クエスト2-3 すんごい依頼(前編)

 


 米……米……おっと失礼。 




 冒険者ギルドにやってきた俺達は、早速掲示板で依頼を探す。

 ワーテルの時より建物は若干小さいが、雰囲気はほとんど同じだ。こっちも中々賑わっている。



 ここにも酒場があるところを見ると、冒険者ギルドは酒場併設がデフォルトのようだ。





 俺が必要とする金額は5,000Gで、トルカが必要な額は2,500G。総額で7,500Gを稼ぐ必要がある。


 ワーテルでの報酬はレベル10相当の依頼だと150〜600G。討伐系だと、1日にこなせる依頼の数は2つか3つ。

 ここでの宿代は50Gで、諸経費と魔物の素材……そういやこの周辺の魔物の素材っていくらだ?




「シンヤ」

「どうした?」




 トルカは依頼書を見せる。



 内容は、えーっと……ここから北西に少し行ったところにある霧の湖に出没する魔物の討伐。報酬は5,000G。


 報酬額は高いが、推奨レベルが15なので下手打つと死にかねない。



「うーん、これはちょっと危険だ」

「こっちは?」



 次に手渡された依頼書の内容は……デッドホッパーの脚200本の納品依頼。報酬は450G。


 推奨レベルは10だし、報酬額もそこそこだが、必要数が多すぎる。ただ倒せばいいだけじゃないのも結構厄介だ。


「これもなぁ……さっきのよりは危険度は低そうだが……」

「!」




 渋る俺を尻目に、トルカは掲示板から一枚の依頼書を持ってきた。




「シンヤ、シンヤ」

「どうした?」

「これ」




 トルカが持っている依頼書を読む。








 依頼主:ディファング・カルネリア

 内容:娘の捜索

 報酬:10,000G

 人数:指定無し

 場所:カルネリア領主の屋敷

 期日:娘が見つかるまで

 条件:レベル10の突破(冒険者のみ)

 備考:我が娘シアルフィア・カルネリアが行方知れずとなった。彼女は非常に身長の高い金髪の女性である。臆病なので危険な場所にはいないだろうが、いくら手があっても足りないので協力して欲しい。






 ……何だこの報酬の額!? 両方買えて貯蓄まで出来るぞ!?


 ……とはいえ、うまい話には裏があるもの。この手の依頼は罠っぽく見える。


 しかし、これだけの報酬を出すということは相当気を病んでるとみえる。

 放っておくのは何となく寝覚めが悪いし、うまくいけばコネができるかもしれない。話だけでも聞いてみよう。




 というわけで依頼を受けに受付嬢のもとへ。こっちの受付嬢は大人な雰囲気のお姉さんだ。

 エルフ耳の。



「すいません、この依頼を受けたいのですけど」

「こちらですね、かしこまりました。それでは依頼者の使いの者を……」

「お前が領主様の依頼を受けた冒険者か」

「「!?」」




 おわびっくりしたぁ!!




 受付嬢が言い切るより早く、武装した兵士が横から声をかける。しかも顔が怖い。


 もう1人兵士がいるのだが、そいつの顔も穏やかじゃない。

 切羽詰まってるのは分かるが怖いからもうちょっと何とかしてくれぇ!



「この依頼を受けた者は直接領主様から話を聞く事になっている。付いて来い」




 と言いつつ俺達を米俵のごとく担いで連行する兵士。

 受付嬢の方を見ると、苦笑いで手を振っていた。




 へへっ、もうどうにでもなーれ。






 ……………………







 ………………







 そんなこんなで領主の屋敷の応接間に運ばれ、降ろされた。


 剣や鎧、魔物の剥製なんかが飾られている応接間では、2mを超えるであろう身長とゴリラのようなガタイを持つ筋肉ムキムキのおっさんが深刻な顔をして座っていた。


 顔が少しやつれており、目の下にもクマができている。この人が依頼主と見て間違いないだろう。

 貴族らしい風格を持った、彫りの深い顔のナイスミドルではあるが、今はそんなことより圧が凄まじい。


「君達が依頼を受けに来た冒険者か」

「は……はい」


 見た目に違わぬ威圧感のある声にビビりながらも返事し、トルカは頷く。



 圧迫面接感が凄いが、ここで物怖じするわけにはいかない。どうにかして平静を装う。



 トルカの方をチラ見すると、いつも通りに見える。

 肝が据わってるのか、それとも顔に出ないだけなのか……



「レベルはいくつだ」

「じ、17です……」

「11」

「そうか……町の中は私の配下で探している。諸君らには町の外を探してもらおう。容姿は依頼書に記した通りだ。真面目で善良だが臆病なあいつが外に出るとは考えられんが、誘拐の可能性もある」


