君の名字は10000ボルト

この世には難読の名字というのがある。

ぼくの名まえは、漢数字の「一」と書く。

読める人はまずいない。

「いち」「はじめ」ちょっとひねっても「いちもんじ」

小学校の卒業式のとき、校長先生が卒業証書に書かれたぼくの名まえを読めず一瞬固まってしまったという苦い思い出がある。

ぼくの名まえは「にのまえ」という。

数字の「二」のまえにあるから。

とんちのような話だ。

ちなみに日本のどこかには数字の「二」が名字というひともいるらしい。

読みかたは「したなが」さんだそうだ。

この難読名字のせいで「佐藤」さんや「鈴木」さんとはどうも仲良くなれない。

べつにコンプレックスを感じてるわけじゃないけど、なんか生きてる世界が違うみたいな。

ちょっと大げさかな。

とにかくぼくの彼女いない歴が実年齢と等しいのは、名まえのせいだと思うことにしている。

高校二年の夏、うちのクラスに転校生がやって来た。

女の子だ。

えくぼが少し可愛いかな。

でもそれだけ。

とくに目のさめるような美人というわけじゃない。

でも彼女が黒板に自分の名まえを記しながら自己紹介をはじめたとたん、ぼくは恋に落ちてしまった。

「はじめまして。父の転勤の都合で北海道からやってきました。名まえは、つなしまりな、っていいます。つなしは、えーと、漢数字の十と書きます。ちょっと変わった名字でしょう? だからみんなびっくりするんですよね」

そういって女の子は微笑んだのだ。


――たちまちぼくと彼女のあいだに電流がほとばしった。

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