2人で諸行を無常ってみる

「それが制服?」

「わ。月出くん、その言い方NG」


 うーん。法衣、とか言えばよかったか。神社の巫女装束ならもてはやされるんだろうけど、坊さんの黒衣じゃなあ・・・まあ、小倉姪さんは本業だけあって似合ってると思うけど。


「みんなにも着てもらうからね」


 ゼミ生3人して小倉姪さんのお寺、月影寺の御本尊の前で法衣を着、ひととおりお経を小倉姪さんの後について唱えてみた。


「うん。みんな中々上手。これなら檀家さんも違和感ないと思うよ」

「違和感とか、そういう問題?」

「何事も感性だから」


 まずは4人でぞろぞろと最初の檀家に向かった。自転車で。

 20歳はたちなんだから免許取って車で回ればいいのにと言うと、免許は高校卒業時に取得済みだという。檀家の家は得てして街中の狭いエリアに密集しているから路駐して迷惑をかけないようにという配慮だそうだ。


「こんにちはー、月影寺ですー」


 奥からかろうじて体は動くがファンヒーターの灯油タンクを満タンにして運べないので半量ぐらいに抑えてます、という感じのおばあちゃんが玄関に出てきた。


「あらあら、跡取りさん、ご苦労様です。寒かったでしょう、どうぞどうぞ。あらっ?」

「ほら、ご挨拶!」

「こ、こんにちはー」


 男子3人で間抜けに小学生みたいな挨拶をした。


「あらあらあら。こんな立派な御坊様が3人も。どうしたの、跡取りさん?」

「見習い小坊主です」

「う・・・」


 間違ってはいないのでそのまま上がりこむ。


「はい。では失礼します。ほら、みんな経本開いて」

「正座、だよね・・・」

「そうだよ、月出くん。当然」


 一応練習はしてたけど本番では小倉姪さんが滅茶苦茶速く読むのでモニャラニャラという風にしか聞こえないし発音できない。

 チーン、とリンを鳴らして終わった。


「跡取りさん、何か法話を」

「はい。ではでは。昔々あるところに後妻さんがおりました」

「はいはい」

「後妻さんの息子さんは早逝して位牌を仏壇に置いて毎日供養してました。ところが亡くなった先妻やら先祖の位牌を仏壇の奥の方にずいっ、と押しやって我が子に向かってだけ大事に大事にお経を上げてたんだそうです」

「あらいひどい。どうなったの?」

「我が子は成仏できずウロウロウロウロ。やっぱり亡くなった旦那さんが夢枕に立って、狭くてかなわんから広いところに皆んな並べて置け! って叱ってくれて悔い改めて、我が子も成仏できたそうな。めでたしめでたし」

「結構なお話、ありがとうございます」


 お茶をずずっ、と飲んですぐに次の檀家へ。


 次の檀家は老夫婦2人。小倉姪さんに経本を渡されて、なんだか違和感があったけど、そのまま読んでたら最後に、


「なんみょーほーれんげきょ、げきょげきょ」


 で終わった。玄関を出た所で僕は詰問した。


「ね、ねえ、小倉姪さん。さっきの家は南無阿弥陀仏でこの家は南無妙法蓮華経。宗派とか無視していいの?」

「いいのいいの。同じ仏教なんだから。クロスオーバーってやつ? より多くの檀家さんによりきめ細かなサービスを。ミクスチャー・ロックみたいなもん?」


 小倉姪さん・・・普通じゃないってわかってたけど。


 まあその普通じゃなさの高純度に僕はなんだかときめいてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る