 町の外か。冒険者なら外へ出向く事も多いからだろうか。

 どの道外でレベル上げとトルカの魔法練習をするので、特に問題はない。



「……分かりました。必ず探し出してみせます」

「ああ、頼む」


 一抹の希望にすがるような目と声だった。









 …………………











 ………………











 外に繰り出し、魔物の討伐とトルカの新魔法の練習がてら捜索を開始する。


「といってもどこから探したものか……」


 このだだっ広い平原から人1人を探すというのは困難を極める。大型ショッピングモールで落し物を探すくらいには困難だ。


 ショッピングモールでの落し物ならインフォメーションで落し物が届いてないか聞いたり自分の記憶辿ったりするものだが……


 あ、そうだ。ピスなら何かいい感じの魔法を持ってるかもしれない。



「ピス」



 ピスの腕輪に呼び掛けると、腕輪が変化してピスが現れる。



「はいはい勇者様! ご用命は何デス?」

「人間を探す機能とか持ってない?」

「個人を探すのは難しいデスが、周囲の生体反応を探す事なら出来るデス! 種族程度は識別できるデスよ!」



 おお!言ってみるものだな。



「それだけ出来れば十分だ。やってみてくれ」

「ちょいとお待ちを……見透す眼よ! バイタルサーチ!」



 ピスが魔法を唱えると、上部からパラボナアンテナが出現し、回転する。画面にはレーダーが映る。

 ていうか眼って言った割に眼じゃないのかよ。そういやこいつの眼はどこだ?



「北西部、霧の湖の近くに荒野の民と思しき反応がありますデス。その近くに強い魔物の反応がありますデス」

「交戦中か?」

「それにしては距離が離れてるデス。交戦前か後の可能性がありますデスね」

「とにかく行ってみよう」




 俺達は湖の方へと向かって進む。

 道に沿って麦畑地帯を越えると、白い霧のかかる湖が見えてくる。


「シンヤ、ピス、待って」







 トルカの声で立ち止まると、近くの草むらから魔物が飛び出す。

 デッドホッパーというバッタの魔物が合計4匹。





「よし、いい感じの練習台が来たぞ、トルカ」

「……うん」








 鉄の剣を抜き、デッドホッパーをトルカに近づけさせないように剣を振って牽制し、時間を稼ぐ。







 あくまで近づけさせないのが目的なので、深追いは禁物だ。









「大地を濡らす天の涙よ、刃となりて牙を剥け! アイスレイン!」






 トルカは魔導書片手に杖を掲げて詠唱する。




 デッドホッパーの真上に魔法陣が出現し、それを確認すると同時に身を引く。








 次の瞬間、魔法陣から無数の氷柱がそれこそ雨のように降る。









 全てのデッドホッパーは氷柱で串刺しになって息絶えた。









 その少し後、氷柱は砕けて消え、死骸だけが残った。









「こいつはすげぇ……」

「全くデス……」









「うーん……違う……」









 俺とピスが威力に圧倒される傍ら、トルカは不満そうに考え込む。








「開きすぎ……魔力使いすぎ……もっと小さく……」







 トルカはブツブツ言いながら考え込む。

 彼女なりに反省点があるようなので、少しの間そっとしておこう。






 その間に剥ぎ取りだ剥ぎ取り。魔物の部位は換金できるからな。








 まずは魔核を取り出し、次に強靭な後脚を剥ぎ取る。他は……顎でいいか。


 傷がつかないよう、採取用のナイフで慎重に切り落とす。解体作業もそれなりに慣れた。



「トルカ、剥ぎ取り終わったし、後は頼む」

「うん」


 剥ぎ取った後の死骸処理はトルカに任せる。

 燃やすか、凍らせて砕く。こうしないとアンデッドになったり、魔物を誘き寄せる。


 前者はともかく、後者はワーテルを拠点にしていた頃、遠くにいる別の冒険者達が放置した魔物の死骸で確認済みだ。



 ソロ時代はバラバラにして埋めたが、あれは中々骨の折れる作業だった。




 時折魔物の相手をしながら、俺達は先に進む。




 ……………………






 ………………




 湖に近づいていくと、霧で視界が悪化しはじめ、嫌な感じの冷たさが身を包む。


 霧のせいでよく見えないが、さして大きい湖ではなさそうだ。少なくとも琵琶湖よりはずっと小さい。





 しばらく進んで、霧の湖の湖畔へと辿り着く。


 地形自体は木々も少なく、場所的には開けているが、霧で視界が悪い上、魔物のものと思われる奇怪な鳴き声のようなものが聞こえる。


 さっさと見つけてさっさと帰りたい……


「ピス、どの辺だ?」

「こっちデス」


 ピスを先頭にして俺達は進んでいく。


 湖の周囲をぐるりと周り、北側にある岩陰にたどり着くと、そこには機動隊が使ってそうな大きな盾を持ち、フルプレートアーマーで身を固めた大柄な騎士が倒れていた。



 近くには折れた木が横たわっており、その人の物と思われるポールアックスが地面に刺さっている。



 霧の湖の魔物にやられて木に叩きつけられたのだろうか?



「だ、大丈夫ですか!?」




 声をかけてみるも、返事がない。鎧には傷や凹みが見受けられる。

 致命傷になりそうなほどのものは見当たらないので死んではいない筈だが、鎧も兜も外し方が全く分からないので外しようがない。故に確認は出来ない。




「俺達じゃどうしようもできないし、とりあえず町まで運ぼう。ピス、その人のポールアックスと大盾を運ぶからボックスを頼む」

「がってんデス! 歪みし時空に隠れし亜空の箱の扉よ、今こそ開け! ボックス!」


 状態がどうであれ、見過ごすわけにはいかない。

 ピスの中に大盾と槍を放り込み、俺は動かない騎士を運ぼうとした。


 が……


「……」

「勇者様、どうしたのデス?」









「う……動かん」






 全く騎士が持ち上がらなかった。

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