト・アローの準備を頼む」

「分かった。貫け、白き凍原の矢よ……」

「フィン、トルカの魔法が成功したら俺が攻撃を仕掛ける。続けて攻撃してくれ。駄目だったら現状維持だ」

「わ、分かりました!」




 いくらトルカの魔法が優れているとはいえ、あの程度で奴が倒れるとは思っていない。

 剣先に痺れ薬を塗り、土煙が晴れるのを待つ。



 フロストを打ち破る力を持つなら、麻痺させて動きを鈍らせればいい。

 投げナイフで駄目なら剣に塗るまでだ。



 通らないかもしれないが、それでも剣をぐっと握り締め、目の前の土煙を見据える。














 一瞬のはずなのに、凄まじく長い。







 土煙の中の静寂は、ガードウォールにヒビが入ることによって視界の良化を待たずに破られる。





「トルカ!」

「フロスト・アロー!!」



 亀裂めがけてトルカが冷気光線を放つ。






 凍りつく音と共に煙が徐々に晴れ、右腕が凍りついたワールヴェントのシルエットが現れる。





「小細工は無駄だと……!」




 左腕で殴って壊そうとするワールヴェントを、ガードウォールから剣が届くギリギリの距離から斬りつける。


 柔軟性を意識、振るのは肘から!!





 攻撃は左の脇の少し下に命中したが、やはり皮膚が硬くて入りが浅い!




「ふん! てめぇのような雑魚の攻撃なんか効かねぇんだよ!」

「ならば……バスターブロウ!」




 俺が後ろに下がった後、フィンが白く光るポールアックスを振り下ろす。



「ぐぉっ!?」


 かつて聞いた、魔力を武器に込めて威力を上げる手法。フィンの放った技は恐らくそれだ。


 遠心力と魔力を乗せ、唸りをあげながら振り下ろされたそれは、肩から腹にかけて深く大きな傷を刻みつけた。



 少し反応が遅れた辺り、僅かだが痺れ薬も効いたのかもしれない。




「大地を濡らす天の涙よ、刃となりて牙を剥け! アイスレイン!」





 怯むワールヴェントの頭上に魔法陣が展開され、次々と小さい氷柱が降り注ぐ。







「荒ぶる怒りよ、爆塵となりて全てを破壊せよ! メガファイア!」






 トドメとばかりにメガファイアがもう一度炸裂し、耳を裂くような爆発音が俺達を襲い、土煙がワールヴェントを覆う。





 爆発の衝撃で張り付いた右腕は外れたが、フィン‎の全力の一撃とアイスレイン、そして二度目のメガファイア。

 流石に今度は効いたはずだ。



「偉大なる力の神よ、か弱き我らをお守りください! プロテクション!」





 トルカがマナシロップを口に運び、空き瓶を投げ捨てる。


 フィンもプロテクションを全員にかけ直した後、マナシロップで魔力の補充を行う。






「流石に今のはちょーっと効いたぜぇ? だがなぁ……」







 奴の声が響いた直後、ガードウォール巨大な亀裂が走る。



 フィンが距離を取ったのを見て、俺達も下がる。





「その程度で俺様を倒すってんなら、甘いんだよ!!」






 ワールヴェントは続けて打撃を放ち、ガードウォールを砕き壊す。





 晴れる土煙と砕け落ちて消える障壁と共に、奴は再び姿を現した。






「さて……さっきのお返しと行くか」

「!」



 姿が消えたと同時に、フィンはトルカに向かって走る。






「さっきはよくもやってくれたなクソチビ……!」




 トルカの眼前に現れ、両手で殴る構えを取るワールヴェントに、フィンが割って入る。




 挟み込むようにして放たれた両手のパンチはプロテクションを1発で破壊し、そのまま組んだ両手をハンマーのように打ち下ろし、構えた盾を殴りつける。




「くっ……!」

「そぉぉ、らぁ!!」





 先の攻撃で体勢の崩れたフィンに、風を纏った強烈なアッパーを浴びせる。



「「フィン!!」」




 通常の人間の体躯を遥かに超えるフィンの身体は、紙屑のように宙を舞い、遠くへ吹っ飛ばされる。




「さて……今度こそてめぇの番だ!」

「……!」



 今度こそトルカを攻撃しようと腕を振り上げるワールヴェントに、





「させるかよ!」






 全力で突撃し、斬りかかる。








「せりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」






 ありったけの力を込めた一撃は、





「ふん」






 片手で容易く受け止められた。




「くそっ……!」




 押しても引いてもびくともしない。

 こいつの力マジでどうなってんだよ……!




