ババ抜き
戸松秋茄子
old maid
0
漫才コンビなんてものをやっているとまず訊かれるのが、結成のきっかけだった。
質問に答えるのは決まって相方の役目だった。彼は適当な冗談をさしはさみながら面白おかしく脚色された結成のエピソードを話す。それは彼の中で一つのネタとして完成されていた。何度も話されるうちに流れが洗練され、時にそれが自分たちのことだということを忘れるほどに脚色された作り話。僕にできることといえば、相方が用意したボケに対して決まりきったタイミングでツッコミを入れることだけだ。
やがて、結成秘話のオチが決まり、聴衆の笑いを引き出すことに成功すると今度は別の質問が飛んでくる。
コンビ名の由来は何ですか?
この質問に相方がちゃんと答えたためしはない。いつも、僕の方を向いて「何でなんだ?」と目で問うてくるだけだ。この時ばっかりは結成以来揺らいだことがなかったボケとツッコミの関係が逆転する。僕は意味深げに微笑み、「さあ、なんでだっけ」ととぼけるばかり。「覚えてないのかよ」という相方のツッコミは本業の僕に言わせてもらうとキレがない。
でも、本当は覚えている。いつか、芸人として大成して自叙伝を書く機会でもあれば、そのことについて書くつもりだ。そして、それはネタとして脚色された僕らの結成秘話の真実についても語ることになるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます