光の色

T_K

光の色

光の色は何色ですか?


そんな事、今まで一度も考えた事がなかった。


考える必要なんてなかったから。


でも、今だからこそ考えたいな。


光の色って、何色なんだろう。



その日は突然やってきた。


朝からやけに目がゴロゴロしていた。


私は、普段眼鏡だけれど、時折コンタクトも付けている。


昨日は久しぶりにコンタクトを着けて出掛けたから、


きっとそのせいだと思っていた。


昼になっても一向に目の違和感は治まらない。


それどころか、どんどん酷くなる一方だ。


仕事が終わる頃には、その違和感が激痛へと変わっていた。



すぐさま病院へと駆けこんだが、手遅れだった。


網膜動脈閉塞症。


網膜に血栓がつまり、最悪の場合失明に至る。


たまたま駆け込んだ病院に担当医がおらず、急遽別の病院に搬送される事になった。


時間が経つに連れ、どんどん視界が薄れていく。


見た事のない漆黒が、私に襲い掛かってくる。


こんなにも見事な黒は、今まで見た事がなかった。


実際には、見ているワケではないのだけれど。


そして、そのまま私の世界は一変した。




初めはその事実を受け止める事が出来なかった。


今まで当たり前に見えていたものが、一切見えないのだから。


私は、まるで死んだ様にベッドに横たわっていた。


動きたくなかった。動けば自分が何も見えない事を実感してしまう。


食べる事さえ億劫になっていく。


しかし、いつまでも病院に留まる事も出来ず、ついには退院の日を迎えてしまった。



目の見えない日常が、いよいよ始まってしまった。


退院した事で、自分は目が見えないという事実を受け止めざるを得なくなった。


普通なら5分で行けるコンビニでさえ、30分掛かってやっとたどり着いた。


何をするにも、今までの何倍もの時間を掛けなければならない。


いっそこのまま死んでしまった方が楽かもしれない。


何度かそう思って身を投げだそうと考えた。


でも、その度に、誰かが私を止めてくれていた。




私は漸く、とても大事な事に気が付いた。


私が今まで見ていたもの、いや、見ていたと思い込んでいたものは、




ただの偶像だった事に。




私はもっと素敵なものを見れる様になった。


それは、きっと他の誰にも見る事の出来ない綺麗なものだ。


私は、今、自分の目の前にある物全てを、自分の色に染める事が出来る。


口に運ぶ美味しい食べ物はきっとこんな色だろう。


今触っている柔らかいものはきっとこんな色だろう。


こうだと決められていた色が、自分が思うままに色付けできる。


私が決めたその色は他の人が見ている色とは違うのかもしれない。


でも、その色が本当にその色で正しいか、誰が決められるのだろうか。



そして、一番嬉しかったのは、人の心の色が見える様になった事だ。


きっと、目が見えていた頃の私には見る事が出来なかった色。


優しさ、冷たさ、怒り、悲しみ、喜び。


それが全て色付けされて、私には見えてくる。






心の色は何色ですか?


赤、青、黄、何色でも良いと思います。


私には、見える。あなたの暖かい、綺麗な色が。

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