2人 for the world

 大学生っていう属性はあんまり好きじゃないな。

 なんか、保留中みたいな感じがしてさ。

 ゼミの方針だからSNSには実名出さなきゃいけなくって。それでも僕は地に足ついてますよ、っていう雰囲気出したくてこんな風にプロフィール載せてる。


月出つきで 日昇光ニショーコー

金星かなほし大学 3年生

☆井ノ部経営ゼミ在籍

(指導教官:井ノ部 薫 准教授)

☆普通免許、自動二輪

☆趣味は読書、ライブハウス、あと神社仏閣巡り

☆小説(読み、創作)・音楽・映画・漫画のお好きな方、当然経営学に興味がある方も、絡んでくださいね。


「種田」

「うん?」

「一目惚れって言葉があるだろう」

「お。なんだ、可愛いのか?」

「先走るなよ。見染めるって言葉もあるよな。そっちの方なんだな、感覚的には」

「ふうん。ちょっと上から目線ぽいな。問題は可愛いのかどうかだ」

「普通だな」

「なんだそりゃ。どういうシチュエーションだ」

「護国神社にいた」

「また神社か。まあ、お前の趣味だから別にいいけど。で、見た目が普通なら何が良かったんだ?」

「泣き顔」

「・・・趣味悪いな。でも、神社で泣いてるってなんなんだよ? ずっと昔親戚が死んで神式の葬儀に出たことあったけど、それか」

「いや。普通に参拝に来たっぽかった。普段着だしな」

「へえ。泣き顔が可愛かった?」

「まあ、泣きっぷりが良かったな。振り切れてて」

「まさか、声出して泣いてたのか」

「ああ。わんわん泣くってのを実際に見たのは人生初だな」

「やめといた方がいいんじゃないのか? 人前で声出して泣くなんて、普通じゃないだろ」

「そうか?」


 学食で種田と別れた後、ゼミ部屋に向かった。単に経営学ではなんのインパクトもない昨今、インパクトって一点だけなら井ノ部准教授の研究は群を抜いてる。


『いじめ経営学』


 なんでもアジア地域で仏教を国教としている国が人心のモラルだけでなく、仏教から国全体のガバナンスを作り上げているという伝統に着目し、企業経営・組織経営・学校経営などからいじめの要素を根絶すれば労働生産性・企業統治が急伸するはずだ、ということを主張する論文を発表し、学会を困惑させている。


 だからお互いも、『さん』付けが基本だ。


「こんちは、す」

「あ。月出さん、こんにちは」

「井ノ部さん、今日の仕事は?」

「そうね。ゼミのブログ、何か記事書いて更新してくれる?」

「OK」


 言い忘れてたけど、井ノ部さんは女性だ。

 しかもアラサーで知性溢れる容姿の。

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