ファーストシスター 編

第6話 妹から避けられる

 あれから数日が経ったのだが、色々と今は大変である。あの行為を妹である深月に見られてしまったのだ。

 あれ以来深月の私を見る目は変わった気がした。まるで汚いものを見るかのような冷ややかな目である。

 挨拶をしても返してくれない。いつもだったらまだ反応はあったはずなのに。


「伊月。あんた深月に何かしたの?」


 母親にこんなことを言われる始末である。だがそれほど態度がおかしいのである。


「いや、別に何もしてないけど…」


 嘘である。何もしてないが、しているところを見せてしまったのだ。


「深月も難しい年頃だからあんまり変なことはしないでね」


「だから、なんにもしてないってば…」


 冷や汗が止まらなかった。口が裂けても麻衣との強制的なSM行為をしていたなど、絶対言えない。

 そんなこと言ったら母親に殺されてしまう。このことは心中に留めておくとしよう。


「お兄ちゃん顔から汗がでてるよ?」


「あはは…最近暑くなってきたからかな…」


 そう言ってリビングのテーブルで宿題をしている1番下の妹の睦月に鋭いところつかれた。実際リビングは暑くはなく涼しいくらいである。

 そんな中で汗かくなど余程である。睦月にも女の勘の片鱗が見えた言葉だ。


「さてと、2階にいくかね…」


 ここに長居はしたくないため、自分の部屋へ戻ることにした。

 足取りは重く、足音は鈍いものであった。そして部屋に入ろうとした時、ガチャっと扉の音がした。


「ねぇ。兄貴」


「!?深月?」


 突然深月に呼ばれて驚いた。この頃全く話もしなかったため、完全に軽蔑されていると思っていたのだが、少し安心した。


「ちょっと私の部屋にきて」


「え?お、おい!ちょっと!」


 深月に引っ張られた私は彼女の部屋へと連れていかれたのだった。


「なんだよ深月」


「いいからそこに座って」


 部屋に入れられ、ちゃぶ台の近くのクッションを指さされて座るように促された。

 深月は自分のベッドに腰掛けていた。今日はミニスカに黒のニーソックスを履いており、JKらしい格好であった。

 こっちからはギリ見えるか見えないかというアングルであった。もちろん私は妹の下着など興味ない。うん。興味ないから。


「兄貴さ、変態なの?」


 妹から飛び出した言葉に大きな衝撃をうけた。それと同時にたまらなく恥ずかしくなってきた。


「どういう意味だよ?」


「この前のあれどこが変態じゃないの?気持ち悪」


 ここまで言われるとは、さすがに傷つくのだが、客観的に見るとそう思われても仕方がない気がする。

 むしろ完全に無視されて、汚物を見るような冷ややかな目で見られるよりはまじではないかと言えるだろう。


「あの人とあんなことをして…ほんっとに不潔…」


 いくら妹でもこれだけ言われる筋合いはないとだんだんと憤りを感じた。

 私が彼女と何をしようとも深月には関係のない話ではないか。どうしてそこまで気持ち悪だの不潔だの言いたいこといいやがって。不愉快であった。


「さっきから気持ち悪いだの、不潔だの…麻衣と俺が何しようとお前には関係ないだろ?」


「それは…だって…」


「もう部屋に戻ってもいいだろ」


 そう言って私は何も言えなくなって吃っていた深月を前にため息を1つ着いて自分の部屋へと戻った。


「ああったく…なんなんだよ…」


 自室に戻りベッドへと飛び込んで白い天井を見つめていた。

 元々最近は深月とは仲のいい兄妹とは言えないがここまで言われることはなかった。

 それに私に無関心のような感じであったのに、あの行為をみただけであそこまでなるのだろうか。


「あーもー、なんかめんどくさい!!」


 天井から今度は顔を枕に埋めて何も考えないように目をつぶった。



 ◇◆◇◆◇◆


 どうして私は素直になれないだろうか。兄を目の前にすると私はどうしても悪態ついてしまう。

 昔はもっと素直だった。素直に好きだと言えたはずなにどうして私は…。


「お兄ちゃん…」


 私は机に置いてある写真立てに入った人物に目を向けた。

 まだ私が小学生のころにとった写真である。妹の睦月は生まれてはなく、私と兄の2人の兄妹だった。

 あの頃は兄に甘えていた。今とはなっては恥ずかしくて他の人には言えないが、「お兄ちゃんと結婚する!」なんてことも言っていた。

 それが今となってはどうだ。素直になれず、あんな言い方をして、不機嫌にさせてしまった。


「もう…ほんとやだ…どうして素直になれないの…」


 私はベッドへと飛び込み顔を枕へと埋めた。

 自分自身に嫌気がさしていた。これが思春期というものなのか。今まで素直に言えていたものも言えなくなってしまい、好きだとも言えなくなった。


 私は兄である伊月のことが好きである。それは兄妹としてではなく、恐らく異性としてである。

 しかし実の兄にこのような気持ちを抱いていいものなのか。

 そういったことも含めて私は兄に対して素直になれないのだろうか。


「お兄ちゃん…」


 兄の顔を思い浮かべる度に切なくなっていったのだった…。

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