2人で諸行を無常ってみる
「それが制服?」
「わ。月出くん、その言い方NG」
うーん。法衣、とか言えばよかったか。神社の巫女装束ならもてはやされるんだろうけど、坊さんの黒衣じゃなあ・・・まあ、小倉姪さんは本業だけあって似合ってると思うけど。
「みんなにも着てもらうからね」
ゼミ生3人して小倉姪さんのお寺、月影寺の御本尊の前で法衣を着、ひととおりお経を小倉姪さんの後について唱えてみた。
「うん。みんな中々上手。これなら檀家さんも違和感ないと思うよ」
「違和感とか、そういう問題?」
「何事も感性だから」
まずは4人でぞろぞろと最初の檀家に向かった。自転車で。
「こんにちはー、月影寺ですー」
奥からかろうじて体は動くがファンヒーターの灯油タンクを満タンにして運べないので半量ぐらいに抑えてます、という感じのおばあちゃんが玄関に出てきた。
「あらあら、跡取りさん、ご苦労様です。寒かったでしょう、どうぞどうぞ。あらっ?」
「ほら、ご挨拶!」
「こ、こんにちはー」
男子3人で間抜けに小学生みたいな挨拶をした。
「あらあらあら。こんな立派な御坊様が3人も。どうしたの、跡取りさん?」
「見習い小坊主です」
「う・・・」
間違ってはいないのでそのまま上がりこむ。
「はい。では失礼します。ほら、みんな経本開いて」
「正座、だよね・・・」
「そうだよ、月出くん。当然」
一応練習はしてたけど本番では小倉姪さんが滅茶苦茶速く読むのでモニャラニャラという風にしか聞こえないし発音できない。
チーン、とリンを鳴らして終わった。
「跡取りさん、何か法話を」
「はい。ではでは。昔々あるところに後妻さんがおりました」
「はいはい」
「後妻さんの息子さんは早逝して位牌を仏壇に置いて毎日供養してました。ところが亡くなった先妻やら先祖の位牌を仏壇の奥の方にずいっ、と押しやって我が子に向かってだけ大事に大事にお経を上げてたんだそうです」
「あらいひどい。どうなったの?」
「我が子は成仏できずウロウロウロウロ。やっぱり亡くなった旦那さんが夢枕に立って、狭くてかなわんから広いところに皆んな並べて置け! って叱ってくれて悔い改めて、我が子も成仏できたそうな。めでたしめでたし」
「結構なお話、ありがとうございます」
お茶をずずっ、と飲んですぐに次の檀家へ。
次の檀家は老夫婦2人。小倉姪さんに経本を渡されて、なんだか違和感があったけど、そのまま読んでたら最後に、
「なんみょーほーれんげきょ、げきょげきょ」
で終わった。玄関を出た所で僕は詰問した。
「ね、ねえ、小倉姪さん。さっきの家は南無阿弥陀仏でこの家は南無妙法蓮華経。宗派とか無視していいの?」
「いいのいいの。同じ仏教なんだから。クロスオーバーってやつ? より多くの檀家さんによりきめ細かなサービスを。ミクスチャー・ロックみたいなもん?」
小倉姪さん・・・普通じゃないってわかってたけど。
まあその普通じゃなさの高純度に僕はなんだかときめいてる。
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