聖なる夜から目覚めた朝
鯉山 Reeya
聖なる夜から目覚めた朝
「ああ、結局今年も言えなかったな」
電車に揺られながら外を眺める。街はイルミネーションで彩られ、生き生きと輝いている。車窓に映る物悲しげな僕がチラチラと目に入るのが煩わしく、つい目をそらしてしまった。
電車内では、カップルだと思われる2人が仲睦まじく会話を交わしている。内容はよく聞こえないが、というよりも、聞きたくもないというのが本音だが、幸せ真っ盛りというような様子だ。僕はその様子を横目で見ながら、さっきまで会っていた「君」のことをぼーっと考えていた。
「君」とは幼なじみだ。幼稚園児のころからよく遊んでいて、社会人となった今でも、月に1、2回会うほどの仲である。だからこそずっと言いだせなかった。もしも君がこの気持ちを知ったら、もう会うことができなくなってしまうかもしれない。それが怖くてもう5年間、この気持ちを押し殺していた。
しかし、今年こそは伝えようと心に決めた。いつまでもこのままでいられないのはわかっていた。だから、クリスマスである今日、君と会う約束をした。
いつもの駅の改札で君を待っていると、君は普段と変わらないような格好で僕の前に現れた。それが余計に、君は僕のことなど意識していないのだということを痛感させた。
いつもと同じように、いつもと同じカフェで、たわいもない話をして、2人で笑いあった。それが僕にとって1番の幸せだった。
しかし、そんな幸せな時間は、君の一言によって壊された。
「私ね、やっと好きな人ができたんだ」
嬉しそうに笑う君は、今までに見たこともないほど美しかった。今までに見たこともないほど憎らしかった。
「俺と会ってる場合じゃないじゃん。その人の元に行っておいでよ。」
僕は思ってもいないことを口にしてしまった。今すぐ逃げ出したかったのだ。優しく言ったつもりだ。しかし、今となっては、どんな口調で言ったのかも、僕がどんな顔をしていたのかもわからない。
そんなことを考えているうちに最寄り駅に着いた。もう君のことは忘れるべきなのだ。結局何も言えないまま終わってしまった。何も考えたくなかった僕は、家に帰るとそのまま眠りについてしまった。
1件の通知に気づいたのは、次の日の朝だった。送信元は君。送信時間は昨日、君と駅で別れた直後ぐらいだった。
「もう一度、会っていただけませんか。」
いつもよりも堅苦しい君からのメッセージに僕は動揺した。
気付いた時にはもう、焼きたてのパンと淹れたてのコーヒーを放ったらかしにして、君のもとへ駆け出していた。
HOWL BE QUIETの楽曲『Merry』(『DECEMBER』2013.12.11 収録)に敬意を込めて
聖なる夜から目覚めた朝 鯉山 Reeya @Reeya_bungaku
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