第4話 クリスマスが好きになる


「良かった。クリスマスの事が嫌いじゃなくて」


 頷いているアンジーは安堵していた。


「それはどういう意味でしょうか」

「ボクの仕事はね。世界中の人がクリスマスを好きになってくれるように、色々企画する事なんだよ」

「えーっと。あんなに無礼でバカ騒ぎして自分勝手な人たちですけど」

「そうかもね。でもね。これはみんなが幸せを求めているって事でもあるんだよ。本来の意味から少し外れちゃっても方向性は同じだと思うんだ。クリスマスを通じて人々が幸せになる事。それがボクの目指す方向性なんだ」

「アンジーさん。貴方、本当はイエス様なのでは?」

「あははは。だから違うって。こういう外見だからよく間違えられるんだけどね。そうだねえ。世界を学校に例えると俊之君は生徒でボクは担任教師。ボクは偉い訳じゃなくて少し年上ってだけ。イエス様は文部大臣なんだよ。一生徒の前に文部大臣は出てこないでしょ」


 なるほど。そういう話なのか。

 しかし、それはアンジーの立場を説明しているだけだ。俺の置かれている現状とは繋がらないと思う。


「じゃあなぜ俺はここにいるんですか? アレは不幸な事故だったとしても、俺がここにいる意味を教えて欲しいです」

「理由はただ一つ。君にね。思い出して欲しかったんだ。本当はクリスマスが大好きだったって事をね」

「思い出してどうするんですか? もう死んじゃってるわけだし意味ないと思いますけど」


 アンジーはニコニコしながら俺の手を握った。


「君はまだ死んではいない」

「肉体は死んでも魂は不滅とか言わないでください」

「あははは。そんな話じゃないよ」

「じゃあどういう事なんですか? トラックにはねられて死なないなんて信じられない」

「それはボクのちょっとしたイタズラなんだ」

「イタズラって。アンジーさん、そりゃ酷いよ」

「ふふふ。まあ怒らないで。そろそろ戻ってくださいな」


 戻る?

 何の事だ?


 アンジーがパチンと指を鳴らした瞬間、俺は眩い光に包まれた。

 そして、奈落の底へ落ちるような、ものすごい急降下を味わったのだ。


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