人魚物語

木兎 みるく

第1話

空で暮らす鳥は、空を飛ぶ。


海で暮らすペンギンは、海を飛ぶ。


海で暮らす人魚は、海を泳ぐ。


空で暮らす人魚は、空を泳ぐ。




日の光がまぶしい春の日のこと。ティンクという名の少女が、空を泳いでいた。


金色の髪。足はなく、胴から下には鱗だらけの尾びれが生えている。彼女は人魚だった。


首に下げている貝殻のペンダントが、日光を浴びてキラキラ輝いている。


「ティンク~!」


ティンクがしばらく空を散歩していると、友達の人魚が泳いできた。


「もうすぐご飯できるって。帰ろ」


「ありがと~♪」


彼女達は高い山の奥深く、人間に見つからないようなところに住んでいる。


ティンクと友達は、自分達の家がある山に向かって泳ぎ始めた。


「そのペンダント、綺麗だね~。どこで手に入れたの?」


「これ? お母さんにもらったの。お母さんもおばあちゃんからもらったんだって」


ティンクはペンダントにふれる。冷たくすべすべした感触が、心地いい。


「宝物なの♪」


「何でできるの?」


「わかんない。地上のものみたいだよ」


ずっと空に住んでいて、地上に降りたことのない彼女たちは貝殻を知らない。


ただ、海は知っていた。空から見える、青い水の集まりという認識でしかなかったが。


「ねぇ、ちょっとよく見せて」


「いいよ~」


ティンクはペンダントを首からはずし、友達に渡そうとした。


そのとき。強い風が吹いて、友達がペンダントを受け取る前にペンダントがティンクの手を離れた。


風にあおられながら、ペンダントはどんどん落ちていく…


「きゃ~! 待って待って!」


ティンクは叫ぶと、ペンダントを追いかけてどんどん降りていく。


「ティンクだめだよ! 地上に降りちゃいけないって掟があるじゃない!」


友達の叫び声も無視し、ひたすら追いかける。


しかしティンクの努力もむなしく、ペンダントは海に落ちた。


間近で海を見るのは初めてだった。しかし今はそんなことを考えている場合ではない。


『どうしよう……私、泳げないし……』


どうすることもできずに、ただ海を見ていた。すると、海面から少女が顔を出した。


自分と同じように、尾びれを持つ少女だった。

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