成長記骸《むくろ》

葵流星

成長記骸

今年、私は会社を退職した。

定年退職である。

これから先の蓄えはそんなにないけども、息子夫婦には迷惑をかける心配のない額である。

私が死ぬ前に遺産を使い切ってしまわなければならないと思う。

こうして、私はすぐに『終活』に取り掛かった。


妻は、半年ほど前に他界し、家には私1人が取り残された。

あんなに道具がたくさんあった部屋も今ではもぬけの殻である。

私は、息子夫婦に意地を張りまだ、しばらくは1人で暮らすことにした。

日々、動かなくなっていく身体をほぐし町を歩いた。

また、インターネットには触っていた為フリーワイファイに手持ちのタブレットを使い情報を集めていた。


ある時、私は自分の母校が取り壊されることを知った私は、そのことが気になり母校へと向かった。

取り壊されるとはいえ、これまでの何回か改築が行われたがついに、取り壊される運びとなった。

また、学校自体は廃校にはならず今度は、新設された校舎で業務を行うという事だった。

私は、廃校にならないことに安堵したが、それでも改築されたとはいえ自分の母校を失うことには変わらなかった。


そして、工事が行われる前日。

私は、校舎の中へと足を踏み入れた外観は真新しく見えようにもくたびれた内装は寿命であることを物語っていた。

ただ、歩いていると私と同じように校舎の中に入っている男の子に出会った。

君もお別れに来たのかい?っと、話しかけると男の子は違うと言った。

おじさんは?っと、聞かれた私は昔、この学校の生徒であったことを彼に告げた。

ぼくもそうなんだっと彼は機嫌よく私に言ったが、彼の顔は曇っていた。

君はここに一人で来たのかいと尋ねると、彼はみんな教室に居るよとどこかへ走って行った。

私は、彼をよそに再び校舎を歩いた。

音楽室、理科室、図画工作室、保健室、体育館…どれも変わってしまった。

もう帰ろうかと思い、最後に近くの教室の中に入った。

その教室は、一度通った時と同じように何も書かれていない部屋だった。

…けれど、そこには先ほどの彼と彼の言ったみんなが居た。

教室を見渡して見るとどこか懐かしい顔ぶれの小学生が、私が居た当時の格好をして椅子に座り、ただ黒板を見ていた。

不思議に思った、私は彼に話かけてみた。

彼の席は、窓際の一番後ろの席だった。


「君は、何をしているんだ?」

「授業です。」

「…先生が、いないじゃないか?」

「えっ、そこに居ますよ?」


ふと、黒板を見るとそこには文字が書かれていた。

しかし、真っ白だった。

黒板には、落書きと数字とひらがなとカタカナと日付が交じり合っていた。

私は、不気味に思い教室を後にしようとした。

しかし、扉が開かなかった。

誰かが押さえつけているようだった。

「これから授業ですから、席についてください。」っと、聞こえたような気がした。

それは、声とは言えなかった。

言葉をいくつも重ねた音だった。

仕方がなく、私は授業を受け…無事に教室から抜け出せた。

そして、教室に向き変えるとそこには誰も居なかった。


次の日、校舎は予定通り解体された。

私は、昨日のことを私のように見に来た友人に酒の席で話した。

すると、彼は…

『お前は、過去に囚われているんだよ。俺だって、そういう時がある。』と、

そんな普通の言葉を口にした。

『だけどな、あの時が一番楽しかったって思うものだ。』とも、彼は言った。

あれから先の未来は、楽しかったのかっと?

そう聞かれていたようだ。

…どうだろうか?



そんな声がどこからか聞こえた。

どうやら少し飲みすぎたようだと私は友人達に言った。

そして、再び彼らの顔を見ると…


そこには、剝がれかけた彼らの身体が彼らに纏わりついていた…。




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成長記骸《むくろ》 葵流星 @AoiRyusei

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