義姉の友人
義姉に同性の友人が出来た。
ノルヴァ卿の一人娘で、年齢は確かリズリットと同年だったはずだ。
この友好を機に、領地間の親交も深まった。
また、ノルヴァ令嬢が茶会を開いてくれるため、義姉もアーリアを連れて参加することが増えた。
社交に関して出遅れている彼女にとって、喜ばしいことなのだが、僕は件の人物を苦手としている。
こう思っては失礼なのだが、こちらへ向けられる視線が、何故だかねっとりとしたものに感じられるんだ。
正直、……気味が悪い。
特にベルナルドへ向けられる視線が異様だ。
彼といると、目視出来るのではないかと疑うほど、視線を感じる。
殺気には敏感なベルナルドだが、日常ではポンコツだ。
危うい目付きに晒されているというのに、ほけほけと鈍感に過ごしている。
……僕がおかしいのだろうか?
そう思って密やかにアーリアに相談してみたが、彼女から同意をもらえて安堵した。
やはり、僕は間違っていなかった。
あの花畑組の、危機感の足りなさが露呈した瞬間だ。
アーリアは、さりげなく件の人物からベルナルドを遠ざけるよう、気を配っているらしい。
よく出来た侍女だ。
……本当にこれでいいのか? 僕の従者……。
けれども、件の人物も、別に悪人や要注意人物というわけではない。
反対にお人好しだと思う。
リヒト殿下と婚約している義姉は、何かと同性に敵を作りやすい。
公爵家という地位がまた癪に障るらしく、彼女が茶会の度に落ち込んでいることを知っている。
そんな中、友人関係になったノルヴァ令嬢は、派閥の中でも穏便な同世代を少人数集め、義姉に接点の場を設けてくれている。
何故ここまで協力的なのかは不明だ。
けれども、初めて出来た同性の友人を義姉は大切にしており、嬉しそうにベルナルドに話して聞かせていた。
まさかこの刷り込みのせいで、彼は粘着質な視線に気づかないのか?
……いやまさか、……自衛してくれ。
ノルヴァ令嬢に関しては、義母が「最近までぱっとした話題もなかったのに、目覚しいわね」と評価していた。
仲良くしていて、不都合はないそうだ。
……最も、ベルナルドやアーリアが頻繁に動いている様子から、調査はされているようだが。
義父に至っては「ノルヴァ領と仲良く出来て幸いだ。うちは端っこだから、関税がね」と話していた。
こうして見ても、やはり利が大きい。
……若干、腑に落ちないが。
さて、問題の僕の従者だが、ベルナルドは僕より一年早く入学式を迎える。
つまり、一年間、僕の従者の枠は空く。
これについて、義父から打診されているが、僕に彼以外の従者を迎え入れる気がない。
世間体を思えば、公爵の名が泣くのだろう。
それでも僕は、彼とアーリア以外が淹れた紅茶を、飲める自信がなかった。
不在の期間に備えて、ベルナルドから茶の淹れ方を学び、彼とともに料理長から簡単なレシピを教えてもらっている。
長年世話になっている料理長の作ったものなら、自力で食べることも出来る。
ただ、人前で食べられるような状態ではないため、今後のためにも学ぶ必要がある。
何だかんだ言い訳しているが、端的に言えば、ベルナルド以外について回られることが嫌なだけだ。
彼の席に、他の誰かが居座ることが許容出来ない。
人見知りだ。悪いか。
そもそも僕の価値観は、困窮している母子家庭のそれだ。
仕立ての採寸ですら嫌だと思っているのに、他人に付き纏われるなど嫌悪が立つ。
他人とは適度な距離を保ちたい。
義父より、今後の予定が公表された。
リズリットが14歳、つまり僕が12歳になった折、学園入学者は王都の別邸にて入学準備を行う、とのことだ。
ユーリット学園へ通う以上、地理の把握と、顔見知りの確保は必要だ。
そのための準備期間だと説明された。
義父は領地経営があるため同行はしないが、代わりに義母とミスターオレンジバレーが引率する。
執事を外へやっていいのか疑問だが、不在期間はヨハンが代理を務めるらしい。
同行を頑なに断ったヨハンは、研究に人生を捧げているため、僕もその強固な態度を見習いたいと思った。
話は戻り、僕の従者の件だが、王都には護衛で雇った男がいる。
外出時は彼と行動を共にすることで、話は纏まった。
義父は最後まで「公爵っぽく……」と訴えていたが、僕はヨハンを手本にすると決めた。
強固な態度で臨みたいと思う。
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