「雑魚は引っ込んでな!」





 プロテクションが割られ、身体が宙に浮く。






 その原因が奴によって上へ投げ飛ばされたものだと気付いた時、奴の拳は俺の眼前に迫っていた。






 強烈な衝撃。







 血の味。




 折れる骨の音。







 ノイズでぐちゃぐちゃになる視界と意識。





「シンヤ!!」

「シンヤさん!!」





 強烈な右ストレートを受けた俺の身体は大きく吹っ飛び、地面を転がる。









 視界がブレる。








 身体中が痛い。





「ぐほっ……げほっ、げほっ…………!」





 息苦しさに咳き込めば、吐き出したのは大量の血。









「やれやれ、2度も邪魔が入ったぜ……だが、もうてめぇを守るやつはいねぇ。あの雑魚共々……」

「ファイア!!」






 トルカの叫びと爆発音が響く。





「唸れ炎よ!!! ファイア! ファイア! ファイア!!」

「てめっ、うぐっ、ふごっ、小癪なぁ!!」











 トルカが戦っている。








「トルカちゃん! こちらへ!」

「! うん」

「偉大なる力の神よ、災厄から守りし盾を我らにお貸しください! ガードウォール!」

「無駄だと言ってるだろうがぁ!」














 トルカとフィンが戦っている。















 立たねば。










 こんなところで寝ている場合じゃない。





「ん……くぅ……!」







 だが、力が入らない。







 うつ伏せのまま動けない。







「こんな、ところで……! くたばって、たまるか……!」






「シンヤ様!」




 この声……ピス?

 妖精態じゃない、人間態のほうか!





「ここで大人しくなんてできませんデス! 皆様の好意で賜ったこの人間の身体、今こそ活用する時デス! ふぬっ……!」



 人間態となったピスは、俺を仰向けにして上体を起こさせ、支える。



「シンヤ様、大丈夫デスか!?」

「薬草を……腰のとこ……鞄の中……」

「ええっと……こ、これデスかっ!?」

「ああ、それだ」



 どうにか手を動かし、薬草を貪る。





「ぐっ……くぅ…………ぅう……!!」

「シンヤ様!? まさか種類を間違えて……!?」

「違う……薬草は元々そういうものだ……っ!」




 もう既に全身死ぬほど痛いんだっ!! 今更痛みが増えたからなんだってんだあああああ!!!





 既に薬草によるフィードバックの痛みは何度も経験しているが、ダメージを受けた時のそれとは全く違う部類の痛みであるこれには慣れない。


 だが身体は元通りだ。あと数秒あれば動ける!




「ファルコンソード!」





 痛みの後の痺れが取れたと同時に立ち上がってファルコンソードを手にし、ワールヴェントを探す。








「いちいち小細工を仕掛けて鬱陶しいんだよてめぇ……へへへ、このまま握り潰してやるか」

「くっ……う……かは……っ」




 視界に飛び込んできたのは、ワールヴェントに首を絞められているフィンと、プロテクションを割られてうつ伏せに倒れ込むトルカ。




 それ以上はやらせるか!!




「ピス、トルカの救護を頼む」

「了解デス!」




 ワールヴェントとの距離と位置を調整し、鉄の剣を抜いたままファルコンソードを居合のように構えて集中する。




「プッシュ・ウィンド!!」






 突風の反動で飛び上がると同時にファルコンソードを送還する。



 このまま鉄の剣を構えて突きを……駄目だ、狙いが微妙に上にずれてる! 






 剣を下に構え、ヒットと同時に剣を振り上げる。





 勢いを付けたすれ違いざまの斬撃は、フィンの首を掴んだワールヴェントの腕を切り裂いた。


 くそっ! かってぇ! 






「き、貴様……!」





 まずい、体勢が……!




「がっ……!」



 勢いを制御しきれず着地を失敗し、ワールヴェントの手を離れたフィン共々自らを地面へと投げ出す形となった。




「ぐっ……!」

「げほっ、げほっ……!」



 くそっ、狙いが微妙にずれていた故の苦肉の策とはいえ、勢いをつけても斬撃じゃこの程度か……!


 反動による強烈な痛みが襲い、右腕は辛うじて動くが、左腕が動かない。




「貴様……雑魚のくせに俺様の拳を受けて何故生きている!?」

「さぁな!」



 フィンの前に立ち、そう言いながらグリーンポーションと生命の水を取り出し、前者は自分で使って後者はフィンに渡す。



 使い所に困って保存していた、薬草の上位互換である生命の水。

 俺が使うには薬草で事足りるが、フィンならこっちの方がいいはずだ。




「はぁ……はぁ……シンヤ、さん……」

「フィン、これを使え。生命の水だ」

「すみません、ありがとうございます……」

「邪魔だどけ雑魚め!」

「プッシュ・ウィンド!」




 俺をどかそうと殴りかかるワールヴェントをプッシュ・ウィンドで吹き飛ばす。



 流石に風の四天王だけあってほとんど吹っ飛ばず、強烈な左フックをギリギリ不発にできる距離しか動かない。




「こざかしい!」

「ぐあっ!?」





 次の一撃をかわしきれず、俺は真横に大きく吹っ飛んで倒れる。



「シンヤ!!」

「シンヤさん!!」

「シンヤ様はボクにお任せを! お二方は目の前の敵に集中してほしいのデス!」




 ファルコンソードを装備して防御力が下がった状態で攻撃を受けたせいか、今までとは比較にならないレベルの痛みが襲い来る。

 クリーンヒットでもないのにこれ、って……冗談だろ!?








