第9話 私にとって

「伊月あなた本当にあの女の所に行くつもり?」


 講義が終わった後、案の定麻衣から釘を刺されたのである。確かに、彼女の立場からすれば他の女のところに自分の彼氏が行くのは面白くないに決まっていると理解している。

 しかし、全く休んだことのない来栄が今日に限って来ないのはおかしい。

 確かに大学ということもあり、出席の強制はないにしても、あいつは必ず講義を受けていた。


「様子を見るだけだ。別に何かしようなんて思ってない」


「はぁ?そういう問題じゃないんだけど?」


 私の言葉に明らかにイラついた表情を麻衣はしていた。しかし、あんなやつでも幼馴染であるため心配である。それに彼女の家は母子家庭である。おばさんが仕事に行っている間は1人になる。

 だからこそなおのこと見捨てることは出来ないのだ。

 そんな最中、私のスマホに着信が入った。画面を見ると母からであった。


「もしもし?」


「もしもし伊月!?あなた深月がどこいったか知らないかしら!?」


 母の声はどこかへ切羽詰ったような様子が感じられるものだった。


「学校じゃないのか?」


「来てないって学校から連絡がきたの!あなたにも連絡したけどずっと留守電だったし!」


 そういえば今日はビジネス英語の小テストがあったから電源を切っていた。だから母親からの着信に全くに気づかなかった。


「どこか心当たりは?何か深月は言ってなかったか?」


「分からないわ。制服着ていつものように出ていったから…」


 制服着て出ていくならば、いつものことであるから母が違和感を覚えるはずはない。

 だとしたら、一体深月はどこへ。

 考えていると、横から麻衣が肩を軽く叩いてきた。


「深月ちゃんがどうかしたの?」


「深月が学校に行ってないらしいんだ…」


「え?」


 その言葉を聞いた麻衣も思わず固まってしまった。電話越しの言葉でただ学校に言ってない訳では無いこともあり、この事の重大さが分かっていたのだ。


「とりあえず、深月に連絡をとってみる…」


 スマホを取り出し深月の電話へ発信した。

 ダイヤルトーンが繰り返しなるだけで、出る気配のようなものはない。

 やがて無機質な声の留守電メッセージの否を問うものへと変わった。


「なんで、でないんだよ!」


 焦りからつい苛立ってしまった。


「伊月そんな焦ってもしょうがないでしょ!とにかく、深月ちゃんと繋がりがあるところに電話をかけていこう」


 麻衣は私と違い冷静であった。彼女のおかげで何とか冷静さを取り戻した。

 しかし、色んな不安が頭の中に巡ってきた。何か事件に巻き込まれていないか、事故にでもあったのか。とにかく無事を祈るだけであった。


「まずはお義母様とあって考えましょう」


 麻衣の言う通りまず母に会いそこから手分けして探して言った方がいい。

 そう思いまず家に戻ることにした。


 ◇◇◇◇


「ただいま!」


「あぁっ!!伊月!!深月が何処にいるか分からないの!!!」


 家に帰ると母が狼狽えた様子で迎えてきた。

 心配のし過ぎで今にも泣きそうであった。


「母さん落ち着いて!とにかく麻衣も手伝ってくれるらしいから手分けして探そう!」


「お義母様!私も深月ちゃん探すの手伝います!」


 私の後ろにいた麻衣が私を超えて母にそういった。


「ありがとう麻衣ちゃん…私は深月のお友達の家に電話していくわ!」


「じゃあ俺は家の周辺さがしてみるよ」


「私は駅前の方を探してみるね」


 3人は手分けして探していくとにした。幸いにもまだ末妹が学校いるので母はそちらを気にせずに探せることができた。


「あいつのいく宛か…どこがある?」


 私は家の周辺を探すことにした。そこから手がかりを集めることを第一に考えた。

 来栄の家を通りかかった。しかし、彼女は今日休みでありこんなこと知るわけがない。

 お見舞いでも行こうと思ったが、今は妹の安否が大事だった。


「深月…どこに行ったんだ…」


 まさか誘拐された。脳裏には嫌な予感が過ぎていた。それだけはどうかないこと祈った。

 ご近所さんに聞き込みをしたりしていくがなかなか見つからない。とにかく今は小さな情報でもいいから欲しい。

 今朝喧嘩はしたものの、それでも可愛い妹である。

 探していくうちに日も傾きいよいよ大変なことになった時に、とある公園にやってきた。


「ここは昔深月と遊んだ公園か…」


 古い記憶ではあるが未だ覚えている。まだ小さかった深月はずっと私の横をついてきてとても可愛かった。

「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」と甘えた表情や泣きそうな顔でついてきた深月。

 今は確かに生意気だが、それでも大切な妹だ。


「必ず見つける…」


 夜になる前に何とか見つけださなければ、そう考えてまた走り出した。

 しかし、やはりどこにも居ない。とうとう、日は沈んでしまったのだった。

 結局見つけることが出来ず、帰路へとついていた。


「くそっ…見つけられなかった…」


 悔しかった。手がかりというものが全くなくどうしようもなかった。

 ライトに映る自分の影を見つつとぼとぼと重い足取りで帰っていった。

 ふと前を見ると、見かけたシルエットがあった。


「深月…?深月!!?」


 間違いない。夜で見づらいがあの制服とあの髪型間違いなく深月である。

 無我夢中に走った。


「深月!!」


 そのシルエットは驚いたようにこちらの方を見た。

 やはりそうだった。よく見た顔。それがそこにいた。


「深月!!!」


 駆け寄り思わず抱きしめた。


「あ、兄貴!?何を!?」


 深月は驚いた様子だった。状況が飲み込めずあたふたとしていた。


「ばかやろう!!心配したんだぞ!!」


 少し言葉は汚いが、それでもどれだけ心配しただろうか。深月は平然とした顔をしていた。


「別に…兄貴には関係ないでしょ…」


 その言葉を聞いた時に、私は怒りが込み上げた。深月のことを心配していた母や、探してくれた麻衣たちのことを考えるとそれが許せなかった。

 パチーン!!!!


「いった…!!??何するの!!?」


「母さんが、麻衣が、俺が…どれだけ心配したと思ってんだ!!!!?」


 私の荒らげた声が夜の住宅街に響いた。



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ドSな彼女から弄ばれて 石田未来 @IshidaMirai

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