記憶を掘り起こして

 リヒト殿下が抱えていた、騎士団と自警団の諍いの問題が、リズリット様の登場によって解決した。


 凄惨な事件の唯一の生存者が、奇跡の回復。

 喜ばしい話題によって暗い話は集結へ向かい、街は一気に収穫祭へと気分を切り替えた。

 僕たちの関わりを知ったリヒト殿下が「もー!」と怒ったが、華やぐ街並みに出店数と見込み客が持ち直したため、良しとするらしい。



 リズリット様についてだが、アリヤ卿はご自身が引き取る心積もりをしていたそうだ。

 しかしリズリット様が想像以上に僕に依存してしまったため、相談の結果、コード家で働くことになった。

 使用人ではなく、領地の自然とふれあえる方を希望されたそうだ。


 話を聞けば、アリヤ夫人もリズリット様が僕へ暴力を振ったとき、アリヤ領で引き取ることを考えていたらしい。

「立派な紳士にしてみせるわ」と微笑んだ彼女に、クラウス様が静かに震えていた。

 何となく、クラウス様がいつも優しい理由がわかった気がする。


 また、リズリット様は既に魔術の発現が見られているため、ユーリット学園への進学が決まっている。


 未だ魔術の使えない坊っちゃんが、焦ったお顔をされていた。

 旦那様は大丈夫だと励まされているが、本当にどうしよう。

 僕が学園に消える一年間。坊っちゃんのお食事、どうしよう……。




 さて、またしても今更ながら、思い出したことがある。


『Chronic garden』はシステム上、必ず戦闘を行う。

 この戦闘イベントでは、毎回演出で何名かのモブキャラが死亡し、キャラクターたちの緊迫感を上げるシーンがある。


 この死亡確定のモブキャラのひとりに対して、個別ルートのクラウスが激しく気を病む描写がある。


 確か、「幼少期をともに過ごしたのに、あのとき俺はあいつを助けることが出来なかった。次こそはと思ったのに、もう二度と『次』なんてないんだな」

 こんな感じのことを言っていた気がする。

 責任感の強い彼らしい台詞だ。


 今回の件から察するに、その死亡確定のモブキャラが、リズリット様ではないだろうか?


 幼いクラウスは彼を助けることが出来なかった。

 援助を行ったのはコード家だが、そもそもゲーム内のコード家は奥様が死亡し、旦那様も精神を病んでいる状態だ。

 とてもではないが、他所の家を助けられる状態ではない。


 お手伝いに行った初日、疲れ果てた顔のクラウス様の様子を思い出す。

 あのままアリヤ夫人が駆けつけるまで放置されていたら?

 考えるだけでぞっとする。


 なるべくクラウス様の負担を減らすよう行動を起こしたが、結果としてはどうだろう?

 ともかく、彼の10歳の誕生日が、残酷なものにならなくて良かった。

 危うくクラウス様の心にまでトラウマを植えつけるところだった。危ない危ない。


 出来ることなら、事後じゃなくて事前に情報を思い出したい。

 けれども残念なことに、細やかな部分が思い出せない。


 大体、何で戦闘するんだっけ?

 ゲームをしていて、こわっと思ったのは覚えてる。

 けれども、今欲しいのは感想じゃなくて詳細だ。頑張れ僕の記憶力。



 それにしてもリズリット様、何でクラウス様じゃなくて、僕にくっつくようになったんだろう?


 奥様だって常に傍にいたはずだ。

 こんな自分よりも小さな子どもに縋りつくより、母性感じるお姉さんに傾向する方が安心感あるのに。不思議だ。


 ひとまず、お嬢さまイベントには大きく絡むところではなかったけど、鬱フラグは潰せたはずだ。

 地道にコツコツ、お嬢さまをお守りしていこう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る