絶好調、そして・・・
香川さんの最寄り駅に降り立ち、香川さんは楽しそうにお店へと向かっている。
その様子を見ながら、どう振舞おうかと思案する。ここは絶対勝負所のはずだ。
しかし、今日の俺は絶好調。何も恐れる事はない。いざ!決戦の地へ!
香川さんと辿り着いたのは一件のバーだった。
外観は割と普通だが、中はとてもオシャレで大人の雰囲気。実にムードがある。
「ここ、ずっと気になってたんだけど、中々入れなくって」
「女の子一人で入るのは勇気がいるよね」
ここは大人の男にならなくてはならない。さて、何を注文するべきか。
ふと、今朝の占いを思い出す。
「今日のラッキーナンバーは21です」
ラッキーナンバー。そんなうまい事いくはずが・・・。いや、しかし!
「私は、モヒートお願いします」
そう言うと、香川さんはお手洗いへと立ち去った。
これはチャンスだ!
「あの、マスター。数字の21に因んだカクテルとかってあります?」
マスターはほんの少しだけ考えて、
ブラックジャックという名前のカクテルがありますと教えてくれた。
更に、今日は暖かいので、
シェイクしてよりスッキリとさせた方が酔いづらいですよと耳打ちまで付け加えて。
「じゃぁ、俺はそのブラックジャックで」
流石絶好調の俺。ここでラッキーナンバーまで揃えば、勝ったも同然だ!
程なくして香川さんは戻ってきた。
香川さんが席に戻ると同じくして、マスターはカクテルを作り出した。
「佐伯君は何を注文したの?」
「ブラックジャックってカクテル」
「へー!なんかオシャレな名前だね」
香川さんの前にはミントたっぷりのモヒートが。
俺の前にはブラックジャックが置かれた。
「乾杯」
「かんぱーい。今日は付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ」
出来るだけ紳士に振舞う。ブラックジャックを口に運ぶ。
これでラッキーナンバーも揃った。完璧だ。
時間も時間だし、既にお会計も済ませてある。
そろそろ何か切り出そうか。そう考え始めた時だった。
バーの扉が開く音が聞こえた。
「ごめんごめん。ユキ。仕事で遅くなっちゃって」
男性が明らかにこちらに向かって声を掛けてきている。
というか、香川さんを呼び捨てにしている。
「あ、マモル君。お疲れ様」
香川さんがその声に反応する、やけに、親し気だ。
「同じ会社の佐伯君。パソコンの相談に乗ってくれたんだ」
「あー、そうだったんですか。有難うございます。
ユキからLINEで聞きました。今日ずっと付き合ってくださったみたいで。
有難うございました。
この辺治安悪いんで、会社の方と一緒って聞いて凄く安心しました」
この男性は凄く好青年だ。多分。香川さんの、彼氏・・・だよな。
「じゃぁ、私、もう行くね。今度ランチ奢らせて!」
「では、お先に失礼します」
そう言うと、二人はあっという間に去っていった。
残された俺に、マスターが一言。当店は1時で閉店となりますのでと告げた。
時計を見やる。時刻は0時5分を指していた。
「ひょっとして・・・」
さっきまでの時間はシンデレラタイムだったのだろうか。
ガラスの靴でも落ちてやしないかと一応見渡したが、
見つけたのは、先客が落としていったであろう、ピーナッツ1粒だけだった。
既に終電は過ぎ去っている。
抜け殻の様にマスターにタクシーの手配をお願いする。
家に着いても着替える気力すらなく、そのままベッドへと倒れ込む。
「良い、一日・・・だった」
翌朝。
目覚ましがけたたましく鳴り響く。いつもの日常の始まりだ。
決まりきったルーティーンを決まりきった様にこなしていく。
焼きたてから食べ頃を大分過ぎたパンを齧りながら、ふとテレビに目を向けた。
7時58分。占いの時間だ。
「今日1番悪い運勢は、ごめんなさーい。5月産まれのあなたです」
俺の絶不調の日が、いよいよ始まった。
絶好調の日 T_K @T_K
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