SS(サイト時代)

木兎 みるく

おばけのピアニスト

今日も夜の小学校から、悲しげなピアノの音がします。弾いているのは、私です。


私はおばけのピアニスト。夜に音楽室のピアノを弾いて、皆を怖がらせるのが仕事です。



私がピアノを弾くと、人々は震え上がります。そして、皆一目散に逃げていきます。


誰も、私のピアノを曲の最後まで聴いてはくれません。


怖がらせるのために弾いているのですから、それは当然のこと。


けれど心を込めて弾いている私にとって、それはとても寂しいことでした。




ある夜のこと。私はいつものようにピアノを弾き始めました。


ポロン…ポロロロン… 悲しげな音が響きます。


音楽室の窓から、慌てて逃げていく人の姿が見えました。


今日もまたいつもと同じ。誰も、最後まで聴いてはくれないようです。


『今日の仕事はこれで終わり。』


そう思ってピアノのイスから立ち上がったとき。


パチパチパチパチ~☆


うしろで手をたたく音がしました。驚いて振り返ると、小さな女の子が拍手しています。


「おばけさん、上手だね~♪」


その子は笑顔で、私のピアノをほめてくれました。


「…………」


言葉を返せずにただ驚いている私に、女の子は更に言いました。


「でも、楽しくない!ピアノは楽しく弾いて、聴いている人を楽しくさせるのが大切なんだって。」


女の子はかわいらしくニコニコ笑っています。私もつられて、少し笑顔になれました。


「だからおばけさん、今度から楽しく弾いたらいいよ♪」


その言葉を、私は黙って聞いていました。考えていたのです。生きていたころ憧れていたピアニストのこと。


そのピアニストの弾くピアノを聴いていると、いつも笑顔になれたこと。


「じゃぁね!今度から楽しく弾いてね♪私の家近いから、窓からちゃんと聴こえるから!」


女の子はそう言って帰って行きました。




今日も夜の学校から、楽しげなピアノの音がします。弾いているのは、私です。


私はおばけのピアニスト。夜に音楽室のピアノを弾いて、聴いている人をを楽しませるのが大好きです。


今度是非、聴きに来てくださいね。

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