赤鼻のナントカ

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赤鼻のナントカ

クリスマスの主役と言えば、勿論サンタクロース。


しかし、サンタクロース一人では、プレゼントを世界中に配る事は出来ません。


そんなサンタの相棒と言えば、そう。赤鼻のトナカイ、ルドルフです。


しかし、ちょっと待ってください。


トナカイって、皆さんあまりピンときませんよね。


角が生えてて、寒い所に住んでて・・・なんとなくそんな感じではありませんか?


そうです。


トナカイって、ピンと来ないのです。


もしかすると、本当はこんな真実があるかもしれません。



「はぁ、結局今日も忙しくて皆に話せなかった」



おやおや、ルドルフは皆に何か話したい事がある様ですね。



「でも、明日はお休みだ。明日ならきっと皆も話を聞いてくれるはず。


僕が、本当は鹿だって事を!」



なんと!ルドルフはトナカイではなく、本当は鹿だったのです。


赤鼻のトナカイではなく、赤鼻の鹿だったのです!



翌日、ルドルフは仕事仲間の8頭のトナカイのお家を訪ねて回る事にしました。


まず、はじめに訪ねたのは、ダンサーとプランサーのお家。


2頭ともダンスが大好きで、配達中でもおかまいなしに踊っています。


「おはよー。ルドルフでーす」


「あ、ルドルフ?開いてるから勝手に入ってきてー」


「お邪魔しまーす」



2頭はテレビ画面に釘付けです。どうやらダンスの練習中の様ですね。



「どうしたの?こんな早くに。1,2、3、4」


「いや、ちょっと話たい事があって」


「あー。ちょっと後にしてくれる?今振りつけ覚えてる最中だから」


「ちょっとだけで良いんだけど」


「あーもう。集中出来ないから今の箇所覚えられなかったじゃない。


ダンサー、巻き戻してよ」


「あんた、蹄でリモコン押し続ける難しさ、知ってる?」


「えー、また最初からなの?」


「仕方ないじゃないの」


「い、忙しそうだから、僕また今度来るよ。ごめんね邪魔して」



ルドルフは、すごすごと二頭の家を後にしました。


次に訪ねたのは、ドナーとブリッツェンのお家です。



「おはよー。ルドルフでーす」


「だから!お前が壊したんだろうが!」


「俺じゃねぇって、元々壊れてたんだろう!」


「はぁ!?お前がそこにもたれ掛かったから壊れたんだろうが!」


「お前が太っただけだろうが!俺は何も悪くねぇ!」


「ど、どうしたの!?何があったの!?」


「こいつが俺の大事な椅子を壊したんだよ!」


「少し当たっただけじゃねぇか!お前が最近太ったから元々弱ってたんだろ!」


「ルドルフ!お前、ブリッツェンと俺、どっちが悪いと思う!?」


「おう、ルドルフ、お前はドナーと俺、どっちが悪いと思うよ」


「え、ど、どっちも悪くないよ」


「あぁ?!ブリッツェン、お前ルドルフ買収して味方につけたんだろ!」


「何を!?お前の方こそルドルフにそう言わせてるんじゃねぇのか!?」


「あ、ぼ、僕もう行くよ!あまり喧嘩しないでね!」



ルドルフは短い尻尾を巻いて出ていきました。



「はぁ、ブリッツェンとドナーはいつも喧嘩ばかりしてるなぁ。


ん。あれはもしかして」



ルドルフが見つめる先から、物凄い勢いで走ってくる物体があります。



「あ!やっぱりダッシャーだ!おーいダッシャー」


「あ、ルドルフ!どうしたのこんな所で」


「あのね、ダッシャー。ちょっと聞いて欲しい事があって」


「あー、ごめん、私ちょっと急いでるんだ」


「どこへ行くの?」


「ううん、大した事じゃないんだけど、


でも急いで行かなくちゃいけないの。じゃぁね!」


「あー、待ってダッシャー!あー。行っちゃった。


ダッシャーはいつも急いでるなぁ」



次に訪ねたのはコメットとキューピッドのお家。


でも、ルドルフはなかなかインターホンを鳴らそうとしません。



