第11話 新陰流その2
前回の続きです。
前回書いたように、
疋田豊五郎は
鈴木意伯、
上泉信綱の門下では、柳生・丸目・疋田・神後(鈴木、吉田とも)の四名が傑出していたとされ、現在でも新陰流の四天王などと言われる事があります。
1、上洛途中で
信綱は上洛途中、今の奈良県で
これが永禄6年(1563)頃とされています。その後、京に向かうため弟子の疋田豊五郎を柳生に留め置き、指導にあたらせたという話があります。この時、柳生宗厳は36歳、宝蔵院胤栄は40歳です。(ちなみに上泉信綱は55歳、疋田豊五郎は26歳、神後伊豆守は年齢不明)
柳生宗厳と宝蔵院胤栄はその2年後、印可を得ています。
信綱についての確かな一次史料として、
柳生一族は、江戸初期の剣術を語る上では省く事が出来ない存在ですが、この時点ではまだ地方の豪族、新陰流の一高弟にすぎません。活躍するのは関ヶ原以降になってからです。
※1 なお、柳生と新陰流については「やる夫で学ぶ柳生一族」という名作がWEB上にあります。柳生一族や新陰流の歴史に興味がある方は読まれる事をお勧めします。
※2 言継卿記、公家の山科言継が戦国時代50年近くにわたって書かれた日記。国賢卿記、同じく公家の船橋国賢の日記。(こちらはなんらかの論文に引用されていたのですが、コピーしか持っていないため、出所が不明、いま確認中です)
2、柳生と疋田、それから雲林院の関係
先ほど書いたように、疋田豊五郎は
※3 誓紙は武芸では入門や免許などの時に師へ提出するもので、最後まで稽古を続けること、師の指示に従うこと、他人と争わないこと、などを誓い、違反した場合は全国の神々の神罰が下るという形式で書かれます。
雲林院は槍の達人として有名で、江戸時代幕臣たちが稽古した
また、雲林院弥四郎の息子(この人も弥四郎と名乗っています)は柳生家の門弟となっていますから、雲林院・柳生・疋田の三者にはつながりがあったのだと思います。
柳生と疋田の関係ですが、柳生宗厳の嫡男新次郎(
3、神後伊豆守と無刀
上泉信綱の上洛中の逸話については、様々な逸話が語られています。有名なのは
この時僧から借りた袈裟は、感心した僧から信綱に授けられたそうです。上記の話は
この逸話が事実かどうかわかりませんが、神後伊豆守系の流派では事実とされていたようです。
※4 武芸小伝 天道流の日夏繁高が正徳4年(1714)に出版した、全国の武芸流派について記載した書です。武芸小伝の影響はこの後に出版される武芸関係の書籍、武術の伝書における記述に大きな影響を与えました。現代の諸流派の記述もこの書籍の記述を元にしているものがまだまだあります。ただし、日夏個人が知りえた情報を元にしているため、九州や四国、中部、東北などの流派の記述はあまりありません。(日夏は関西、江戸、あとは一部東北に関係があるとか)
※5 新陰流から一旦流剣術を編み出した剣術の達人だそうです。神後伊豆守とその弟子について詳しく語っているので、神後伊豆守の新陰流の使い手だったのかもしれませんが、広島の古文書類は原爆で失われたものが多いため、不詳です。
また、尾張柳生に伝わる話としては、また別の話があります。尾州明光寺に信綱が滞在している時に、背後から切り掛かってきた乱心者の太刀のムネを両手で捕り、引き倒して踏み抑えた、という話です。この話を信綱は柳生宗厳に語り、無刀を完成を依頼して別れたとされています。
無刀、一般的に
また、柳生石舟斎によって完成した、という説が一般的です。
ですが、実際のところ、上泉信綱と鈴木が無刀を稽古している記録(※6)があり、
柳生と無刀の話は、剣術的な意味で、さらに高度なレベルで無刀を完成させた、と認識するのが良いのではないかと思われます。
※6
※7 国賢卿記 元亀二年七月十一日に上武・鈴木来、兵法格位真砂(妙?)無刀迄遣了との記述があります。上武が上泉武蔵守(信綱)、鈴木は鈴木意伯(神後伊豆守)、信綱と鈴木が来て自分(國賢)と稽古をした、
次回、京都での
参考文献:
今村嘉雄 編著(1982)「日本武道大系第3巻」同朋舎出版
近藤義雄(2010)「箕輪城と長野氏」 戎光祥出版
全日本剣道連盟(2003)「剣道の歴史」
花岡興史(2009)「新史料による「天草・島原の乱」」九州文化財研究所
柳生厳長(1957)「正傳新陰流」
中世古祥道(1998)「上泉武蔵守信綱傅私考」南伊勢町教育委員会
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます