タケのせい


~ 一月二日(水) お年始と言えば宴会 ~


  タケの花言葉 多くの仲間



 結局、夢から覚めてはまた夢で。

 昨日の体験はどれが現実でどれが夢なのやら。


 一晩中、寝たり起きたり。

 おかげでなんだか寝不足だったのですが。


 いつもの騒がしさのおかげで。

 一気に目が覚めました。


「あけましておめでとうございます」

「なの」

「おめでとう、穂咲、秋山」

「おめでとさん。……しっかし、良く集まったなあこりゃ」


 渡さんと六本木君。

 二人は予備校帰りに遅れて到着となりましたが。


「俺達のクラス、三十二人しかいないのに。二十人も集まってどうしますか」

「ほんとなの。みんな、もうすぐ三年生になる自覚が無いの」

「あはは……、主催者が言うんだ……」

「はっはっは。今のは、藍川君なりの小粋なジョークでしょう」


 神尾さんと岸谷君が。

 出入り口近くのテーブルから、ジュース片手に声をかけてくると。

 

「かすみっち! こっち空いてるっしょ!」

「ボードの時の写真、一緒に見ないか?」


 日向さんと宇佐美さん。

 二人の手招きに、コートを脱いだ六本木君が席に着きました。



 ……昨日。

 クラスの皆におめでとうメッセージを送っていたら。


 勝手に穂咲がそこに一文つけ足して。

 新年会を開くことになりました。


 お店は三が日の間、閉めているのですが。

 場所だけは貸して下さるということで。


 お菓子やジュースを持ち寄って。

 随分沢山の方が集まって下さったワンコバーガー。


 一月二日だというのに。

 予想外なことになっています。


 そんな皆さんへ。

 厨房から、勝手にドリンクを持ち出してふるまうのは藍川あいかわ穂咲ほさき


 軽い色に染めたゆるふわロング髪の上に門松二つ。

 神様に入ってきてほしいのですか?



「グッドグッド! 集まったねほんと!」

「やれやれ。……どうせなら、そこのモニターでアニメでも上映しないか?」


 椎名さんと佐々木君が声をあげると。


「し~な~。ロボとかじゃないのにして~」

「そうだぜ椎名。恋愛ものとかにしろ」

「いや! 王道のロボアニ行っとこうぜ!」

「却下だ。萌える奴にしろ」


 小野さんがのんびりと話すのを。

 立花君が鼻の下を伸ばしながら同調すると。

 おちょうし者の柿崎君、矢部君コンビが否定します。


 ……思えば。

 去年一年の間に。

 沢山のみんなと仲良くなれた気がします。


 今年は、もう少し深いお付き合いを。

 思わず、そう考えてしまうのです。



 静か目な席には江藤君と新谷さん。

 谷君と原村さんが座っていますけど。


 予想外なことに。

 ワルでお馴染み、中野君まで一人でジュースを飲んでいたりするのですが。


「……中野君の駅、結構遠くじゃなかったでしたっけ?」

「うるせえ。俺がいちゃあ迷惑みてえな言い方すんな」


 むっとする中野君を。

 六本木君がサッカーの話題を振りながらなだめてくれました。


 ああ怖かった。

 でも、ほんとに。

 わざわざ電車で来てくれて。

 ありがとうなのです。


「地元じゃないのに。有難いのです」

「地元って、あたし達の駅と同じ人? 優里花っちと、あと、来てないけどすみにょんと……」


 そう。

 小野さんと冷泉さんの家は駅の反対側。

 二人とも、一度ずつ中学の頃同じクラスになっています。


「駅のこちら側と言えば、渡さんと近藤君ですか」

「そうなの。でも、二人の家はそこそこ遠くなの」

「駅まで自転車ですもんね」


 俺は穂咲と二人で飲み物を運んだりゴミを片付けたり。

 すっかりバイト中と言った感じでみなさんをもてなしながら話します。


「そう言えばこんちゃん君、来てないの」

「そうですね。でも、あまり大騒ぎするタイプじゃありませんし、俺たちとはあまり話さない方ですし」


 小中高と一緒だというのに。

 クラスは一度も一緒になったことのない近藤君。


 穂咲とも俺とも。

 ちょっと距離がある感じの方なのですが……。


「あたし、良くお話するの」

「え?」


 意外な返事が。

 穂咲の口から飛び出しました。


「そうなのですか? 俺、君が近藤君と話してるの見たこと無いのですが」

「なんでなの? よく話すの」


 あれれ?

 それは認識不足でした。


 知的で物静か。

 六本木君に劣らぬイケメンな近藤君。

 クール系の彼と仲が良かったなんて。

 意外なのです。


「おい、主催者! なんか余興はねえのか?」


 おっと、そんなことを考えている間に。

 六本木君から無茶ぶりが飛んできます。


 どうしたものか、穂咲と顔を見合わせると。

 こいつはコホンと咳ばらいを入れて。


「本日は寒い中お集まりいただき、ほんとうにありがとうなの」


 まともにご挨拶を始めたと思っていたのですが。


「でも、みんな……」


 あっという間に暴動になりました。


「暇なの?」

「みなさん落ち着いて。あと、今のセリフを言ったのはこいつです。俺をにらむのは間違いですので今すぐやめてください」


 まったく。

 年が改まったというのにいつも通りなのです。


 俺は盛大にため息をつきながら。

 お店の外へ向かいました。


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