クエスト2-2 テレビ妖精・ピス

 



 風の町、カルネリア。



 ベルデン王国内ではワーテルに次ぐ面積を持つ、風車が特徴の町……と町民から聞いた。





 入り口から見て左側、地図で見れば北側にある大きな2つの大きな風車は、確かにシンボルにふさわしい。


 町の規模はワーテルと比べると小さいが、それでも割と大きい方ではないだろうか。地面もワーテルと同じく一面タイルだし。



 建物はワーテルと同じく木造だが、こちらの方が頑丈な作りをしているように思える。風が強い日とかも多いのかもしれない。



 それはそうと、日没まで近いし結構疲れたので、安めの宿を探し出し、そこで寝る。おやすみ。







 そうして1日目は何もせず終わった。







 ……………………









 ………………







 そして2日目の朝。

 起床して窓の外を眺める。

 外はまだ若干暗い。4時くらいか?



 思えば、日本にいる時では考えられないくらい早寝早起きをしている。日が昇ったら起きて、日が沈んで少ししたら寝ている。街でもなければ明かりが乏しいし、そうでなくてもやる事が少ないからか。





「あっ、勇者様! ようやく見つけましたデスよ! 開けてくださいデス!」




 唐突に聞こえたのは、機械のようなエフェクトのある少年のような声。





「誰だお前」





 目の前にバレーボールくらいの大きさの、黄緑の丸っこいブラウン管テレビに羽と足がついたロボット……に似た何かがいた。



 仕方なく開けてやるが、何なんだこいつは。ここはファンタジー世界じゃなかったのかよ。





「ボクはピス! 女神ニヴァリス様の使いの妖精でございますデス! 勇者様の旅のお手伝いをするためにずっと勇者様をお探ししていたのデスよ!」




 ピスと名乗るロボットもどきはそう言いながら俺の周りをグルグル回り、窓の縁に着地する。


 その見た目で……妖精?





「じゃあ何で最初からいなかったんだよ」




 ピスはピョコピョコ飛び跳ねながら答える。




「勇者様をお探ししていたのデス! ボクはてっきりデルタポートまで行ってたものだと思ってたのデス! そしたら今カルネリアに着いたところだなんて予想外なのデス!」

「デルタポートってどこだよ。ってかレベルも1のままなのにそんなガンガン進めるか」

「何をおっしゃいますデス、勇者様には勇者の剣があるじゃないデスか!」





 勇者の剣……そうだ何であのクソ仕様になってるのか問いたださなきゃならないんだ。




「あれは装備するとレベルが上がっても能力が上がらない地雷装備だ。あんなもん使えるか!」

「えええ!? 勇者様、そんな筈はありませんデスよ!?」

「とにかくあの女神に問いただしたい。繋げられるならいますぐ繋げ!」

「は、はいデス!」


 そいつは窓枠にちょこんと立つと、テレビ画面にあたる場所が白く発光し、直後にあの真っ白女神と中継が繋がる。



 前にあった黒い空間にいるようだ。結構な頻度でノイズが入る辺り状況は前と変わってないように見える。まあまだ何もやってないし。




「あなたは……萩進也さん! 良……た、ピスと合流で……たのですね!」




 ノイズで時々聞き取れないのはともかく、何故フルネームなんだ。



「そんな事より勇者の剣使うとレベルアップのステータス上昇パーになるのは何故か教えてもらおうか」

「え!? そんなはずは……ちょっと勇……剣をピスの前でかざしてもらえますか?」





 反応的に意図的に仕込んだわけではなさそうだ。

 いや意図的だったらこっちも考えがあるぞ?



「出でよ、勇者の剣」




 勇者の剣を出し、(多分)言われた通りに勇者の剣をかざすと、剣が消え、画面の向こうにいるニヴァリスが剣を持っていた。

 どういう仕組みなんだこれ。テレポート?




「こ……これは!? そ、そんな……」

「どうした?」

「萩進也さん。貴方の言って……現象の原因が分かりました。この剣は……魔王によって呪いがかけら……います。レベルア……で能力が上がら……のはそれ……因です」

「魔王の呪い?」




 またなんか面倒なのがかかってんな。



「はい。これによっ……者の成長を妨げ、倒し……くするためでしょう。一度でも魔物を……ばその時……での成長は止ま……す。斬れ味だ……そのまま保……ている……ですが……」



 どんどんノイズがひどくなっているが、何とか聞き取れた。


 つまり、魔王は勇者の剣に成長妨害の呪いをかけて弱体化を図ったわけだ。


 確か魔王は封印から解放されたとワーテルの王様が言ってたし、敗北して封印される直前に仕込んだのだろう。

 呪いの力で、たとえ1回でも勇者の剣で魔物を倒せば次のレベルの上昇値は全て0になる。

 抜くだけなら影響は無いようだ。


 斬れ味そのままなのはいざという時に使えるように手放さないようにするためか、或いは強敵相手に使用を促し、レベルアップをパーにさせるためだろうか。



 鬱陶しいけどえらく回りくどい戦略だな!




