覚めざらましを
雪代
第1話
12月24日、クリスマスイブ
今日は彼とのデート
一緒に映画を見に行って、流行りのカフェでランチ
午後はショッピングを楽しんで、ディナーはやっと予約が取れた人気店のコース料理
そして今頃は大好きな彼とあんなことやこんなことを……
しているはずだった
現に私は今、華やかなイルミネーションが飾る街を1人で歩いている
そう、1人でだ
どうしてこんなことになったのだろう
言わずもがな、原因は彼である
夕食を済ませ、店を出た彼は私にこう言った
「今日までありがとう、すごく楽しかったよ」
「うん、私も……え?今日"まで"?」
「あぁ、今まで十分楽しませてもらった」
「ちょっと待って、私のこと好きだったんじゃないの?」
「好きだよ、でも、それが何になるって言うんだい?」
……こいつは何を言っているのだろう
「君のことが好きなのは事実だよ、一緒に過ごしてきてすごく楽しかった。でもそろそろ僕も将来を考えなきゃならないと思ってね」
「要するに、私とは遊びだったと?」
「人聞きの悪いこと言うなよ、君だって楽しんでいただろう?」
こうして私は、カップルたちが犇めく街を1人淋しく歩いていると言うわけだ
これは史上最悪のクリスマスになりそうだ……
そんなことを考えながら、人気の少ない道を選びながら帰路に着く
いつもは人がめったに通らない路地裏も、今日はクリスマス仕様だ
光る電飾や飾られたツリーを見ると胸が痛む
自然と早足に、何も見なくて済むよう俯きがちになる
このままいつものように帰るだけ、路地を抜ければ自宅はすぐそこだ
「お嬢さん」
突然聞こえてきた声に顔を上げると、一人の青年が立っていた
電飾でカラフルに照らされたその姿は、ホスト……にしてはシンプルでその黒服を思わせるような……私には縁のない世界の住人のように見えた
「私、のことでしょうか…」
「こんなところに、あなた以外誰がいるというのでしょう?」
呆れたような返事だ
「クリスマスイブにこんな寂れた路地裏にいる女性、何もないわけないですよね?」
…………図星だ
「その顔はやっぱり何かあった感じですね?」
こいつ、鋭いな…
いや、わたしが表情に出過ぎるだけだろうか
「良かったらうちの店に来ませんか」
やはり、そういう店の勧誘だったか……
話を長引かせても面倒だし、さっさとここを立ち去ろう
「ちょっと、今怪しいお店を想像しませんでした?」
こいつはわたしの心を読めるらしい…
「そうじゃなかったら何なんですか」
「うちはごく普通のバーですよ」
「バー……」
……というと、お洒落に酒を嗜む場所としか想像出来なかった
よく見ると、青年の格好はバーテンダーそのものだ
バーになど行ったことはないし、行こうと思ったこともない
「よかったら来てください、きっと楽しめると思いますので」
そう言い、名刺サイズのカードを私に手渡すと、その青年は去っていった
店名と店までの地図だけが書かれたシンプルなデザインで、店の雰囲気などわかりもしない
少しだけ興味をもった私は、店の名前をまじまじと眺める
BAR Royal Chloe
……読めない
こんなところで低学歴を露見することはないじゃないか
自分への苛立ちが沸き上がったが、諦めて文明の利器に頼ることにした
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