「うーん」



ルドルフはちらっと窓から中を覗いてみました。



「君は今日も素敵だねハニー」


「そういう貴方こそ、今日は一段とセクシーダンディーよ」


「何を言ってるんだい、君に比べたら僕なんてただの彗星さ」


「貴方が彗星なら、私はお月様ね」


「いいね。君がお月様か。いつまでも、僕を空から見ていてくれているんだね」


「いいえ。私は、貴方をいつもすぐ側で見ているわ」


「ハニー。照れるじゃないか」


「うん。やっぱり、いいや」



あらあら、ルドルフはそのまま帰ってしまいました。


最後に訪ねたのはヴィクセンのお家です。



「話好きのヴィクセンなら、きっと僕の話を聞いてくれるはず。


こんにちはー。ルドルフでーす」


「あら!いらっしゃいルドルフ。さ、中に入って」


「お邪魔しまーす」


「ルドルフが休日にやってくるなんて珍しいわね、あ、飲み物何がいい?


確かルドルフってコーヒーが好きだったわよね。コーヒー淹れるわね。


そうだ。クッキー焼いたの、食べる?私特製の手作りクッキーよ。


お口に合えばいいんだけど」


「有難うヴィクセン。あのね、今日は」


「私ね、この間サンタさんに内緒でこっそり人間界に行ってみたの。


どうしても聞きたいオーケストラがあってね。でもほら、私トナカイじゃない?


トナカイがオーケストラホールの椅子に座ってたら皆ビックリするじゃない?


で、どうしようかなって悩んでたら、友達のマイルっていうネズミが、


動物でもゆっくり聞ける場所があるって、ホールの屋根裏に案内してくれたのよ。


でね。マイルったら、


オーケストラを聞きながら食べるチーズが最高だっていうのよ。


私としては、音楽って何も食べたり飲んだりせずに


ゆっくり楽しむものだと思ってたから、


あら、マイルって全然音楽を判ってないわねって思ったの」


「あ、うん。そっか。で、今日僕が来たのは」


「でね、マイルがあまりにも勧めるもんだから、私も食べてみたのよ。


そしたらこれがビックリするくらい良かったの。


音楽と食べ物の調和っていうのかしら。


今まで体験したことがない程音が体に染み渡るのがわかって、


私もう感動しっぱなしよ。


それからというもの、


もう何か食べながらじゃないと音楽が聴けない体になっちゃってね。


それでさっきまでクッキーを焼いてたってわけ。で、このクッキーなんだけど」


「ぼ、僕用事思い出したからまた今度来るね!」



ルドルフは逃げる様にヴィクセンの家を後にしました。


結局、その日も秘密を打ち明ける事が出来ませんでした。


ルドルフはとぼとぼ頭を垂れながら歩いています。



「ルドルフや、どうしたんじゃ、元気がないのう」


「あ、サンタさん」


「なんじゃ、何か悩み事かの。わしで良ければ話を聞くぞ」


「じ、実は」



ルドルフはサンタさんに、自分がトナカイではなく、鹿である事を打ち明けました。



「ほっほっほっ。なんじゃ、その事か。安心せい。皆知っておるぞ」


「え!?そうなんですか」


「お前さんだけ、皆と色々違うからのう。流石に気付くわい」


「でも、皆何も言わないし、僕の話全然聞いてくれないし」


「皆優しい子じゃからのう。傷つけたくないと思ったんじゃよ。


それに、皆お前さんがトナカイじゃろうが、鹿じゃろうが、関係ないと思っとるよ。


ルドルフはルドルフなんじゃから。大事な仲間には変わらんじゃろう」


「そっか、僕が勝手に悩んでただけだったんだ・・・」


「しかし、皆に秘密を打ち明けようとしたお前さんは偉いのう。


じゃから皆のリーダーになったんじゃよ。


これからもよろしく頼むぞ。赤鼻のルドルフや」


「はい!」



ルドルフは赤鼻のトナカイでも、赤鼻の鹿でもありませんでした。



ルドルフは、赤鼻のルドルフだったのですから。

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