「剣は……します」


 ニヴァリスがそう言うと、剣が戻ってきた。

 返します、と言ったようだ。



「呪いは解けないのか?」

「今の私ではできません。ですが、精……の……を……」


 それ以降は完全に砂嵐状態になり、程なくして画面はブラックアウトした。




「期待してなかったけどやっぱり治らないか……」





 まあわざとじゃないっぽいので許してあげよう。戻す方法はあるっぽいが、この手の奴が完全体になるのは終盤なんだろうな。俺は知ってるぞ。




「むむむ……魔王は卑怯な手を使いますデスね……」




 確かにそうなのだが、入手時期が最後の方なら殆ど無意味な呪いだし博打が過ぎるのでは?

 それとも異世界から勇者となりそうな奴を召喚する事もお見通しだったとか?


「そういえばさ、魔王を倒せばいいってもどうすんだ? 現状ノーヒントだぞ?」

「それに関しては問題無いのデス! 8人の大精霊様と出会い、力を借りれば良いのデス!大精霊様が集まれば、ニヴァリス様も力を取り戻せるはずデス!」



 そこら辺はすっごいファンタジーらしいのな。



「場所はどこだ?」

「1番近いところだとこの町の南東にある洞窟を越えた先にある塔、その頂上デス!」

「塔の頂上か……」



 となれば、この町での目的は塔を登ることになるな。その為の準備をしなくては。




 っと、その前に筋トレだ筋トレ。こういうのは毎日続けることが肝要だ。




「おや、鍛錬デスか。勤勉デスね! ボクが数えますデスよ!」

「分かった、じゃあ頼む」



 思ったより悪い奴じゃない……のかもしれない。割とうるさいけど。





「そういや、お前の存在は大っぴらにしてもいいのか?」


 できれば大っぴらにしても大丈夫な存在であってほしい。隠蔽するのも楽じゃないし。


「妖精は幸運の象徴と言われているデス。誘拐が怖いので、出来れば伏せてほしいのデス。基本的に必要じゃないときは腕輪となって勇者様と共にいますデスので、よろしくお願いしますデス」


 ピスはそういうと黄緑の腕時計のような何かに変身して、俺の左腕に装着された。


 ……何で腕時計?本当に何なんだこいつは。




 ピスの存在は大っぴらにしてはいけないようなので、公衆の面前では呼び出さないようにしよう。ただ、トルカには知ってもらわないと色々面倒になりそうだ。


 トルカを呼ぼうと部屋のドアを開けると、


「みゅ」


 ドアの前にトルカが張り付いており、内開きであるドアを開けると共に彼女がぺたりと倒れこむ。



 待ってこれは予想外。怪我とかしてないよな?



「……なんかごめん」

「……大丈夫」


 普段トルカは起こさなければ昼まで熟睡しているので、まだ朝方なのに起きているのは珍しい。



 事情を聞くと、二度寝しようとした時に俺とピスとの問答が聞こえてきて、それが気になって聞き耳を立てていたらしい。

 入ってこなかったのは敵だった時に不意打ちをかますためだそうだ。



 頼もしいような、物騒なような……







 紹介のためにピスに登場してもらう。




「初めましてデス! 勇者様のお仲間様デス?」

「……うん、トルカ・プロウン」


 トルカは興味深そうにピスを見つめる。


「トルカ様デスね! よろしくデス!」

「うん」





 挨拶が終わったところで、トルカに事情と今後の予定を話す。

 トルカはピスに興味津々のようで、あちこち触ったりピスのボディをペシペシしたりしていた。






 ……………………







 ………………







 朝食を取った後、カルネリアの街をトルカと一緒に見て回る。


 シンボルマークである風車は、領主のいる屋敷の向かって左隣に配置されている。



 町の入り口は西側で屋敷は東側、風車は北側だ。領主の屋敷前は広場になっている。冒険者向けの施設は西側と南側に集中しており、俺達の取った宿も南側だ。




 酒場兼冒険者ギルドの位置を確認した後、武器屋、防具屋、魔法屋を順に見て回る。

 武器屋には今のところ、特に目ぼしい品は置いていない。



 防具屋では、新しく赤い鉢金を買い、皮の鎧を鉄の鎧に更新し、グローブとブーツも買い換えた。




 鉄の鎧といっても、一般的な戦士や騎士が着けてるようなフルプレートのごついものではなく、胴体と肩辺りのみを守護する……ブレストアーマー? ハーフプレート?


