第71話 新聞部の本気

 夏休みが明けるとすぐにあるのは体育祭。体育祭の種目の中に、部ごとに参加する部活対抗リレーというものがある。生徒は全員何かしらの部活に入っている。だからこそ設けられている、ということでもある。


 「部活対抗リレー、誰が出る?というよりも、出ない人を一人決めなきゃいけないのよね」

 「えーリレー?!?!私、足遅いから走りたくないですー」

 「それを言うなら私だって走るのは速くないわ」

 「布良さんそれなら俺だって走りたくない」


  奏の一声に続き、栞とガクまでそう言った。自分は多分、そこまで遅くない方だ、と思っていた。それに部活リレーは得点にも入らないし、そんな本気にならなくても・・・・・・と思っていたけど。


 「部活リレーで賞を取ったら、新聞部の実績ってものに入るかしら?」

 「え、まじで言ってんの?!」

 「大丈夫よ、多分。それで生徒会に思い知らせてやるのよ。今年はこの二人がいるからね」


  そう言って栞は匠と市来くんの頭をポンポンと叩いた。その顔は何かを企んでいる顔だった。

  リレーの予選を勝ち抜けなければ本番走ることはできない。新聞部は一応文化部扱いの為、文化部の人達と対抗することになる。


 「結局はタイムなわけ。だから真面目に足の速い人じゃないと駄目。ってことで私は抜けるわ」

 「栞先輩、私も走るんですかぁー!」


  奏が嫌そうな声を出したが、栞は意思を断固として変えることはなくただ頷くだけだった。結局、予選を走ることになったのは私、ガク、それから後輩の三人である。

  予選時のことについて軽く話しておこう。とりあえず匠と市来くんの足が速すぎ。まさに瞬足。新聞部は何とか選抜6チームの4位に入った。

  そして体育祭当日。二年生は全員走ることになり、奏が補欠となった。その年の上位6チームは、上から陸上部、男子バスケ部、生徒会、新聞部、女子バスケ部、軽音部であった。

  そう、ご察しの通り私達新聞部と数秒差で予選3位を勝ち取ったのは何と生徒会執行部。栞の嫌うあの女生徒会長は中学時代陸上部だったのだ。おまけに生徒会室にいたあの仏頂面の後輩も足が匠と同じくらい速かった。


 「良いんですかー栞先輩アンカーじゃなくて」


  市来くんは何度もそう栞に言っていた。いいの、と栞は言い切って2番目に走ると言った。1番を切るのは変人ガクである。ちなみに私は4番目です。ガクから始まり栞、市来くん、私、匠の順番。

  正直ガクは遅いわけでも早いわけでもなかったが、スタート同時に4位をキープして栞に繋いだ。トップランナーは安定の陸上部である。栞が走り出すと歓声が湧き上がる(それほど栞の存在は凄いものなのだ)。


 「なーんであんなに栞先輩って可愛いんだろう。おかしくない、ねえ?」

 「それな。何をしても綺麗過ぎる。もはや誇りだ」


  なんてことを待っている間に後輩二人は言っていたらしい。市来くんは栞先輩が半分まで走ってきたところでスタートラインに立って、バトン(新聞紙を棒にしたもの)を待った。


 「嵯峨っち、俺が走り出したらすぐにここに立って待ってろよー俺と杏パイセンは速いぜー」


  みたいなことを市来くんは得意げに言ったらしい。その数分前、そう確かリレーが始まる前だ。私と栞がドキドキしながら待機していると、あの生徒会長がやってきた。


 「部長さん、2番目に走るの?アンカーじゃないのね」

 「ええ。だって私、そんなに足が速くないから」


  二人の間にまた見えない稲妻が光ったような気がした。相手もまたライバル心むき出しだった。


 「私も2番目に走ることにします」

 「え?!」

 「これはただの部活対抗リレー。そんな躍起になる必要なんか無いよ」


 この生徒会長はさっきから台詞と顔が一致していない。栞も栞で負けず嫌いな面があるため、会長の決断に反発することは無かった。負けるもんか、と言わんばかりの顔だ。

  会長の方が少し早くバトンがやってきたが、栞もそのあとすぐにバトンをもらって駆け出した。そのすぐ隣のコースで男子バスケ部の部員がバトンを落として少しこちらと距離ができた。


 「栞ーー!チャンスだよーー!」


  ラッキーなことに私達は二走目にして三位に入っていた。栞は会長に何とか追いつき、二位争いをして市来くんに渡した。陸上部員がやばい、と呟いているのが聞こえた。何故なら一位の陸上部に生徒会と新聞部がすぐ後ろまで来ているからだ。市来くんのおかげで生徒会を少し抜いたが、それでも一位には追いつけない。

  私の手にバトンが渡される。周りの音が一瞬にして聞こえなくなった。

  またその数分前。市来くんが走りだした後、ラインで待っていた匠は隣のコースで待っている生徒会役員に話しかけられた。


 「申し訳ないが、俺達は新聞部に負けるわけには行かないんだ。あんな屈辱的に追い返される経験をしたらな!!」

 「・・・・・・俺のことを笑って追い返されたのかお前は。随分勿体ないことをしたもんだな」

 「うるさい!!恋愛作家め!!」

 「うるさいのはお前だ!!俺はもう小説は書かないって決めたんだ!」


  二人が睨み合っているところを栞が慌てて止めて、バトンパスに集中するよう匠に言った。

  私が匠に渡した瞬間、匠は駆け抜けていった。仏頂面のあの生徒会役員を楽勝で追い抜いて、一気に一位の横に並んだ。

  そして私達は陸上部と数秒差で二位でゴールした。私は喜ぶしかなかった。どこからか走ってきた奏が何故か私に飛びついた。


 「おい嵯峨匠!!次こそは見返してやるからな!!生徒会長になってお前のことを見下してやる」


  まるで喧嘩を売るかのように叫んできたのは生徒会のアンカー。仏頂面の彼である。匠も匠で売られたものは買ってしまう奴なのだ。


 「見下すだー?それならこっちは部長になって生徒会のお厳しいルールを変えてやろう」

 「ちょ、ちょっと?!二人とも何か色々方向性変わってない?」


  と一人で栞があたふたする中、私達はやれやれ、と肩をすくめることしかできなかった。たかがリレー、されどリレー。男とは勝負ごとには馬鹿みたいに挑むものだ。というか馬鹿なのだ。別に私もこういうことを言いたかったわけじゃないのだが、まあ良いか。

  体育祭が終わればすぐ学園祭が待っており何事もなく無事に学園祭は終わった。学園祭期間、部室は部室ではなく栞との撮影会と化していたが。

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