リィンカーネーションクエスト -チート武器で成長率0倍-

シュガーロック

プロローグ

クエスト0 エンター・ザ・ワールド

 



  ___ヤバイ、詰んだ。








 5月22日、夜の大雨。





 道路の真ん中。





 そこで、俺、萩進也は動けなくなっていた。









 事の顛末はこうだ。






 学校の図書室で夜遅くまでテスト勉強をした、その帰り際。


 自転車で帰る傍、夜食を求めてコンビニに寄った俺。



 最近のマイブームである具無しの塩おにぎりを手に店を出た俺を出迎えたのは、台風のような豪雨だった。


 珍しく寝坊して遅刻寸前だった俺は傘もカッパも持っておらず、雨を防ぐ手段を持っていなかった。



  一刻も早く帰りたかった俺は自転車をフルパワーで漕いで帰ろうとするも、滑って道路にうつ伏せになる形で倒れる。



 最悪なことに足の上には自転車。

 その足も負傷し身体も動かせない。






 いわゆる詰みってやつだ。







 痛い。





 動けない。





 冷たい。





 寒い。





 やばい。






 後方からは車の音。


 きつい体制ながらも気合で後ろを見ると、明らかにスピード違反なスポーツカーがこっちに近づいている。



 ていうかめっちゃ飛ばしてるんですど。法定速度なんぞ御構い無しのスピードだ。せめて高速道路でやれよここ一般道だぞ!?






 やべぇな……死んだわこれ……







 参ったな……こりゃ……








 こんな形で俺もあいつと一緒のところに行くとはな ……







 そういやこの前買ったRPGまだアイテムコンプ達成してないじゃん…………









 あと3つだったのになぁ………………










  …………………













 鈍い音と共に俺の意識は闇へと葬られた。
















 ――――――――――















 気がつくと、俺は真っ暗闇に立っていた。



 右見ても黒。




 左見ても黒。





 どこみても黒。黒黒黒。どこここ?夢?








「こんにちは。私はニヴァリス。貴方達の言葉を借りれば、女神が一番近いでしょうか」




 唐突に、後ろから鈴の鳴るような声。

 動揺しまくる気持ちを抑えながら声の方に振り向く。




 そこには、白い髪に糸目、純白のドレスに身を包み、3対の天使の翼のようなものを生やした女性が立っていた。


 ……いや違うな。ホログラムっぽいやつだなこれ。かなり粗いというか通信阻害されてるような状態だけど。

 その容姿は見るからに女神様と言わんばかりの風貌だ。


  流れるようなロングヘアにスラっとしたモデル体型。慈悲深そうな表情。雪のごとく白い肌。ふわふわの翼。胸は……無い。


「萩進也さん、貴方は死んでしまいました。暴走した車に撥ねられて、ね」




「は?」





  ニヴァリスの透き通るような声で、さっき自分の身に起こった事を告げられる。




  頭が追いついていないのか、それとも拒絶しているのか。反射的に声が出てしまった。





「このままでは、貴方の魂は消滅し、永遠に暗闇と共にあることになります」


「ちょ、ちょっと待て!  消滅!? 天国とか地獄とか無いのか!?」


「ありません。天国だの地獄だのといった死後の世界というのは、人間の生み出した妄想に過ぎません。死は平等、善人も悪人も、死んでしまえば等しく消滅します」



 待て待て待て!



 こいつ死後の世界の存在を涼しい顔で切り捨ててきやがる! 天国で悠々自適に暮らすどころか、地獄で酷い仕打ちを受けることすら幻想ってか!?



 消えてしまいたいと思った事は無いわけじゃないが、今はそんな気持ちじゃあない。





「で、それを俺に言ってどうしろと?」

「私の頼み聞いてほしいのです」

「頼み?」

「別の世界に転生して、その世界を支配しようとしている存在……その名も黒の魔王。それを倒していただきたいのです」




 こいつ……切実な顔をして言うのはいいが、一般人の俺にそんな大役が務まるとでも?



「魔王を?」

「ええ。その世界は危機に瀕しています。世界が滅びてしまえば、多くの人々が死に、私達神々も力を失います。それに、貴方もまだ消えたくないと思っているのではありませんか?」


 こいつ見透かしやがった……



「お前の言い分は分かったが、何で俺なんだ?もっと適任とかいるだろ。こっちにも向こうにも」

「魔王に力を封じられた今の私では、生者をこの空間へ呼び寄せることは出来ず、向こうの世界には5秒ほどしか接続出来ません。貴方以外に頼れる人はいないのです」



 ニヴァリスは悲壮感に満ちた表情で続ける。

 そんな顔で見られたって俺には……



「そうは言っても俺一般人だぞ? 学力も体力も平均以下だし。チートでも貰えないと魔王討伐なんてできっこないって」

「それに関しては心配要りません。私の力ですぐに強力な武器を手に入れられるように運命を調整します。言語も分かるようにしましょう。ですから、どうか……」



 運命を調整とかTASみたいな事言ってんな。

 まあ神ってんならそのくらい出来ても不思議ではないが……

 まあ、武器があるなら何とかなるだろう。多分。




  あ、そうだ。




「そうだ、二つ質問いいかな?」

「何でしょう?」

「まず一つ。チート能力とか貰えませんかね」

「ごめんなさい、今の私では、それはとても……」




  申し訳無さそうな顔と話し方で断られた。畜生。




「じゃあもう一つ。それを達成したら俺はどうなる?」

「それはその時の貴方次第です。帰りたいなら返しましょう。残りたいならその世界の住人として残します」



 なるほど、そこで選択肢があるのはいいな。

 どうするかは……追々決めよう。





「分かった。俺だってこのまま終わるのはごめんだ。ちょっとくらい付き合ってやるよ」

「ありがとうございます。それでは、こちらに……」




  ニヴァリスがそう言うと、彼女はテレビを消したようにいなくなる。代わりに、目の前に虹色の穴が現れた。おそらくニヴァリスの言ってた世界への入り口だろう。



 うーん、ちょっと怖いな……

 でもこのままというのも……




 ……などと考えていると不意に穴が大きくなり、俺はその穴へと真っ逆さま。


  何だよもう! 入るタイミングくらい自分で決めさせろよなぁぁぁ!!





  今日は厄日だ。いや、死んだから厄もクソもねーか。ははっ。








 ――――――――――



「お願いします……どうか……」

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