 まあ要するにそんな感じだ。


 鉄の鎧というよりは鉄の胸当てってところだろうか。




 当たり前だがこれでも皮の鎧より重量は増しており、油断すると重さで倒れかねない。


 これ以上の重さの防具は当面装備出来ないだろう。

 フルプレートかっこいいんだけどなぁ。






 そんな中、俺は気になる装備を見つけた。


 一見するとただの青い短めのジャケットのような上着なのだが、妙に存在感がある。

 綺麗に飾られてるだけかもしれないが、俺にはなんとなくそんな気がしなかった。





「すみません、あの服は何ですか?」

「おっ! スカイジャケットに言及しれる冒険者がいたとは!」


 小人族っぽい少年……青年? の店主が嬉しそうに反応し、説明を始めた。


「これはスカイジャケット。空羊っていう、世にも珍しい羊の毛で作られたジャケットなんだ。これすごいんだよ! 着心地の良さはもちろん、呪文攻撃と水、氷属性の攻撃にかなり強いんだ! そしてとっても丈夫! お値段5,000G! どう? とびきりの一着なのに、誰も買わないんだ」


 確かに凄そうだし欲しいのだが、問題があった。






 金が足りない。






 現状、俺とトルカはそれぞれ個別で金を所持しており、共同で使う物はそれぞれで出し合う。

 一括管理でも別に構わないが、過干渉なように思えるし、俺が死んだらトルカが大変なので今の所はやってない。


 トルカに金を使い過ぎないようには言っているが、そんなに物を買う性分でも無いらしい。

 せいぜいたまにお菓子を買うくらいだ。






 魔法屋という、魔法に関するアイテムを集めたお店では、トルカが新しい魔導書と短剣を購入していた。

何を買ったか聞いてみたところ、氷属性の範囲魔法だそうだ。ゴブリンの群れを一掃できなかったのが悔しかったらしい。


 短剣に関してはいざという時の最終手段だそうだ。魔力を奪う機能も付いているのだとか。




 最後に道具屋で素材の売却と道具の補充だ。




「いらっしゃ……おや、シンヤさんにトルカさん! ささ、こちらへ。何をご所望ですかな?」


 シルロスさんから手厚い歓迎を受け、俺とトルカは道具を見て回る。


 まずは薬草を大量に買い、グリーンポーション10個、毒消しを5つ、聖水を3つ、薬草の上位アイテムである生命の水を2つ買う。


 グリーンポーションは名の通り緑色をした回復薬の一種で、小瓶に入っている。


 薬草と比較して回復が遅く、回復量が3割程度少ない代わりに、痛みのフィードバックと麻痺が抑えめ、と説明された。


 トルカはグリーンポーションとマナシロップをいくつか買ったようだ。


 8割引という驚異的な値段で買えたのはいいが、ちょっと調子に乗りすぎた。鞄の中が薬草とグリーンポーションでパンパンだ。





 買い物を終えると、ピスが突如姿を現した。


「勇者様〜、おお、お買い物デスか! 新ピカの鎧デスね!」

「何だよ急に」

「ふふふ、今こそボクの力を発揮する時デス! さあ勇者様、いらない装備やアイテムを出してほしいデス!」



 言われた通りに出すと、ピスの画面が青白く光る。


「歪みし時空に隠れし亜空の箱の扉よ、今こそ開け! ボックス!」



 ピスが魔法を唱えると、ピスが4倍ほどの体積に巨大化し、電子レンジのごとくピスの身体が開く。



 その中は異次元へと繋がっているのか、倉庫のような空間が見える。





「さあ、ボクの中に不要な品を放り込むのデス!」




 お前その状態でも喋れるのかよ。



「これ後で取り出せるのか?」

「もちろんデス! でも隙だらけになるので、戦闘中のご利用は遠慮してほしいのデス」




 空間はかなり広く、薬草100個や剣100本放り込んでも余裕でスペースがある。



 これはすごい。ピスが倒れない限り何でも持ち運べるぞ。


「じゃ、遠慮なく」

「えい」


 俺は使わない防具と買いすぎた薬草、グリーンポーションの一部と野宿用の道具と制服、トルカは魔導書を1冊放り込む。


「よし、もういいぞ」

「了解デス!」


 ピスはその言葉と共に身体を閉じ、元の大きさに戻った。




「どうデス? なかなか便利デス? 荷物持ちはお任せデス!」





 確かにこいつは便利だ。ゲームのように様々な道具を大量に持ち込める。戦闘中は使えないとはいえ、道中が楽になること間違いなしだ。




「じゃあ今度から遠慮なく利用させてもらうとするぜ」

「はいなのデス!」


 ピスは嬉しそうなのはいい。ただ……




「でも出来れば買い物する前に言って欲しかったかな……」


「あっ……」







 荷物が軽くなったところで、俺達は冒険者ギルドへと向かう。

 ピスは腕輪に戻った。






……………………











………………









「……シンヤ」



 冒険者ギルドに行く道すがら、トルカが話しかける。


「どうした?」

「魔導書、欲しい。お金、足りない」

「そうか。俺も欲しいものがあるけど金が足りないんだ」






 この状況……つまり、金欠!!






「稼ぐか」

「うん」




 金稼ぎ計画、始動である。

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