 まずい。






 指の一本すら動かない。






 まともな呼吸ができない。






「ふん、調子に乗りやがって……」

「プロテクション!!」




 響くのは、プロテクションが破損する音、金属がへしゃげる音、魔法の音、そしてトルカとフィンの叫び声。





「貫け、白き凍原の矢よ! フロスト・アロー!」

「当たるかぁ!」

「させません!!」






 血が視界を妨害し、痛みが思考を妨害する。





「シンヤ様ー!!」




 ピスの呼び声に反応することすら出来ない。






「シンヤ様! お気を確かに! 薬草は確かこの鞄の中に……あったのデス!」




 ピスは再び俺を仰向けにして上体を起こさせ、薬草を口に押し込む。




 もはや親しみすら覚え始めた薬草由来の全身の痛みが消えると、意識が徐々にクリアになる。





「シンヤ様、ご無事デスか!?」

「ああ。助かった」





 血で濡れた目元を拭い、更に追加で薬草を貪って完全回復させる。





 起き上がって走り、ワールヴェントとの位置を調整する。






「ピス、2人に伝えてほしい事がある。それからフラッシュで目くらましも頼みたい」

「がってんデス!」






 妖精態となったピスに作戦を伝え、トルカとフィンの元に伝達を頼み、鉄の剣を持ったまま左腕で居合いのようにファルコンソードを構える。







 作戦といっても、プッシュ・ウィンドを利用した突きの一撃という荒業に過ぎない。

 フィンに伝えたのは、ミスっても大丈夫なようにガードウォールを張ってほしいという旨だ。




「ハァ…………ハァ……」

「ふん、ヒトガタの割にはよく耐えるじゃねぇか……」






 フィンが詠唱に入ったのを遠くから確認すると、





「プッシュ……ウィンドォォォ!!」





 ワールヴェントの真後ろからプッシュ・ウィンドを最大風力で吹かす。



 急加速による衝撃を堪えつつ、ファルコンソードを送還。


 展開されるガードウォールと、ピスが放った眩しい光に飛び込むようにて目標に近づく。







「うらぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」






 そのまま鉄の剣を両手に持って突きの体勢で構え、ワールヴェントめがけて突き刺す。



 左肩に攻撃が入り、強烈な手応えが返ってくる。




「うぐぉっ!?」





 左肩に深々と突き刺さった勢いのまま、ワールヴェントはフィンの展開したガードウォールに激突する。




 障壁には少しヒビが入った。






「貴様……!」




 反動で両腕を中心に激痛が走る中、ワールヴェントから転がり落ちるようにしてその場を離れる。





「冷気の枷を受けよ! フロスト!」



 トルカがワールヴェントの肩を凍らせてガードウォールと密着させ、



「バスター……ブロウ!!」





 フィンが渾身の力で魔力を乗せたポールアックスを振り下ろしてワールヴェントの肩を叩き斬り、




「うぐぉぁぁぁああ!?」






「輝きの槍よ、我が敵を穿て! メガブリザー!」

「ぐわああああああ!!!」



 トルカが続け様に放った巨大な氷柱がワールヴェントを突き刺した。








 氷柱はワールヴェントを空中に押しやって砕け、ワールヴェントは轟音と共に地面に激突する。







「く……き、今日のところはこの辺で勘弁しておいてやる! だが次会うときにはこうはいかんぞヒトガタ共! 精々震えて待ってるがいい! ガッハッハッハ!!」



 俺の剣を乱暴に抜き放ち、ふらつきながらも起き上がると、ワールヴェントは竜巻を纏って消えた。






「勝った……のか?」

「ハァ……ハァ……恐らくは……」

「もう、だめ……」

「と、トルカ様!? お、お気を確かに!! まだダンジョンの中デスよ!?」





 フィンは崩れるようにして座り込み、トルカはドミノのように前から倒れこもうとしたところを、人間態になったピスに支えられる。

 俺も倒れ込んだ姿勢のまま指一本動かせそうにない。


 流石に無茶が過ぎたか……






 ワールヴェントは退けた。

 だが俺達もまた、満身創痍だった。





 パンチ1発でフィンの防御魔法を突破し、恵体の彼女を吹っ飛ばす怪力。

 トルカの魔法やフィンの攻撃を何度食らっても平気で耐え抜くタフネス。


 奴がこっちを舐め腐っていたからどうにか勝てたが、もし最初から本気だったら全滅していただろう。





 俺が……俺がもっと強ければ……







「ヘーイ! ユー達、オイラを助けてくれてセンキューだぜイェーイ!」






 俺の思考は謎の声によってバラバラに砕け散った。

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